終末の物語
少女の絶望はここから始まる
薄暗い部屋、窓もなく食料もない。
最後の言葉は待ってて、だった。あれからどれだけ時が流れたろう...。
1人だけで、なにかを待ち続け、少女は今日も眠りにつく
...
「どうして...誰も来てくれないの」
少女にとって1人でいるのは苦痛だった。
夢を見ることはない、だが起きても誰もそこには居ない。
それが、少しずつ心を壊していく。
「皆...」
いつもの皆の顔をもう何日も見ていない。
それも少女を駆り立てる要因の1つだった。
「もう出てもいいよね」
薄暗い部屋のドアは軋みながら開いていく。
長い階段を登り、少女は10日ぶりに世界を目にする。
だが慣れ親しんだ町は、そこにはなくただ無数の死体が横たわっているだけだった。
「アルクレア」
名前を読んでも来てくれない。
分かってても呼びたかった。来てほしかった、助けてほしかった。
ガサッ!
音がして少女は振り向く。しかしそれは少女の待ち続けたものではなく、魔獣の群れだった。
精一杯走るが魔獣は少女よりも当然足が早く、少女は死を迎える。
一度目の死...
「....ここは」
少女は薄暗い洞窟の中で目を覚ます。
痛みが右腕に走り、見てみると手がまだ再生しきっていなかった。
この傷を見るにまだ一度目の死からあまり時間は経っていない。
少女は近くにあった石を拾い、火をつける。
「え...?」
少女が目にしたのはおびただしいほどの死、町であった所にも劣らないほどの死体。
腐敗臭が鼻腔をみたし、少女は吐き出した。
しかしもう何日も食事を取っていない少女は吐瀉物ではなく、血を吐き出す。
絶望している少女の喉元に魔獣が噛みつく。
命を失っていく感覚が身体中を満たし、少女は二度目の死を迎える。
二度目の死。
少女はもう一度目を覚ます。
同じ洞窟らしい、腐敗臭はよりきつくなっており、それが時間の流れを教えてくれた。
辺りに魔獣が集まり、少女を攻撃してくる。
少女は体に炎を纏い、全てを焼き尽くす。三度目の死だった。
少女は再び目を覚ます。
その時もう正常では無かったのだろう。
少女にとって死は当たり前のものとなっていた。
何度も死を迎え、6回目でようやく長い洞窟を出る。
空は辺りの惨状とは似合わないほどの晴天。
少女は死体を頼りに町へと戻る。
町は相変わらずの、死体の山。
子供、女性に男性、老人も全て例外なく殺されていた。
覚えたばかりの道を進み、ギルドへと向かう。
しかしそこにはもう..。何も残っていなかった。
作りかけの食事が厨房にあったのでそれを食べ、少女はギルド内を探索したが、なんの痕跡も残ってはいなかった。
少女はギルド内にあった剣を持ち、歩き出す。
その剣はかつてリトが使っていた剣だった。
その剣で襲い来る魔獣を全て例外なく殺していった。
まるで、絶望を打ち払うように...。しかし何度殺そうと心は壊れていくばかり。
これが絶望か。
しかし少女は何日ぶりかの生きている声を耳にする。
少女は耳を澄ませ、声を頼りに助けだす。
それはまだの1mほどの子供の狼だった。
ひどく弱っており、今にも死にそうだった狼に近くの店の食用肉を与え、世話しつづけ狼は2日ほどで回復した。そのあと狼は少女にとても懐いて、一緒に付いていく。
町を探索し終わる頃には、少女も狼も仲良くなっていた。夜は寄り添いながら眠りにつき、朝になったら近くの店を漁り、食事をとり生きてきた。
「あなたにも名前が必要だよね」
狼と出会い15日は過ぎた頃、狼に名前をつけることにした。
かつて少女の希望だった五人の名前を元にユイナと名付ける。
狼は喜ぶように少女に寄り添う。
そして町を出て、人を探す事にした。
狼は乗ってというように、鳴く。
少女は最低限の食料と荷物を持ち、狼に乗る。
少女にとって初めて狼に乗った、少女を心配してかあまり狼は速度を上げない。
3日もする頃には別の町を見つけ、再び人を探しだす。
しかし少女がいくら探し回っても、ただ死体が無惨に転がっているだけだった。
