其の十四
エレベーターから降りる。
そこは、地下ダンジョンのような場所であった。
薄暗く、通路の両脇は金網で覆われている。
その金網でできたフェンスの向こうには、電子機器が並んでおりLEDライトの明かりが、臓器のように渦巻くケーブルの奥に瞬いていた。
天井には剥き出しとなった空調設備が等間隔で並んでおり、冷却された空気を噴き出している。
ひとよりも、マシンに合わせた温度設定となっているようであり、体感温度は結構低く感じた。
「ここは、あのロボットたちがいるんだね」
僕の問いに蝶子は、頷く。
百鬼がバックパックから、円盤状のものを二つ取り出す。
それは、半径30センチほどの円盤である。
百鬼はそれを通路の前後に置くと、スイッチを入れた。
凄い勢いで、バルーンが膨らみ始める。
それは、ひとの形状をとってゆく。
黒いコンバットスーツに身を包んだようなおとこの姿。
「このデコイであれば、ロボットにはおれたちと、見分けをつけることができない」
百鬼の言葉に、僕は疑いの目をむける。
百鬼は苦笑しながら言った。
「信じないなら、MD7の目でちゃんと見てみればいい」
僕は試して見る。
驚いたことに、デコイは赤外線センサーにちゃんと反応する。
内部で温度調節しているらしい。
「ロボットたちは赤外線センサーと識別信号を感知して攻撃対象を認識する」
「なるほどね」
デコイは僕らの前と後ろに一つづつ配置され、一緒に動いていく。
ここも本来は監視システムに守られている場所なのだろうけれど、今は蝶子の持つ携帯端末からコントロールされてしまっている。
多分、数十分もすればシステムは回復するのだろうから、あまり時間はかけられない。
僕らはその電子機器のダンジョンを通り抜けてゆく。
いくつかの扉があったが、蝶子の携帯端末の操作で開けることができた。
ロボットたちが現れたのは、エレベータホールへと続く、白い壁に覆われた通路に入ったところだった。
僕らはその通路で、前後を2体づつのロボットたちにはさまれる。
頭に相当する部分に設置されたセンサーが、デコイを補足した。
背中にある四つの銃身がデコイに照準を合わせる。
ワイヤーを取り付けられた針がデコイに命中し、電撃の火花を散らす。
デコイは炸裂し、姿を消した。
僕は二丁の輪胴式拳銃を抜くと、トリッガーを引く。
薄暗い通路の中で、雷鳴のような銃声が轟いた。
その破壊的な銃弾は、四足歩行の戦闘ロボットに着弾する。
ダイナソーキラーは、漆黒の装甲を紙のように貫き、内部の駆動系を破壊した。
火花と煙を散らせながら、ロボットは停止する。
その背後からもう一体の四足歩行ロボットが現れた。
センサーが、僕を補足している。
テイザーガンの照準が僕に合わせられた。
僕はゴシック調の黒いスカートにレースの飾りがついた純白のエプロンを翻すと、後ろに跳躍する。
その瞬間、四つの銃身は同時に針を発射した。
ワイヤーを取り付けられた針は僕の足元に命中し、電撃の火花を散らす。
向きを変え背中のテイザーガンを、再度発射しようとするロボットめがけ銃を向けながら壁を蹴る。
テイザーガンは壁に命中し、電撃の火花をあげた。
僕の手の中で拳銃が身震いしながら、凶悪な銃弾を吐き出す。
僕は輪胴式の弾倉から、空薬莢を排出する。
補助アームはスピードロッダーを使って、ダイナソーキラーを装填した。
僕は、4発の銃弾を立て続けにロボットに打ち込む。
ロボットは黒煙を上げ跪くような姿勢で、停止した。
僕の後ろでも、銃声が轟く。
百鬼がその巨大な拳銃で、ロボットを撃っている。
百鬼はそのボルトアクション式の巨大な拳銃を、反動を利用してレバーを操作し銃弾を装填しながら連射していた。
僕の背中に付けられた補助アームが動作し、僕の両手に持ったリボルバーへ給弾した。
百鬼に撃たれたロボットが火花を散らしながら停止する。
その後ろから現れたロボットがテイザーガンを撃つ。
僕と百鬼は左右に展開しながら、銃を撃った。
電撃針は、床で火花をあげる。
僕と百鬼の放った銃弾は、ロボットを破壊しその機能を停止した。
黒煙を発しながら、鋼鉄の獣は真白き床の上に屍をさらす。
蝶子は満足げに僕に笑みを投げてくる。
「よくやったで、MD7。思ったより役に立ったやないか」
僕は肩を竦める。
「もう一日分の仕事はしたと思うよ。さっさと残りを片付けよう。活動限界が近づいてる」
蝶子は笑みを浮かべたまま、携帯端末を操作する。
エレベーターの扉が開いた。
「ほら、もうこいつに乗って下につけばもうあんたの身体のある場所だ」