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其の十八

「あらら、あらあら。駄目じゃない、蝶子ちゃん」

理図は、軽い口調とは裏腹に、刺すような瞳で蝶子を見ている。

「頼みの綱のニンジャがそれじゃあね。死んじゃうよ、あなた」

蝶子は無表情のまま、童子斬りを正眼に構えている。

その戦う姿勢が理図への応えだというように。

理図は、口を歪めて笑う。

「降参しないつもり? まあいいよ。死んじゃえば?」

僕は夢中で、ダイナソーキラーを撃つ。

2丁の拳銃は巨大なエネルギーを吐き出し、僕の手のなかで咆吼しながら身震いする。

一撃で猛獣を葬りさる狂暴な銃弾は、ドラクラの顔面を粉砕した。

まるで赤い血が沸騰するように、ドラクラの顔面が血肉を波打たす。

そして、その血が凝固してゆき再び思索に耽る哲学者にも似た顔が浮かび上がる。

銃弾では、時間稼ぎすらできない。

少し憂鬱な顔をした、ワラキアの串刺し公は一歩前へ出る。

湾曲したS 字状の剣を、死滅した天空を駆ける流星のように掲げながら。

死を、彼の宿命である、死を振り撒くために一歩踏み出し。

その時、ゆらりと。

光の中で揺らめく影のように、その黒いおとこ、百鬼が立ち上がる。

その右手には、針のような細い剣、錐刀が構えられ。

その左手は骨を砕かれたか、下げられたままであったが。

百鬼の瞳は冷徹な意思をもってドラクラを見据えている。

その身体は破壊されても、戦う意思まで砕くことはできなかったようだ。

百鬼の手の中で、ぎらりと、あたかも夜明けを告げる明けの明星のようにその錐刀は輝いてみせる。

折れぬこころを顕すかのように。

「その小枝のような剣で、戦うつもりなのか。お前は」

ドラクラの言葉に、百鬼は平然と応えた。

「言ったろう」

錐刀の輝きは、さらに力を増す。

夜を終わらせる、夜明けの光のように。

「ひとの姿をとるものは、ひとの理に縛られる。ならば」

錐刀は激しく点滅するように、光を瞬かせる。

「おれには斬れる」

「よかろう、ならば戦って死ね」

そう言って、ドラクラが剣を振りかざし前に出るのと、百鬼が再び霞と化して闇に溶け込んでゆくのはほぼ同時であった。

百鬼は霞となったがその手にした錐刀の輝きは、さらに力を強める。

すでに物理的な力を持ってその光は、見るものの目を貫く。

それは、心の一法という技。

百鬼がここにくる途中で僕らに教えた技だ。

気を光にのせ、目を通じて脳の中に叩き込む。

だから、その光をいつまでも直視していてはいけない。

僕は錐刀の輝きから目をそらす。

その輝きには間違いなく、一定のパルスがあった。

そのパルスは脳内で電気的に発火しているシノプシスの固有パルスと同期をとる。

そうすることによって、脳内でのシノプシスの発火が暴走して意識が飛んでしまう。

ドラクラは強大であったが。

例えば一見、自由な思考も言葉の持つ文法に縛られているように。

強力なCPUパワーを持つコンピュータであってもOSにバグがあれば、フリーズしてしまうように。

ハイパワーを持つエンジンであっても、搭載した車の車体が弱ければスピードを出せないように。

今まさにドラクラはひとの理に文字通り縛られてゆき。

その四肢の自由を喪いつつあった。

百鬼はとどめに錐刀を投げ、ドラクラの目に突きたてる。

錐刀の放つパルスはドラクラの脳内を暴走させ、その全身を痙攣させた。

それでも尚、ドラクラの動きは止まらない。

百鬼めがけて、湾曲した剣が突きだされる。

しかし、ドラクラの意識はとんでいたため、その剣に力はなく狙いにも正確さがなかった。

剣は百鬼が左胸の前に上げた左腕を貫いてとまる。

百鬼の心臓には届かなかった。

百鬼は右手を振るう。

ドラクルの胸に突き刺さったままの、鎧通しの柄に繋がったワイヤーソウをドラクルの身体に縦に巻き付ける。

百鬼がドラクルの胸に鎧通しを突きたてたのは別に心臓が弱点と考えたのではなく、その身体にワイヤーソウを巻き付けるためであったのだ。

剣を失い動きの止まったドラクラを、百鬼は斬る。

意識を取り戻し、目を見開いたドラクラの身体に紅い線が走った。

「お前は」

ドラクラの身体が縦に裂けてゆく。

「おれを斬るとは」

深紅の血が、紅い滝となってほとばしってゆく。

百鬼は左手えい突き刺さった剣を抜き捨てると、薄く笑う。

「二つに両断されると、どう再生するのだ。二人に分裂するのか、片側が死ぬのか」

そのどちらも起こらない。

大量に噴出してゆくドラクラの血は、形をつくることなくただ流れていった。

「蝶子、童子斬りだ。串刺し公を冥界に帰してやれ」

蝶子が一歩前に出たその時。

地の底から響くような声が轟く。

「愚かなことだな、ニンジャ」

ドラクラの声が宙空から響いていった。

「ひとのすがたを失えば、ひとの理には縛られん。もうお前にはおれは斬れんよ」



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