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天使の刻印と少女の異世界物語  作者: 黒雪うさぎ
15/23

楽しかった1日

薄暗い部屋の中で目を覚ます。頭ががんがんと痛む。

吐き気すら覚える資料の山が目の前に、散乱している


「ここは...地獄か」

「団長、ふざけないでください」

「こんなに苦情があったのかよ...」

「僕は言いましたよ。でも団長は酒飲み対決で無視しましたから。そのツケですね」

「くそっ...堅物どもは他人の幸せがそんなに気に入らないか...」

「町の人をばかにするのはやめてください。ほらまだまだありますよ」

「くそがあああああ」

...

「ユグドとリトは昨日今日のパーティーでの苦情で、稽古つけられないみたいだから、今日は私が剣術を教えてあげようかな」

「ナルルさんはおじさんの剣の師匠で、イースさんには魔法を教えたんですよね?」

「そうだよ。それがどうかした?」

「いや...何でもできるんですね」

「そういう風に育たなきゃいけない環境だったからね」


アミナお姉さんの事といい、ナルルさんの家はかなり厳しいみたいだ。


「さあ、じゃあ今日は実戦をしてみようか」

「実戦ですか...」

「そんなに怖がることはないよ、町の周辺の魔獣はたいして強くないから」

「それでも、緊張しますね」

「最初はそんなものさ。それに今のシトラなら簡単だよ」

「そうでしょうか...」

「マギア・カルリ戦では、体の纏いは強引にやっていたけど、剣の纏いは完全にものにしていたからね」


確かにそうだ。あれほどの熱さと爆発でも、リトさんから借りた剣は壊れていなかった。

でも剣には炎をちゃんと纏えたのに、なぜ体に纏うことが出来なかったんだろう。

そう疑問に思い、ナルルさんに聞いてみると...


「剣とは違って人間の体は複雑でしょ。体に纏う、聞くだけなら簡単そうかも知れないけど、纏うと言っても目、手、足など、多くの場所に均等に力を分けなければいけない。少しでもバランスが崩れるとその部分は使い物にならなくなる。それぐらいリスクが多いんだよ」

「本当に使徒じゃなきゃ死んでましたね...」

「そうだね、だからそれほど危険な行いだった事をちゃんと反省するんだよ」

「はい」


自分では不死に対して嫌悪感を抱いていたのに、結局頼ってしまっていた。

力が強くても、心はまだまだ弱い事が自分でも分かっている。

だから一人じゃなくて皆と戦って学ばなきゃいけないかな。


【平原】

「さてと...。じゃあ初歩の魔獣から行こうか」

「シトラ様、頑張って下さい」

「うん。頑張るよ」


アルクレアと話していると岩山から、手足が細く爪が長い猿のような生物が出てくる。


「魔獣ニッグか。シトラ」


剣を私に貸してくれた後、少し距離をとると、私目掛けて襲いかかってくる


「ニッグは足が速いから、ちゃんと距離を取って戦うんだよ」

「は...いっ!!」


爪が剣の先にかすり、キキッと嫌な音をたてる。

足が速くて、爪が長いから厄介かな...


「ヒキキキキキ」


高い声を出して威嚇しながら、襲ってくる!!


「アルクレア」

「分かっております」


手のひらの紋様がポウッと光る。


「集中して.....」

「ヒキッキ!!」


爪で私を攻撃しようとする。

それを間一髪で避け、剣に意識を集中させる。

そうすると、剣に炎が広がる。


「上手くできて良かった...」


猿は危険だと思ったのか、速度を上げて攻撃をしてくる。


「キキャッ!!」


爪だけを炎で焼き切った。

これで無力化できたから、逃げてくれる...


