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其の七

百鬼は、闇そのもののように静かに移動していく。

僕たちのいる場所は、廃校となった学校の校舎である。

教室から廊下に出ると、闇の中を滑るように移動した。

僕はMD7のスターライトスコープ付の目で見ているから、暗闇でもほぼ見ることはできるが百鬼がこの闇の中でも素早く移動できるのは驚異的である。

僕らは階段を下り、一階に降り立つ。

窓の外は、木々が森のように茂っている。

そこは、あたかも市街地の中に忽然と現れた、無人島のような場所だった。

小子化に伴う統廃合によって不要になった学校なのだろうが、一切再利用されないまま何年も放置されてきたようだ。

窓の外の中庭の草花や木々は野生化しており、ちょっとしたジャングルのようである。

百鬼は、校舎の一階を影のように静かに移動してゆく。

夜である。

郊外の住宅地にある廃校は、完全に闇につつまれていた。

もう少し、街に近ければ浮浪者が住み着いたのかもしれないが、このあたりの住宅街では浮浪者はいないようだ。

百鬼は外に接した教室の出入り口付近で、足を止める。

静かだった。

深夜を回っているため、動くものの気配は無く廃校のジャングル化した林は液体のような闇に浸されている。

闇の中で完全に気配を絶ち僕ですらその位置を確認するのが困難になった百鬼は、僕に目で知らせた。

濃厚な闇が支配する林の中、兵士たちがいるのを確認できる。

スターライトスコープと赤外線センサーによって辛うじて確認できた。

兵士たちは、コンバットスーツではなく普通の黒いジャケットを身に着けている。

ただ、少し着膨れしている様子なので、ジャケットの下にはボディーアーマーを着けているのだろう。

ゴーグルを着けているのは、おそらくスターライトスコープだろうか。

結構ごついサブマシンガンを手にしている。

多分、H&KのUMPだろう。

おそらく9ミリ弾使用のタイプだ。

4人いる。

(どうするんだよ)

僕は、口の動きで百鬼に語りかける。

百鬼はちゃんとそれを読んだようだ。

(何かを待っているようだな。おそらく別動部隊の到着。空からかもしれない)

僕も百鬼の口を読む。

(先制するわけ?)

(当然だ)

百鬼は、十字状をした黒いブレードを取り出す。

(プラスチックの手裏剣?)

僕の問いに、百鬼は苦笑しながら答える。

(特殊強化樹脂製のブレードだ。金属並みの硬度があるがとても軽い)

百鬼は、二つの十字ブレードを投げる。

高速で回転するブレードは闇に紛れ黒い風となった。

二つのブレードを放った直後に、さらにもう二つの十字ブレードを投げる。

漆黒の風となった四つのブレードは高速で回転しながら、4人の兵士たちの頭上を飛び去った。

林の中でブレードたちは意思を持っているように、鋭く旋回するとこちらへ戻ってくる。

僕は、最初に投げたブレードが後ろのおとこたちの頚動脈を裂くのを見た。

スターライトスコープで、金属質の輝きを放つ血がしぶくのを確認する。

前の二人は気配を感じて、UMPを構えて後ろを振り向くが後に投げられたほうの十字ブレードがそのおとこたちの喉を切り裂く。

闇の中で、鈍い赤色の血が迸った。

一瞬にして4人のおとこたちが地に崩れ落ちる。

ほぼ、無音であった。

夜は静かな闇に包まれたままだ。

何事かが起きた気配すらない。

四つのブレードは緩やかな回転となり、速度を落として百鬼の元に戻ってくる。

驚くべき業だ。

百鬼はその四つのブレードを器用に受け止める。

音も無く。

とても静かに。

百鬼はブレードについた血糊を丁寧に皮製の布で拭ってゆく。

(後4人いるのだろ)

僕の言葉に、百鬼は頷いてみせる。

(そちらもさっさと片付けるよ)

百鬼は、校舎の反対側へ移動する。

そちらにも、4人の兵士たちがいた。

装備は同じ。

まだ、反対側の4人が死んだことに気がついてはいないようだ。

もう一度、百鬼はブレードを投じる。

四つの高速回転するブレードが兵士たちを襲う。

二人が倒れ、もう二人。

一人は、首ではなく額でブレードを受けた。

血はしぶいたが致命傷ではない。

「おい」

僕は思わず声を出していたが、百鬼はとうに行動していた。

一瞬にして、戸口から生き残ったおとこのそばまで移動する。

低いタックルでおとこの足元を薙ぐと、腰から抜いた短剣で利き腕を殺しそのまま馬乗りになった。

その口元を手で押さえ悲鳴を押し殺すと、短剣を目につきつける。

僕はダイナソーキラーを抜くと、百鬼の後ろに立つ。

百鬼は押し殺した声でおとこに喋りかける。

「声を出せば、まず目を抉る。こちらの質問に答える意思がなければ、少しずつ切り刻んでゆく。抵抗しなければ、あっさり終わらしてやる。了解なら一度瞬きをしろ」

おとこは、抵抗の意思を無くしているようだ。

素直に瞬きをする。

百鬼は、目に短剣をつきつけたまま語りかけた。

「後何人兵士がいるんだ。どこからくる?」

おとこは笑いの形に口元を歪めた。

「もう遅いぜ。おまえたちが逃げ出してくるのを仕留めるつもりだったが。陰陽師はもう死んでるころだ」

百鬼は、短剣で喉を切り裂く。

「まずい」

百鬼は、素早く立ち上がると校舎へ向かう。

「おい」

僕は、百鬼に声をかけると壁に手をかけ踏み台になる。

百鬼は、僕の肩を使って跳躍し三階へ上った。

僕も壁を垂直に駆け上る。

MD7のパワーを使えば、軽いものだ。

僕らは蝶子のいる教室へ急ぐ。




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