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其の二十二

さて、僕がその後どうなったかと言うと。

その後に起こったことは、どちらかと言えば退屈なことといえる。

土御門のバックアップ部隊が、チベット館の地下に入って後始末をしていった。

三つの死体を片付け、仮死状態の百鬼を医療部隊が回収する。

全て無かったこと、起こらなかったことにしてしまった。

僕も病院に収容され、さんざん精密検査を受けさせられる。

ようやく学校に戻れたのは、かれこれあの日から一週間はたっていた。

元々下宿のひとり暮らしなので、一週間いなくなってもどうということはないのだが。

土御門はちゃんとあちこちに手を回し、僕は急病で入院していたことになっていた。

二学期早々一週間休んでいた僕は元々クラスではとても影の薄い存在だったから、久しぶりに学校に戻っても悲しいくらい当たり前に受け入れられる。

というか、まあ、居てもいなくても変わらないくらいの存在感ということなんだけれど。

けれど、休む前と復帰したあとで決定的に違うことがひとつある。

なんと、蝶子が僕のクラスに転校してきたことだ。

土御門家はどうも薔薇十字学園の一大スポンサーだったらしい。

転校生を僕のクラスに送り込むくらいのことは、どうということもないようだ。

蝶子は、僕の監視役らしい。

僕のもとに、また魔道師が現れて、僕の魔眼を利用とするのを阻止するためということだ。

蝶子は、僕の魔眼を封印した。

そして、二度と発現しないように消し去ろうとしてくれている。

どれだけの時間が必要なのかは判らないけれど、蝶子は僕の中にあるものを祓おうとしていた。

少しずつ、僕は平凡な日常に沈みつつある。

けれど。

いつかまた。

あの異形たちが再び僕の前にくる日が。

訪れるような気がする。

きっとまた。

もう一度。


あたしは、プラハに居る。

念願の魔法学院に入学できたのよ。

え、死んだんじゃあなかったのかって。

まあ、死んだけれどね。

大した問題じゃあないじゃん、そんなの。

あたしの記憶は、当然シモン・マグスにバックアップをとってあった。

ワルキューレとなり死ぬ寸前までの記憶が、ちゃんととられている。

今のあたしの身体は、MDシリーズをカスタマイズチューンしたもの。

馬鹿みたいな戦闘能力は無いけれど、耐久性は数十倍はある。

日常生活を送るぶんには、支障ない。

まあ、前の身体には桁外れのルーンが刻み込まれていたから、あのとき使えた破格の魔力は失われたんだけどね。

まあ、どうってことないよ。

シモン・マグスにバックアップとっといたルーンを少しずつロードしていってるから。

今の身体の容量には問題あるけれど、必要なぶんだけロードしてしのいでる。

ふふ、もちろん光也もあの自称前衛党が作った魔法特殊部隊の顧問として活躍してるよ。

あたしもバーチャルボディを使って手伝うけどね。

ああ、シモン・マグスはチベット館からあの党が作った訓練施設に移してあるよ。

それにしても、地球に残った最後の唯物主義者の党が魔法特殊部隊を作るなんて変な話だけれど。

笑っちゃうよね。

でも、それはあたしたちにとって必要なことなの。

いずれ。

あの島国は、党の支配下に組み込まれ。

何万人も粛正されることになる。

そのときに、あたしたちの望みはかなう。

そう、あたしたちはあのひとを呼び出すのよ。

聖書ではイヴを誘惑した蛇と呼ばれる。

あるいは悪しき龍と。

それともルシフェルとも呼ばれるけれど。

グノーシス主義では、そう、あのナグ・ハマディ文書ではそれはジーザスのこと。

あたしが前に言ったとおり、ジーザスはナグ・ハマディ文書においては最強の武闘派魔道師ということになる。

だって、悪しき造物主と呼ばれる神に反旗を翻し戦いを挑んだ、唯一のおとこなんだから。

そのジーザスをクライストと呼ぶのは、最大の侮辱ではあるけれどね。

今、ローマン・カトリックが力を持ってるこの世界ではしょうがない。

でもバチカンなんてどうでもいい。

万のひとびとの生命を燃やし、あたしたちはあのひとを呼び出す。

そしてあたしたちは手に入れる。

神の国へと行くための、扉の鍵を。

あたしたちはシモーヌ・ヴェイユと違って不在の神を待ち望んだりしない。

あたしたちから神の元へゆく。

この世界はいずれ終わる。

泡立つ海が押し寄せてあたしたちを飲み込む。

蒼天が落ちてきてあたしたちを押しつぶす。

その時に、あたしたちは神のもとへ至る。

そう、終わりの日に。

神のもとでお会いしましょうね。




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