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プロローグ

あくまで架空の物語です。

女王様は出てきますが、物語の登場人物です。

現実のものとはどうか区別して、ご覧下さい。

 ビシッ。

「い、痛い!」

 ビシッ。

「あうっ!でも気持ちイイです、女王様」

「お前は豚だろう? 豚はそんな泣き方はしない」

 ビシッ。

「ぶ、ぶひ、ぶひ」

 ビシッ。ビシッ。ビシッ。

「ああう、ぶ、ぶひ、ぶひ」

 ビシッ。ビシッ。ビシッ。

 あぁ~!

 

 ・・・・・・

 

 ああ、今夜も謎の饗宴が続く。

 

 


 私、一応ここで女王様してます、乙女です。

 街で酔っ払いに絡まれていた知らないお姉さんを助け、酔っ払いをしばき倒しているところを、スカウトされました。

 いや、スカウトじゃなくて泣き付かれました。

 そして、その頃は私も極貧窮乏生活をしていたので、つい口車に乗ってしまったのです。

 まあ、土建屋の娘として、荒くれ者のおっちゃんやグレてはみ出し者になった若人に囲まれて育った私は、シバく事にはまったく抵抗はありません。

 子供の頃から体格にも恵まれて、そこらへんの男には負けたことがありませんしね。

 乙女とは名ばかりの大女とか暴力女とか、ずっと言われて育ちました。

 そして十代の頃には、言うことは拳で聞かせる!が父親の教育方針だったので、私もそれを受け継いで、気が付けばあたり一帯を締める女番長になってました。

 

 今は身長170センチのボンデージが似合う迫力ある女王様、乙女様です。

 若い頃はブイブイ言わせていたけど、今は男をブヒブヒ言わせています。

 しかーし、私は真性の女王様ではないので、この妙なプレイのどこが楽しいのか全く理解不能です。


「リュウちゃん、お店を辞めたいって話、店長にしてくれた?」

 もう何度となくお願いをしているのだけど、一向に取り合ってくれないブラックである。

 まあ、零細企業なんてどこも人手がなくて、そんなものなのかも知れないけど。

 

 でも! 私にだって人生設計というものがあるのよ!

 真性の女王様なら、一生下僕に囲まれて生活するのも幸せかも知れないけど、私は変態に囲まれて一生を送るなんて嫌。

 

 もう27歳で夢見る年頃ではないけれど、やっぱり好きな人の奥さんになってー、子供を産んでー、公園デビューとか、イヤラシイ意味じゃない団地妻とか、ホームパーティーとか開いたり、家族で学校の運動会にも参加したり、その他もろもろの普通の事が出来るまっとうなフツーの一般家庭と呼ばれる家庭を築きたいのよ!


「乙女姉さん!! お店辞めるなんて、言わないで下さい! お願いしますよぉー。オレの管理が悪いって店長にオレが殺されてもいいって言うんですかぁー」

 店長代理のリュウちゃん、本名かどうかは不明、が私に縋りついて来る。


「知らないわよ。あなただってちょっとの間だけって、新しい女王様が見つかるまでって言ってたじゃない! なのにもう5年もやってんのよ! 早く足を洗わないと、私、行き遅れになっちゃうじゃない! 適齢期は今なのよ。今! 結婚いつするの? 今でしょ! いつ辞めるの? 今でしょ! なのよ!」


「それは仕方がないですよ。乙女姉さんのファンが長蛇の列なんですから。この前も常連さんから、新しい客は絶対に乙女姉さんにつけるなって怒鳴られたんですからね」


 言っておくが、これは決して私が売れっ子という事ではない。

 私の出勤日が極端に少ないためである。

 それから、私は真性の女王様ではないため、客のニーズに合わせて客の好みの女王様を演じられるという点も大きいかも知れない。

 

 真性の女王様はプロと言っても、客に合わせるなど矜持が許さないのである。


「それに、今までだって辞めたいって言ってても、お客さんの事を捨てられないって踏み留まってくれたでしょ? なんで、急にまたそんな事を言い出したりしたんです? 今日だって例のお客さん、無理矢理やり繰りして、詰め込んでくれたじゃないですか」


「今日のお客さんは特別よ。だけど、あなた知ってるでしょ? 私はエセなの! 本物じゃないの! アルバイトでやってるだけなの! とにかくこっちにも事情があるのよ」


「どんな事情かは分かりませんが、そんな事情は捨てて、本物の女王様になれば良いんです。乙女姉さんはいつも自分はエセだって言うけど、素質も素養も十二分だから、女王様として一生優雅に、十分やっていけます。オレが保証します!」


「あなたの保証なんか、いらないわよ。とにかく、今回は真剣なんだから、そっちもちゃんと考えといてよね。わかった?! じゃあ、また来週! お願いしたわよ!」

 私は長い夜を終えて帰った。





 週が明けた月曜日。


「はい。はい。承知致しました。明日までには必ず。はい。はい。よろしくお願い申し上げます。失礼致します」


 私は、北条乙女27歳独身、受話器を置き、ふーと息を吐き出した。

 あー、疲れた。

 

 リュウちゃんは、私に女王様の素質と素養が十二分にあるって言ってたけど、そんなものがあるわけない。

 女王様がペコペコ頭下げて仕事なんて出来るわけないもん!

 

 短大を卒業した後、景気が上向いたドサクサに紛れて、そこそこの中堅企業に就職した。

 切った張ったの世界が嫌で、憧れのオフィスレディという職業についた。

 いや、オフィスレディという職業はないが、オフィスレディになって堅気の会社という組織に潜り込むのが目的だからそれで良いのだ。

 

 でも、正直、憧れたほど良い世界でもなかったのよね。

 派閥があって何かにつけてやり合ったりするし、パワハラ・セクハラ・マタハラなんて珍しくもなんともない。女同士の陰湿なイジメだってある。

 そして組織として成り立っている以上、上司の命令は遂行しなければいけない。

 どんなにクソ上司であろうとも。

 時々、ブーツの踵で顔を踏みつけてやりたくなるけど、お金を払って私の足の下に潜り込んでくるお客さんのために、それはやっちゃいけないなと思う。


 とにかく、そんなこんなをかいくぐってここまで頑張って来たんだから、絶対にリストラの憂き目には遭いたくない。

 クビになって再就職とか、現況日本の就活状況を鑑みるに、私には到底無理な話だもん。

 寿退社なら、大歓迎だけどね!


 なのに、なのに、エム&エムズじゃなくって、エム&エーだっけ?!

 うちの会社、企業買収されちゃったみたい。

 もう、どうすんのよ~。

 




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