「シトラ!!油断しないで!」

「かきききき」

「えっ...?」


爪は焼き切れ、血も流れているのに、逃げる事をせずに、私目掛けて口を開け噛みついてこようとする。

魔獣というのは知性が備わっていないのだろうか。

だいたいどの生物も命に危険が生じた場合、逃げるはずだ。

しかし目の前の魔獣は攻撃を止めない。

ニッグの口はすぐ近くまで迫ってくる。


「アスト!!」

「ニギギギガガガガガ」


下から大量の石がニッグ目掛けて飛んでいく。

大量を石を身体中の浴びたニッグは地面に叩きつけられる。


「シトラ様!!怪我はありませんか」


アルクレアが駆け寄ってくる。


「うん...大丈夫、危なかったけど」

「シトラなぜ攻撃をやめたんだい?」

「爪を焼き切ったのに攻撃してきたんです...」

「そんなことでは魔獣が襲ってくるのを止められない」


ナルルさんは少し厳しい口調で...


「魔獣の脅威は単体の強さもあるけど、真の脅威は攻撃をやめない事だ。いくら手を切ったって、足を切断したって、殺そうとしてくる。魔獣は死というものに抵抗がない。そこが私達人間との違いだよ」

「だから躊躇しないで、殺すんだ。いくら弱い魔獣にも気を抜かない事、分かったね?」

「はい...頑張ります」

「まあでもちゃんと魔法の制御ができてるようで良かった」

「ところで...何で私は炎しか使う事が出来ないんですか?」

「知識がないからだよ。魔法に最も必要なのは、理解する事と、練習だね。シトラは誰に学んだのかな?」

「うーん...。魔法について、教えてもらった事なんて無かった気がします」

「それは本当かい?」

「はい。嘘はついてませんよ」


実際、最初に終末の天使と出会い、異世界にきて、リンナ達と.....。

その後はギルドに来て、アルクレアと出会いレアドとの戦い。

この世界に来て魔法について教えてもらった事なんて無かった


「不思議だね...」

「ナルルさんはどれくらいの魔法を覚えてるんですか?」

「うーん...どれくらいだろう?300位かな」

「そんなに覚えているんですか!!」

「そんなに凄い事ではないよ。まだまだ魔法の種類はあるからね」

「ナルル様ほどの実力があれば賢者になれるのでは?」

「何度か言われた事はあったよ。けど賢者になったら、いろいろと制限があるから、めんどくさいんだよね」

「そんなものですか」

「そんなものさ」

「さてと、そろそろ昼食を食べにギルドに戻ろうか」

「賛成です」


三人でギルドに帰る道すがら、ナルルさんに町の事について教えてもらった。

この町は比較的、魔獣による被害は少なく平和らしい。

ただ賢者達がこの町に居ること意外は平凡な町。

一つだけ疑問があった。


「賢者達はなんで、この町にいるんですか?」

「さあね。もう300年ほど賢者はこの町で活動しているから、特に町の人々は気にしていないね」

「ナルルさんの話を聞く限り、王都に近ければ近いほど魔獣の脅威は増していくんですよね?なら平和なこの町にいるより、王都で国を守っていた方が良いと思います」

「王都はここより安全な町で一年に一回魔獣の被害がある程度だよ」

「魔獣が強いんですよね?なら矛盾が...」

「剣聖の存在が大きいんだよ」

「剣聖ですか...?」

「王都では1000年ほど前までは、魔獣の被害があまりにも多かったらしいんだけど、1人の少年によって王都の魔獣は殲滅され、少年の率いていた魔法使いによって巨大な結界が施され、王都に平和が訪れた。」

「そんなに強かったんですか...」

「今でもその少年に勝てる者はいないと思うよ。まあ初代はもう死んじゃってるけどね」

「その少年は私も会った事があります」

「アルクレアが?その時は眠っていたんじゃないのかい?」

「その眠りに協力してくれたのがその少年でした。魔力が異常な程多く、一瞬で魔獣の群れは全滅し王都に闊歩していた魔獣は2日で消えました。そしてその頃の私に出会い、私を眠りにつかせてくれました」

「どうやって?」

「あの時の事はあまり思い出せないので...」


その頃のアルクレアは絶望の底で、なにも感じていなかったのだろう。

しかし一体何者なんだろう?

アルクレアに休息を与え、魔獣を2日で殲滅。

こんな事が少年1人でできることなのかな?


