矛盾の世界
地獄だった...。
私を迎え入れてくれた町の皆は殺された...
いや...違う!!
「私が...殺したんだ...」
途方もなく長い道をユイナと歩いていく。
道に転がる無数の死体。物凄い腐敗臭。
こんなものにも慣れてしまった。
「誰か...助けてよ..」
しかし歩く足は止まらない。
たとえその先に何もなくて、また絶望に染まるとしても
そんな少女の事を心配してか、ユイナは声をあげて、もう休もうと言うようにその場で止まる。
「そうだよね...。まだ進まなくちゃ駄目だもんね。休まないと」
近くの木の集まっている魔獣に見つかりにくい場所にテントを張る。
食料は町の余っていた物を貰い、他にも便利な物を持ってきた。
魔力で火を着けるライターのようなもので集めた木の枝に火を灯す。
この状況になってから、知ったけれど力が弱い魔獣は火を嫌う。
「私を殺せる魔獣なら来てもいいのにな...」
だけどそのような事は起きなかったな...。
今まではどんな魔獣も火を恐れてか全然近寄らない。
「ユイナ」
ユイナを呼んで一緒に眠りにつく。
テントの周りには三ヶ所火を灯したので、よほど強くないと寄ってはこないと思う。
「明日はきっと会えるかな...?」
. . .
テントの中に薄く日差しが入り込む。
「おはようユイナ」
ユイナの頭を撫でてから、ご飯の準備を始める。
町から持ってきた食料は10日分程、この食料が無くなる前に新しく町を見つけるか...
きっとないと思うけど生きている人に会わないとな...
「会えたらいいな」
朝食を終えてまた荷物を背負い歩き出す。
相変わらず何も光景は変わらない。永遠と続く長い長い道のり。
「本当に...誰も居ないんだ..」
心はそうやって痛くなって歩くの止めたくなるけど、決してあきらめない。
まだ皆に会ってないから。
「アルクレア...」
いつももみたいに手のひらの紋様に語りかけても何も...
「え...!?」
かすかに赤く光った!!
「アルクレア!!どこにいるの!!」
しかし一度だけ光っただけでそれ以降は変化を見せなかった。
でも...まだ生きている。それだけで心は軽くなる。
しかし異変はいつも突然だ...
「お母さんの料理とっても美味しいんだよ」
「あ..!!」
頭を抑え地面に倒れこむ...
「ち...違う!!私....私...あああああああ」
頭に流れ込む多くの記憶。
少女の青年の少年の老人の記憶...
「ああ...くぅ....ああああああ!!」
どうして私は...なんで!!
コロシタ。
違う!!違う違う違う違う違う
キライ
「やめろおおお!!」
地面で、もがき苦しみだした主人を見てユイナは大きく鳴く。
「ゆ....ユイナ...」
コノオオカミモコロス
「駄目!!やめろ!!」
ドウセダレモイナイ
クルシイダケ
ツライダケ
「嫌だ!!嫌だ!!」
ナライッソコワシテシマオウ
「やだ!!やだぁ...」
ナクノハジブンガヨワイカラ
クルシムノハマモレナカッタカラ
「私は!!違う!!違う違う違う違う」
マチガッテイルノハダレ?
ソンナノキマッテイル
「駄目だよぉ...駄目だから!!」
コワシタノハダレダ
コワシタノハダレダ
コワシタノハダレダ
「消えろ!!!消えろ!!」
シネナイノハナゼダ
コンナコトヲシタノハダレダ
「そんなの...し..らな..い」
アイツダ
アイツダ
アイツダ
「お願いします...もう...やめてぇ」
チイサナショウネン
ウラギリノオトコ
ショウネンノハハ
ショウネンノチチ
ヤサシイロウジン
コロシタノハダレダ
「わ...わた...!!....違う!!」
イツモノエガオ
ヤサシイギルドノミンナ
ナゼキエタ
「誰だ!!消えてよ!!」
キエナイ
キエレナイ
シネナイ
オワレナイ
「アイツダ」
ソウダアイツダ
「アイ....。うううぅ...。ち...ちがう」
マチガッテナイ
ワルイノハアイツダ
コンナコトヲシタノハアイツダ
オマエ
ワタシ
テンシ
ダレガワルイ
「テンシ....テンシ」
頭をかきむしるような音と共に記憶は混濁し、思考は何かに奪われていく...
