第4話、「君を守る」
僕に起こったことを話し、僕は杏菜の家に泊めてもらうことになった。
もちろん、住む所が決まるまで。
心が落ち着くまでだ。
今は一人でいると鬱になる。
でももう一人の僕がそれではダメだと止めて、二人の僕は言い争いになり荒んでいく。
雨が降ってなければ死人が出ただろう。
それから数週間後、僕は彼女を手伝い花畑の世話をしていた。
その時だった、杏菜の家から悲鳴がしたのは。
僕は必死に駆けつけた。
大男達が杏菜を無理やりどこかへ連れ去ろうとしていた。否、杏菜に、大男が持っている紙にはんこを押させようとしていた。
「お前なんざにこの花畑はひろすぎだよ。俺等が有効利用してやろうって言ってんだよ! 」
と杏菜を殴ろうとする。
僕は必死だった。
どうやったのか覚えてないしもう一度やれと言われても無理だろう。
気づいたら杏菜を殴ろうとしてた大男が倒れていた。
そして自分の手を固く握りしめていた。
そして自分の手が痛かった。
つまり僕が大男を殴ったということなのだろう。
「嶺?」
杏菜が震えた声で僕を呼ぶ。
僕は彼女に微笑みかける。
「うん。僕だよ。」
ちゃんと笑えてただろうかそれは少し気になる。
うう、と声を殺して泣き出す彼女。
彼女に気をとられて大男達の事を見逃してしまった。
「野郎ども、やっちまえ。」
大男のセリフとともに、他の大男達が動き出す。
てには鎌、スコップを持つ彼らは花を刈ろうと動き出す。
「俺等だってよーこんな事したないんだぜー。でも仕方ないよなー。お前が俺等の言うとおりにすればよかったんだ。そうすればお前は母もこの花畑も何もかもを失わずにすんだ。お前のせいだ。なぁ、そこの坊主もそう思うだろ。」
そう冷たく言い放ち彼も花を刈るのに参加しようとする。
僕は反応できなかった。
だって僕は彼女の事をなにも知らなかったから。
たった数週間一緒に過ごしただけ。
文章化してしまえばそれだけだ。
でも、僕らはううん、僕は彼女の事を知っている気になっていたんだ。
どうして彼女一人がここの世話をしているのか、
どうして彼女は名前がなかったのか、
どうしてどうして。
聞こうと思えばいつでも聞けたんだ。
でも僕は逃げた。
逃げてしまったのだ。
「やめて、やめて、やめて、やめてぇぇぇぇぇ。」
杏菜の叫び声。
それにより僕は我にかえった。
杏菜は体をはって花達を守っている。
なら、僕は。
しかし、僕が動くよりも先に大男達が引き上げて行った。
「依頼人からの電話でな、ここはもう要らないそうだ。よかったな。この花畑なくならねえみたいだな。」
大男の最後の言葉で安堵していたのは杏菜より大男だった。
杏菜には聞こえていないようだった。
ただひたすらに泣いていた彼女には届いていなかったのだ。
最後の一株となったショウブは儚げにしかし強く生きていた。
まるで泣いている彼女を守っているようで、ショウブの花言葉の「君を守る」という言葉を思い出した。