少女の心は徐々に磨り減っていく。狼だけが少女に希望をもたらしてくれた。それほどまでに狼は少女にとって大切な存在になっていた。
「なんで...誰も居ないの...」
そう少女が泣いている時はそっと寄り添い、暖めてあげたりしていた。
「誰か...。そこに居るのですか?」
それは唐突だった。少女に希望が生まれた瞬間でもあった。
その声は下から聞こえた。少女は声を出す
「誰か居るんですか?」
「やはりそこに居るのですね。早くお入りなさい。魔獣に襲われてしまう」
突如地面に円形の穴が開き、中から老人が出てくる。
そして中を覗いてみるとそこは大きな町だった。
「早く来なさい」
「あ...。はい」
中に入ると穴は塞がり、普通の地面と変わらなくなる。
老人はこの町の長である。
近くの町の崩壊を知って、何かよからぬ事が起きると思い、町の住民を地下に避難させたらしい。
案の定、移動中に攻撃を受け、町居た半分以上の人が死んだ。
地下に来るのを拒むため、まだ町に居た人を見捨て、地下に安住の地を造ったという。
「私は長などと言われるほど出来た人間ではないのですよ」
この地下は何百年前にあった戦争の際の避難場所として作られ、多くの人々を助けたという。
しかし戦争が終わり、地下に住む者は誰も居なくなり、町民は存在を忘れていった。
しかしこの町の長は地下の事を代々知る義務があり、緊急時に使用するようにしていた。
「しかし私最低限に事はしたつもですよ。町民を見捨てた事を非難されてもいいのです」
「それがおじいさんに出来る事だったんから、誰も責める人はいないんじゃないですか?」
「いえいえ、そんなに人というのは甘くないものですよ。現に今この町では分裂しているんですから」
「分裂ですか...」
「ええ、多くの人々を見捨てた私に代わり、新しい長が必要だと」
「どちらが多く支持されているんですか」
「私は降りる気でいたのですがね、町の4分の3の方が支持してくれています。だから私は今度こそ全員を守れるようにしようと思っているのですよ」
この地下に来て、まだ最初の方は皆団結していた。
しかし地上に妹を見捨てられた、一人の男が反旗を翻し一部の町民と共に東を支配した。
西は今の長であるこの老人が治めている。西では食料問題はすでに解決されている。
地下にあった施設を改造し、食物が実る環境を整えた。一方の東では、独裁的な指導者により町民は飢えているらしい。その事も相まって、東から多くの人々が逃げ込んできた。しかし食料は今でも極めて安定しており今では東に住んでいるのは50人程度らしい。
「なら大丈夫じゃないですか」
「しかし東では食料施設を奪う計画が立てられているらしく、どうにか交渉しているところなんですよ」
「大変なんですね」
「そうですね。しかしなぜ地上があんな事になってしまったのでしょうか」
どの人から見ても崩壊は一瞬だった。
大量の魔獣の進行、山から溢れでる黒い霧。なぜ起きたのか考える間もなく町は滅びてゆく。
「それでお嬢さんは何の為に外に?」
「探しているんです」
「探している?なにか大事なものでもあったのかい」
「はい。とっても大事なものなんです」
「そうかい。じゃあこの町もいずれ出ていくのかな?」
「はい。二日もすれば出ていくと思います」
「このまま町に残るというのは?」
「いえ、探さなきゃいけないんです」
「なら二日間ゆっくりと休まれるがよい」
「そうします」
老人との話を終えて、紹介してくれた宿に泊まる事になった。
宿に泊まっているのは、主に東から逃げてきた人達らしい。
家の建設が間に合っておらず、無償で泊めているという。
「あら?新しい方ね」
「この方は地上で探し物をしていたそうで」
「そうなの。地上はどうでした?」
「魔獣が常にどこかに潜んでいて、危険でした」
「そんな中でよくここまで...。ゆっくりと休んでいってくださいね」
「お母さんー」
「あら、どうしたのかしら?」
「お父さんが、お腹空いたって」
「今帰るから待っててね」
「うん!!」
