月を追って
満月の夜。
野原のてっぺんに、たくさんのウサギたちが集まっていました。大きな輪になり、まん丸な月を見ながらおしゃべりをしています。
そんなとき、一羽の若いウサギが立ち上がって叫びました。
「オレは月に行くぞ! 月で暮らすんだ」
みんな、そろっておどろきました。
これまでも――。
月に行くと言い残し、多くのウサギが野原をあとにしていました。けれど一羽として、野原に帰ってきた者はいなかったのです。
「いっしょに行ってみよう、そう思う者は手をあげてくれ」
若者ウサギの呼びかけに、ウサギたちの輪がざわつき始めました。
となりの者と話をする者。
じっと下を向く者。
天をあおぐ者。
行ってみたいのですが、空に浮かぶ月に着けるかどうかわかりません。家族や友達と別れてまで、月に行く決心がすぐにはつかなかったのです。
「よし、月に着いたらオレが手をふろう。それが見えたら、そのときみんなも来ればいい」
そう言い残し……。
若者ウサギは野原をあとにしました。
山のいただきに向かって、若者ウサギはひたすら進みました。
そこに月があったからです。
山のいただきに着いたときでした。
なぜか月は、ひとつ向こうの山のいただきにありました。
若者ウサギは月を追って、次の山のいただきをめざして歩き続けました。ところが月は、やはり次の山のいただきにありました。
こうして月を追ううちに、やがて夜は明け、月は山の向こうにかくれてしまいました。
次の日も。
その次の日も。
そのまた次の日も。
若者ウサギは月を追い続けました。
季節がいくつもめぐりました。
ある満月の夜。
一羽の若いウサギが、またしても野原をあとにしました。
月に行くと言い残し……。