「まあ...今考えても答えは分からないね。話を戻すと王都に平和をもたらした少年の家系は代々王都の護衛を任せられているんだ」

「それが...剣聖ですか」

「そうだね。私も直接会ったことはまだないから、どんな人か分からない」

「そうなんですか。きっと強いんですよね....」

「強いに決まっているさ」


そうこう話しているとギルドに着く。

【食堂】


「ちくしょう...」


おじさんは大量の資料の山を机に置いて、昼食を食べている。

目はどこか遠くを見つめていて生気がない。


「おじさん壊れてきてません?」

「まあ団長の自業自得だよ。僕まで付き合わされているんだから...」

「大変ですね。リトさんも」

「今日中に終わるかな..」

「まあ頑張りなよ、リト。」

「頑張っても一向に減らないから、大変だよ」

「そういうときはこれ!!ほら食べて♪食べて♪」


突如目の前に現れたローナさんはおじさんとリトさんに球形の飴を渡す。

そしてその流れで、アルクレアを引き寄せ...


「な...!?やめてください」

「お姉さん、さっき渡したのは?」

「う~んとね...。やる気が出る食材を大量に凝縮したの♪」


優しいんだなローナさん...。

二人は飴を食べると...


「あら....?サクリナちゃん、ここに置いてあった調味料はどこに行ったのかしら?」

「えっ?そこに紙と一緒に置いてましたよ」

「そうなの?」

「ローナが知ってるんじゃないですか」

「そうね。ローナちゃーん!!」

「どうしましたー?」

「そこに紙と一緒に調味料を置いてたのだけれど、知らないかしら?」

「あれ...?それって魔力補給の調味料ですよね?私使っちゃいましたよ」

「それはマズイわね..」

「何でですか?」

「それね、私がいろいろ調合してできた、劇酔い薬なの!!」


そんなやり取りが厨房から聞こえる

あー...これはおじさん達が...。

しかし思いもいかない事が起こった。


「おお!!なんだかやる気が溢れてきた!!」

「そうですか。なら1人でも出来ますよね。僕はちょっと休みます」

「いいのかよ。せっかくローナが作ってくれたのによ」


一瞬リトさんは苦々しい顔をして諦めたように言う。


「分かりましたよ!!手伝いますから」


そう言ってリトさんも飴を食べて、おじさんと作業を続ける


「本当にやる気が出るんですね」

「言ったでしょ♪やる気が出るって」

「ただ副作用がちょっと...」


一瞬聞きたくのない言葉が聞こえた気が...。

聞かなかった事にしよう。

ジュースを飲み干し、修行の続きをナルルさんと一緒に行こうとした時だった。


「あれ?お姉さん...。これ果物のジュースですよね?」

「そうだけど?どうかしたの、シトラちゃん?」

「いや...一瞬辛かった気がしたので...」

「サクちゃーん。このジュースが辛いって」

「えー?熟したネモトリの木の実だよ?辛いはずが...。あーーーーーー!!!」

「どうしたのかしら?」

「シトラちゃん!!吐き出して早く!!」

「何を言って...る?」


一気に視界がぼやけ、へなへなとその場に座り込む。


「ああ...」

「ちょっとサクちゃん!!なにを入れたの?」

「そ...それが間違ってこれを...」


ドクロマークが付いた調味料を目の前に差し出す。


「あら...。サクリナちゃんが作った劇酔い薬じゃない。...あっ!!」


皆気づいたようだ。

私のジュースにどんな手違いで入ったのか分からないけれど、劇酔い薬入りのジュースを私は飲んでしまった。これから先はあまり覚えてない...。というか思い出したくない。