ぱたぱたと元気に宿の中に帰って行く子供。
「大分元気になられましたな」
「ええ、おかげさまで」
「お姉さんは東の人?」
「そうよ。反旗を翻したのは私の親戚でね...。やむなく着いていったのはいいけど、治安も悪く食事すらままならなくなって、こっちに逃げてきたの」
「大変だったんですね」
「あなたに比べればまだ大変じゃないわよ。外は魔獣だらけなんだから」
「あら?その狼は、シルバーフェンリルじゃないかしら?」
「シルバーフェンリルですか?」
「ええ名前どうり成長するにつれて毛は白く輝くとっても希少な狼よ」
「ユイナが...」
「そうよ。なかなか人に懐きづらいの。私も初めて見たわ」
「町で倒れていたのを見つけて、連れて来たんです」
「シルバーフェンリルは懐きづらいけど、忠誠心はとっても高いのよ。きっと魔獣も追っ払ってくれるわね」
「お母さんー」
「もう帰らないとね。...そうだ!!ご飯を食べていかない?」
「いいんですか?」
「そうするといいですよ。部屋の方は手配しておくので」
「じゃあお邪魔します...」
....
「じゃあねーお姉ちゃん!!」
「ご飯美味しかったです。ありがとうございました」
「よかったわ。明日も一緒に食べましょうね」
「僕らも待ってるよ」
「狼さんまた触らしてねー」
2時間程あの家族と一緒にご飯を食べて、ユイナも満足したように鳴く。
久しぶりの人との食事で、たくさん食べた。
おじいさんが用意してくれた部屋に入り、シャワーを浴びて着替える。
久々の入浴で、ユイナも洗ってあげた。
少女は入浴を終えて、ベットのある部屋へと行く。
「ユイナ」
少女の呼び掛けで狼は少女に寄り添う。
「皆大丈夫だよね...」
私の問いに答えるように一鳴きする。
ベッドに寝転がり、アルクレアとの絆の紋様を見る。
うっすらと光るその紋様に安堵しながら眠りにつく。
「....だ!!」
「に...ろ!!」
「急げ!!」
外から聞こえる大声で目を覚ました。
急いで外を見ると、家が焼かれ、子供や老人関係なく殺して回る人達が居た。
剣を取り急いで外にでる。
「これは...」
すでに宿に泊まっていた人達は殺されていた。
しかし遠くでに二人、武器を持って襲っているのが見えた。
「逃げなさい!!」
「お母さん!」
「早く逃げなさい!!」
「はっ!!あの方が改革の為に頑張っていたってのに、てめえは呑気に家族暮らしかよ!!」
「まあ、待てあの方に連れていく前に...?なっ?」
「おっ!!いいねえ」
「お母さん!!」
「早く逃げて!!」
「あなた!!早くニアを連れて逃げて!!」
「...っ!!すまない..」
お父さんらしき人は子供を連れて逃げようとする。しかし二人組の一人が銃で頭を撃ち抜く。
「お父さん!!」
「ニ...ア..に...げ..。」
「逃がすかよ、ばーか」
「ニア!逃げなさい!」
そう言って、お姉さんは男の腕に噛みつく。
「ってえな!!離しやがれ!」
「逃げなさいニア」
「うう...。お...母..さん」
子供は泣きながら遠くに逃げていく。
「離せって!!」
「良かった...ニア頑張って生きるのよ..」
「こんの!!くそアマ!!」
銃声と共に倒れる、お姉さん。
胸から血を流し、地面に叩きつけられた。
「おい!!なにしてんだよ!!殺してどうする!」
「このくそが!!」
何度もお姉さんを蹴りつける男。
「間に合わなかった...。また守れなかった..」
私は長い道を全力で走り、剣を抜く
「ああ!?てめえ誰だ!!ガキ」
「やめろ...」
「あっ??何だって?よく聞こえなかったなー」
そう言って蹴りを強くする男。
「ったく...俺は知らねえぞ」
「来たときには殺されてたって言えばいいだろ」
「その前にこのガキ殺す!」
「それは同感だな」
「....蹴るのをやめろ」
「もっと大きな声でー!!ぎゃはははは」
「俺がすぐ殺してやるよ」
もう一人の男が斧を持って襲いかかって来る。
「やめろって言いましたよ」
「あ?」
剣を抜き炎を纏う...