お願いだから....助けて...。
殺して...
「おじさん....。ナルルさん...。嫌だよぉ」
頭には数えきれない死の映像が流れ込んでくる
耐えられない痛み。
「アルクレア....守りたかった!!ニア!!守れなかった!!」
ナンデシンダ
ナゼコロシタ
「私は悪くないの!!」
ヨワイカラ
ワタシガヨワイカラ
マモルチカラナカッタ
「弱いから....?何でなの!!」
コワイノカ?
ツライノカ?
イタインダロウ?
「痛いよ...悲しいの...」
ダカラモウオワロウ?
「まだ...駄目なの」
ヨワイクセニ
「アルクレアは...どうなるの..」
ドウセモウシンデル
「嘘を....いうなああああああ!!」
マモレナカッタダロウ?
「だから!!お前は誰だ!!」
オマエハマモレナカッタ
「消えて...お願い...だか..ら」
アア、ソウシテオマエハニゲルノカ
ソウヤッテナニモデキズニ
「ユイ...ナ」
しかしもう近くにはユイナは居なくなっていた...
また...一人だ..
心を絶望が満たしていく
「また...誰も居なくなるんだ...」
ソウダオマエハヒトリ
ナライッソスベテステタホウガイイダロウ?
クルシイダケナンダカラ
「そうダネ」
ソウダ
スベテコワソウ
「ソウスレバイインダネ」
ミヲユダネロ
オワリハモウハジマッテイル
「オワリ...」
モウアイスベキモノモウシナッタノダ
マモルベキモノモウシナッタ
「オワラセテシマエバイインダ」
全ての絆を断ち切ればもう痛みは無くなる。
悲しくなくなる...。
そうだった。この世界はもう終わっている...
ならこの不完全に残ってしまった全てを無くせば終われる..
「よくやったね」
後ろから声がして、振り返る。
そこには半分が黒い髪もう半分は白い髪の青年が立っていた
青年は剣を抜く。
「あなたは?」
「僕はルミウス·ニスタルア」
「へえ...。でも、今いいところなんだから邪魔しないで」
「そんな事を言わないでくれ」
「終末の天使」
自分では思ってはいない事を言う私。
私に向かって終末の天使と言う青年。
青年は白い光と共に剣で攻撃を始める
「これが君のしたかったことか...終末の天使!!」
「あら...積極的な男は嫌いですよ」
少女は剣を黒い壁で防ぎ、即座に壁から槍を連射する。
「そんなもので僕が殺せるとでも?」
黒い槍は白い光で消えていく。
壁も徐々に薄くなっていき、砕け散る。
「面倒な技ね」
「君ほどではないよ」
黒い球体が辺りに出現していく。
やがて数百にまで及んだ球体は一斉に青年に向かっていく。
「これなら防げないでしょう?」
「流石終末の天使、ここまでの魔法を数秒で発動させるんだね」
「こんなの序の口よ」
しかし青年は少し笑うと...
「まだ自己紹介は続いてるよ」
「?」
「僕はルスミラク・ニスタルア」
《剣聖だ》
その一言と共に剣は黒くなり辺りを歪めていく...
球体は青年に到達する前に全て消えて...いや吸い込まれていく。
「なによ...それ」
青年を包んでいた白い光は黒くなっていく...
