第3話、「乙女のはにかみ」
「僕に起こったことを知ってるの? 」
と尋ねる。
すると少女は燃えるような赤い髪をツインテールにした髪を揺らしながら、青い目を閉じ、悩んだようなそぶりを見せたあと、
「知らない。何となくちょっと前の私に似てたから。」
とはにかんで笑う。
その笑顔に僕は衝撃を受けた。
稲妻を受けたような、説明しがたいなにかを受けた。
それと同時にこの子のことをもっと知りたいと思った。
「ね、ねえ、君の名前は? 」
まずは名前から。そう思い尋ねる。
「私はね名前ないの。だから付けて? 」
と笑って答えた。しかしその瞳は僅かに雲っていたことを見逃してはいなかった。
「じゃあ、杏菜はどうかな? 」
杏という花には、乙女のはにかみ。という意味があると、幼なじみの杏にきいた。
菜には、明るさという意味があると誰かに聞いた。だから僕が女の子に名前を付けるとしたらこれにしよう。と決めていた。
少女は少し迷ったあと。
「うん!杏菜って呼んでね。」
と満面の笑みで答えた。しかしその瞳の曇りはまだ消えることがなかった。
「そう言えば君の名前は?私は教えたよ~。」
そう杏菜がきく。
「僕の名前は、嶺だ。よろしく。」
そう言って手を出す。
首をかしげる杏菜。
「握手って言って仲良くしましょう。という合図? みたいなものだ。」
そう教えたとたんに杏菜の目が輝く。
「やる!やるやる!で、どうやってするの?」
反応が面白くてつい笑ってしまった。
「手をつなぐだけだよ。」
苦笑しながら教える。
「ふーん。よろしくな!りょう!」
と繋いだ手を振り回す。
「うん。こちらこそ。よろしく。」