「おねえしゃん...」

「シ...シトラちゃん?」

「サクリナ、またこんなものを作ってたのね...」

「お姉様、怒らないでください!!私はただボーッとしてただけで...。あれ?私が悪いじゃん」

「はいはい。来なさい」

「頭ゴリゴリはやめてください!!またバカになっちゃう!!」

「却下」

「痛ーーーーーーー!!やめてください。あ...なんか見えてきた...。」

「全く...少しは反省しなさい」

「うう...。頭がー」

「おねえしゃん、どうかしちゃんですか?」

「ナルル!!シトラちゃんが...」

「お...なんだ、シトラの奴酔ってるのか?」

「団長仕事を...」

「そうですよ、変態」

「ったく...分かったよ。待て...シトラお前今何を...?」

「どうしたんですか?変態」

「いや待て待て。俺が変態?な訳ねえだろ」

「私の胸を触ったくせに」

「...っ!!」

「それ意外にもセクハラ紛いの事を何度も...」

「やめろ!!俺を見る周りの目が...」

「そういう趣味ですか?」

「いやいや違うんだ!怒ってるなら謝る!!だから一旦落ち着け」

「ユグド...。お前は...」

「団長...。自業自得ですね」

「師匠にリト!!また俺をいじり倒すつもりかよ!!」

「だんちょ...」

「お前には言われたくねえな」

「...♪」

「待て待て。俺は仕事中だぜ、頼むからその手をしまえって!!」

「アルクレアー」

「シトラ様!!あの...あまりに近すぎるというか...」

「いいんだよ。家族なんだからさ」

「いや...シトラ様、そういう問題では...」

「禁断の恋だね」

「そうだね...」

「団長ーここに危ない思考の人が二名いまーす」

「悪ふざけしすぎなんだよ、そこの馬鹿二人は...」

「ユグド...師匠に向かってその言い方は駄目じゃないか?」

「そうだよ、だんちょ」

「くそ...そうやって俺が真面目なことを言っても..」

「口答えしない」

「や...やめろよ師匠。」

「ぎゃあああああああああああ」


断末魔と共に床に倒れる音。リトさんが急いで近寄り揺さぶるが反応がない。


「だんちょは安らかに眠った」

「ナルルちゃん達、あまり食堂で暴れないでくださいます?」

とうとうニレスさんが厨房から出てきて説教が始まった


「楽しそうだねー」

「シトラ様、そろそろ...」

「うん?」

「離して貰えませんか?」

「いやー」

「しかし修行は...」

「一緒に寝てくれないの?」

「わ..分かりましたから...」


アルクレアの手を握り、食堂のソファーで眠りにつく、少女達。

端では説教が続く。

...

「ニレスの説教は長すぎる...」

「あんなに怒ってるの初めて見たよ。ていうかなんで僕まで怒られたんですか!?」

「連帯責任だな」

「そう怒らないでリト。ほら飴あげるから」

「ローナは少し反省して」

「うう...分かってるよ」

「あれれ?シトラちゃん達は?」

「あそこで寝てる」


二人は寄り添いあって寝てる。その光景は、まるで姉妹のようだった。


「やっぱり禁断の...」

「それ以上は許しませんよ!?」

「リトは相変わらず厳しいね」

「皆が勝手すぎるんですよ....」

「それよりこれからどうするんだ?」

「えっ?団長は苦情の対処をするんですよ?」

「それなら説教中にサクリナにやらせたら終わってたぜ」

「あの量を1人で?」

「なんやかんやで妹は案外優秀だよ。頭のネジは緩いけどね」

「じゃあ俺は町に行ってくるわ」

「女遊びはほどほどにね~」

「馬鹿か!!」


文句を言いながら、町に出ていくユグド。


「じゃあ私は少しイースの所に行ってくるかな」

「兄様によろしくね~」

「僕はシトラの事を見てますよ」

「じゃあ私は皆が帰ってくる前にご飯を作ってる♪」

「皆大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。まだ子竜らしいじゃないか、それぐらいならすぐ戻ってくるさ」

「いや...その事は気にしてないんですけど、場所が場所なので」

「天使の呪い...か。本当にそんなものがあり得るのかな?」

「あるから今まで封鎖されていたんですよ」

「まあ皆を信じようよ♪」

...

「ああ...楽しみ..」

一つの怨みの籠った声が聞こえた気がした..



次回は...

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