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乙女の事情

『どうして、そんなに構うんだよ。ほっといてくれよ』

『は? 男に綺麗とか、マジ意味分かんねぇ』


『綺麗なのは、お前の方だ』

『乙女が好きだ、ずっと俺の傍にいて。乙女だけでいい、もう乙女だけしか望まないから』


『俺、幸せだ。こんな気持ちになったのは、生まれて初めてだよ』

『乙女、俺を愛して』


 司の心は純粋で、とても綺麗。

 だけど、繊細過ぎて、脆く弱い。

 だから、守りたかった。

 キラキラ美しいクリスタルガラスのような司の心が大好きだったから。



『西園寺の当主が仲人兼司の親代わりを務めた俺に、司を宜しく頼むと頭を下げに来たぞ。乙女の家を追いやったのは、西園寺家に代々仕えてる家の男で、司の親父は知らなかったそうだ。乙女には本当に申し訳ない事をしたと言ってな、償いをさせて欲しいとの申し出も受けた。それはもう必要ないと断ったんだが・・・』


 司と私は、誤解が解けた後、もう二度と離れ離れになりたくなくて、その翌日には入籍届を出した。

 司は、迷うことなく西園寺姓を捨て北条となり、その三ヶ月後、シンさんに仲人をしてもらって、結婚式を挙げた。


『司は大人の期待に応える優等生(・・・)だったらしいな。司の事も悔いていたよ。馬鹿な男だ、絶縁状を突き付けられて初めて司の気持ちを知ったそうだ。司の不器用なところは親父譲りなんだろうな。なぁ乙女、親父を許してやれとは言わん。だがな、縁を切ったと口では言っても、親子は親子だぞ』


 式を挙げて、しばらく経ったある日、私のところにやって来たシンさんが言った。


『シンさんは、司がどんな気持ちで生きて来たか、全然分かってないよ。司の両親は、あんなに純粋で、優しくて、綺麗な司の心をずっと踏みにじってきたのよ! 司は何も悪くない!』

『ああ、悪くないさ、不憫な奴だ。だがな、このままでは、司は乙女に依存したままだ。乙女だって分かっているだろう?』


 ・・・・・・


『乙女は、司に対してだけは目が曇ってしまうようだな。惚れた弱みか?』


 私はただ、あの綺麗な心が砕けてしまわないように、守りたいだけ。


『なぁ乙女、あの親父を庇うつもりはないけど、上に祭り上げられてる者は、案外個人としては思い通りには生きられないものなんだぜ。代々続く家に生まれたってだけで使命や責任を背負わされてさ、自由とはほど遠い生き方を強いられる、可哀想なもんだ』


『シンさんは、自由に、やりたい放題やってるように見えるけど!?』

『俺はまぁ、特別だ。なんたって、俺の両脇には幸運の文殊菩薩と不動明王がいるからな、怖いものなしなんだ』

『は?! 何ソレ! 意味分かんない!』

『司を助けてやれるのは乙女だけなんだぞ。女王様の本領を発揮しろ。鞭で尻を叩いてやれ』

 

 



「「「「乾杯!」」」」 

 私はシャンパングラスに口をつける振りだけして、飲んでとグラスを司に渡した。

「飲まないのか?」

「うん」


 あれから二年が経ち、あの時は、勝手な事言わないでよ!ってシンさんに腹を立てていた私も、状況が変わり考えを改めざるを得なくなった。

 それで、ずっと断っていたカタログのモデルを引き受ける代わりに、シンさんに怖いものなしと言わしめた超スーパーラッキーアイテムの権現様を一体を、頼み込んで譲ってもらったのだ。


「あのね、まだ、お医者様に行って確かめたわけじゃないけど、二人目ができたみたい」

 司は目を見開いてしばらく固まった後、顔を綻ばせた。

「司、嬉しい?」

「ああ、もちろん! 嬉しいに決まってる!」

「じゃあさ、来年の春、この子が生まれたら、病院にいるお義母さんのとこに家族揃って会いに行こう?」


 司はやはり怯んだ。

 辛そうに顔を歪めて口を引き結ぶ。


「・・・・・・ああ、そうだな、乙女がそう・・・言うなら」


 シンさんが言った通り、司は私に逆らわなかったけれど、それは、口から絞り出すようにして出された了承の返事だった。

 

「お義父さんとこも」


「・・・・・・」 


「あのさ、私も恨んで憎んでたよ。だけど、お客さんの中にはやった事をすごく後悔していて、苦しんでる人達が沢山いた。お義父さんだって、司から逃げた事、きっと悪かったって後悔してると思う」 


「・・・・・・」


 容赦なく言うと、司はとうとう黙ってしまう。


 司は私以外の人間を信じない。信頼しようともしない。

 私に出会った事で、他は切り捨て、諦めてしまった。

 私も司の心がそれで守られるなら、そのままでいいと思ってた。

             

 だけど、心美が生まれて、シンさんの言う通り、そうも言ってられなくなった。

 もし、私に万が一の事が起こったら? 

 司はどうなる? 心美は? 司は心美を守ってちゃんと育てていける?

 来年にはこの子だって生まれてくる。

  

「分かった。じゃあ、乙女が十人目の子供を生んだら、会いに行く」

 司がどう答えるか静かに見守っていると、思ってもみない事を言い出した。

「じゅ、十人?!」

「俺が寂しくないように家族をいっぱい増やしてくれるって乙女言ったよ?」

 司は家族を欲しがってたから、司のために子供をいっぱい産んであげようって思ってた。

 狭いアパートで雑魚寝して、それでも笑い合って暮らしてる未来の姿を想像して言ったけど、私の頭の中では子供はせいぜい四人だったよ!

 そりゃ、今のマンションだったら、スペース的には十人でも可能だろうけどさ!


「それ、十七の時の話じゃん! 十七から始めれば、イケたかも知れないけどさ、私、今、三十なんだから、せめて五人にして!」

 司の願いは叶えてあげたいけど、年齢的に十人はちょっと無理だと思う。

 必死に訴えると司に抱き締められた。

「分かった、じゃあ、五人でいい。・・・ありがとう、乙女」


 司が両親と会いたがらないのは、怖いからで、憎んでいるからじゃない。

 司が逃げないで両親と向き合い、過去の清算が出来るように、私はシンさんより譲り受けた霊験あらたかな権現様に、毎日手を合わせてお願いしている。 


 司と私が高二の夏に描いた夢は叶った。

 朝には心美と一緒に司を送り出し、掃除をして、散歩に出掛け、お昼寝して、起きたら晩御飯の支度をして、司が帰って来るのを二人で心待ちにしながら心美と遊んで過ごす。

 先週はお弁当を持って、司と心美と三人で動物園にも行った。

 喜んでいる心美を見て、司はとても幸せそうだった。

 司が幸せだと私も幸せ。


 ただ腑に落ちない事が一つ。

 天下に二つとないはずの有り難い権現様が、今朝見たショッピングチャンネルで売ってたヤツにそっくりだったんだけど、これってどういうこと?!

 





ようやく、完結させる事が出来ました。

最初からブックマークをつけて下さった六名の方には、心からお礼を申し上げます。

ありがとうございました!

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