やがて全てを吸い込むようにどす黒くなる
「剣聖とあろうものが...そこまで堕ちるとはね」
「いやいや。これも君にとっては見飽きたものだろう?」
「そうね...。あの時の忌々しい男そっくり」
青年の剣も黒く染まっていく。
「これでいいかな?」
「あの男も言っていたことだけれど、黒どうしの戦いは...」
「純粋な殺し合い..だろう?」
「本当にあいつそっくり。殺したくなる...!!」
「僕は負ける気はしないけどね」
「シトラの繋がりも利用できる今ならあなたに勝ち目はないはずだけれど?」
少女の手のひらの紋様は黒く光っていく。
そして体に闇を纏い、握りしめた剣には黒い炎を纏う。
「これで終わり...ね!!」
剣から闇が伸び攻撃を始める。
少女はその場を動かないが、闇が勝手に攻撃をする。
空からの黒い槍に、地面から吹き出る黒い炎、どれも数秒の攻撃だが、剣聖はいとも容易く剣で防ぎ、次の攻撃を展開する。
少女は微笑を浮かべる。
「剣聖がここまでの力を持っているとは思わなかった。少し甘く見すぎたみたいね」
「何を戯れ言を....まだ本気すら見せてないだろう?」
「そうね。だけどあなたに防ぎきれるかしら?」
闇はやがて形を帯びて、黒い人形になる。
弓、槍、剣、魔法を使う四人の影。
「人数を増やしたからといって勝てるはずがないよ」
それぞれの攻撃を空間が呑み込んでいく。
そのあと剣聖は魔法を使う影と槍使いを切り裂く。
「辺りの空間を歪めて無効化...か。あなたもレアトの関係者かしら?」
「そのレアトとかいう人は分からないけれど、狂気の科学者の事なら...そうだね。お祖父様の話だと僕らは罪人...。つみびとと呼ばれ、憎まれ、愛された家系だよ」
剣聖は虚空を見つめ何かを思い出したようにため息を溢す。
「少し隙を見せすぎじゃない?」
少女は虚空を見つめていた隙に剣で直接攻撃をして首をはねる...はずだったが、地面に叩きつけられる。
「わざとだよ。君を動かせる必要があったからね。今の状況を簡単に教えると君がそこで見物をしてた時に僕は足から光の鎖を仕込んでいたのさ」
「それは迂闊だったわ」
「仕方ない事だよ、その鎖は君には見えないのだから」
「流石レアトの関係者、随分極悪な魔法を創ったのね」
そう言う少女の顔は焦りを見せず、ただ笑っていた。
剣聖はそんな少女を見下ろす。
「どうしてそんなに余裕そうなのかな」
「この状況を楽しんでるのよ」
「流石だ。自分自身の終末すら笑っていられるのか」
そんな言葉を発した剣聖に対して大きな声で笑い出す。
「.....。大分イカれてるね」
ひとしきり笑い終わると少女は何事もなかったかのように立ち上がる。
「な...!!」
「あら、驚いた顔も可愛いのね」
即座に首を撥ね飛ばした。
首を無くした胴体は力が抜けその場に崩れ落ちる。
そんな光景を見て、少女...いや天使は笑う。
「滑稽な姿だこと、その体だけでも綺麗よ」
体に手を伸ばし、撫でるように触る。
首から流れ落ちる血に触り、手についた血を舐める。
「美味しいわぁ」
「それは光栄な事だね」
殺したはずの剣聖の声が聞こえ、天使は即座に辺りを見渡す。
しかしあるのは多くの死体と、先ほど殺した剣聖の亡骸のみ。
「一体どこから...」
しかし天使が言葉を発した瞬間に空間が歪み、中から剣聖が現れ少女の体を貫く。
「残...念。この体は私のじゃ...ないわ」
「知ってるさ。シトラの狼に聞いたからね」
「な...ら...どうして...かしら」
「君の居場所を感知するには魂の痕跡を辿る必要があるから、こうして君だけを貫いている」
少女の体は貫ぬかれてはいるが血は流れていない。
貫いている剣は白く輝いている。
「白は人を殺すことはできないんだ」
「へえ....じゃ...あ..この痛み...は?」
「君を強制的に追い出すのだから痛いに決まっているだろう?」
「くそ...が!!いずれ会ったら殺して...やる!!」
「じゃあ招待状は貰っていくよ」
剣を体から引き抜くと白い鎖が出現する。
その鎖はやがて見えなくなり、剣を引き抜かれた少女の体は力なく地面に倒れこむ...がその瞬間に草むらからユイナが現れ、受け止める。
「良かったねシトラ。良い狼を手懐けておいて」
そう言って剣聖は少女の体を持ち上げる。
しかし主人をどこかに連れ去ろうと思ったのかユイナは威嚇する。
そんなユイナに優しく...
「大丈夫。安全な所で休ませてあげるだけだから」
ユイナは少しの間威嚇を続けたが主人に害が及ばないのを判断し、道を譲る。
剣聖は少女の体を持ち上げ歩き出す。
「君も来ると良い。色々聞きたい事もあるしね」
そう言って剣聖は歩き出す。ユイナもその後に続く。
「こんな少女が使徒...か。可哀想な子だ」




