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結び目  作者: 狩野真奈美
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二日後、休みとなった私は、自転車をこいでいた。この田舎の町は車社会である。一家に二台や三台などざらである。大阪から来た友達は、店が駅前ではなく国道に集中していることに文句を言っていた。しかし、車社会だというのにフリーターの私は車を維持するだけの経済力がないため、移動はもっぱら自転車である。真上にある太陽がちりちりと肌を焼く。住宅街を右、左と脚を動かしながらふらふらと進んでいく。この行き先が正しいのかは分からない。同じような景色の中をぐるぐると回っているだけなのかもしれない。「血を吐くやうなものうさ、たゆけさ」。高校生の頃、図書館でなんとなく開いた中原中也の詩集の言葉が頭に浮かぶ。血を吐くやうなものうさ、たゆけさ。大学生の頃、この詩が好きだと文学の先生に言ったところ、思春期の自意識がどうのこうのと語られたが、そんなことはどうでもいい。あの夏の情景を頭に浮かばせる言葉たち、リズム感、それらがとても好きだったというのに、私はリフレインされるこの言葉しかもう思い出せない。血を吐くやうなものうさ、たゆけさ。その言葉が頭から離れないまま、私は思っていたよりあっさりと××町にたどり着いた。

殺すつもりはない。ただ何かしなければ気が済まない。死ねばいいのにと思ったが、そこから殺すというところまでの覚悟は私にはない。あの女の旦那でも寝取ろうかと、考えた。それは愉快な想像だった。この間見たインターネットの匿名の掲示板では、旦那を寝取られた女が、不眠、鬱に苦しんでいた。旦那を寝取る。それは簡単なことのように思えた。あの手の気の強い女の旦那ほど、与しやすいのである。そして、私は既婚者から言い寄られることに関しては結構な経験がある。同年代の普通の男の子たちではなく、年上の既婚者たち。それは決して自慢になることではないが、このような状況では大きなアドバンテージである。しかし、とりあえず、今日のところは情報収集と決める。あの女の家、家族構成くらいは把握したい。

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