「っ!!」
しかし剣が一瞬で熱くなる...が剣を離さないで斧を焼き切る。
「なんだよ...それ」
「どけ!!」
頭を銃で撃ってこようとするがユイナが手を噛みちぎる。
「なんだよ!!てめらはよ!」
「うるさい」
首を剣で切り落とし、もう一方の男は心臓を貫く。
「お姉さん...」
まだかろうじて息をしている。
だが心臓を撃ち抜かれていて、やがて..。
「ごめんなさい...」
「旅人..さん?」
「そうですよ」
「ニアをよろ...し..く...ね」
「はい」
「あ...り..が..」
静かに息を引き取る。
また守れなかった...。どうして私は..!!
「ユイナ、ここで待ってて」
私がユイナにそう言っても、着いてくる。
「ユイナ...。待ってて」
心配するように鳴くが、私はユイナを宿に待たせ、外にでる。
辺りはすでに沢山の人が死んでいた。
少女は剣を抜き、たくさん殺した。
数えきれない程の死を与え、少女は気づく。
「私は....どうして?」
目の前に広がっていたのは、少女が殺した死体の山。
中には、この町の長であったおじいさんも含まれていた。
「あれ...?あれ?何で..?」
おびただしい程の死体を見て少女は地面に崩れる。
その時...
「はははははは!遂に地上へ出れるぞ!」
魔法によって隠されていた入り口が開き、大量の魔獣が流れ込んでくる。
「今...行くよ」
魔獣に取り囲まれ食い漁られる男を見る。
男は満足そうに死んでいく。
「...ニア」
お姉さんに頼まれていたんだった。
あの子だけでも助けないと...
「お..姉..ち..ゃん?」
「ニア...?」
声が聞こえ、その方向を見るとそこには目をくり抜かれた少年が倒れていた。
「どうして...」
「お姉ちゃん、暗いよ」
「ニア、それはね目を瞑ってるからだよ」
「でもねお姉ちゃん..。眠いの..」
「うん..。もう休んでいいんだよ」
「お母さん大丈夫かな...」
「うん...。うん大丈夫だよ。きっと起きたら会えるから」
「よかった...。お父さんもいるよね」
「うん...。また会えるよ」
「楽しみだなあ...。お母さんの料理とっても美味しいんだよ」
「そうだね。とっても美味しかった」
「お..姉ち...ゃん、ま..た」
少年は静かに、眠るように死んでいった。
お母さんとお父さんが迎えに来るのを待ちながら..
「ああ...あああああああ」
少女の叫びは魔獣を大量に呼び寄せる。
そして体から黒い霧を発し、瞬く間に地下を飲み込んでいく。
少女が目を覚ました時には辺りの魔獣は全て痩せ干そって死んでいた。
しかしユイナだけは、少女を守るように居た。
「ユイナ...」
狼は少女に近寄り小さく鳴く。
「結局何も...守れなかったな..」
少女は再び眠りにつく...
少女の絶望はこれだけじゃ終わらない




