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第二章 湖の底の船 その2

 トウリとソビィは浜辺で靴を脱ぎ波打ち際まで来ていた。


「おおーい、まってくれよ」


 後ろからブッカもやって来た。


「では行こうか」


 トウリがそう言うと一行は湖に足を入れた。ブッカはあまりの水の冷たさに全身の毛が逆立った。


「ひゃあ冷たい。まるで氷水じゃないか」


 ソビィがそんなブッカを横目でちらりと見て一言。


「君、いくら何でも大げさじゃあないかい」


「むっ。ソビィ、君ってヤツはまったくわかってないね。猫ってのはね、この世で一番寒がりな生き物なんだぜ。ちょっと勉強が足りないんじゃないのかい」


「ふん、猫が寒がりなのは知っているさ。この世で一番大げさな生き物だってこともね」


「学校てところはイ、ヤ、ミ、の授業でもあるのかい」


 猫とトカゲというのはどうも相性が悪いらしい。トウリは苦笑いを浮かべ二人の間に入った。


「ほら二人ともそこから少し深みに入るぞ。気をつけろ」


 と言い一人でバシャバシャと前に進む。水嵩はソビィの腰ほどになり、チビのブッカは胸のあたりまで浸かっている。


「うう〜さむい〜つめたい〜」


 ブッカはブルブル震えながら両手を濡らさぬようばんざいをしてついてくる。見かねたソビィがため息まじりに言う。


「君、あんまり無理しないほうがいいぜ。チビなんだから」


「う、うるさいな〜まったくもう。ぼくは平気だからお先にどうぞ」


 やはり猫とトカゲは相性が悪い。ソビィはブッカを置いてさっさと行ってしまった。


「ま、まったく〜トカゲってのは〜世界で一番冷たい生き物だにゃ〜ガクガク」



 ソビィはトウリに追いついた。トウリはすでにガグリの三兄弟が『怪物』と呼んでいたものの前までやって来ていた。しかしその周辺の水は二人がはねあげた泥を含んで濁っている。トウリは腰をかがめて湖に手を突っ込んで『怪物』を触ってみた。


「ふむ、何やら硬いな。どうやらなにか彫刻のようだが……」


トウリは立ち上がりそう言った。


「先生、僕が潜って確認します」


 そういうとソビィは大きく息を吸って湖に潜っていった。深さはそれほどない。ソビィは視界のない泥水の中、一旦湖底に手をつくとそのまま『怪物』に触れて確認作業を始めた。どうやらこの『怪物』は湖底の泥の中に埋まっているらしい。ソビィは『怪物』の下から上まで触りながら何か情報を得ようとした。材質はどうやら木のようだ。丸みを帯びており、中央にトウリが確認した彫刻の部分がある。それはさっき大岩の上から見た白い顔のような部分であろう。ソビィはその彫刻を丹念に触ってみた。やはり人間の、それもどうやら女の人の顔のようだった。


 ソビィはぶはっと湖面から顔を出し、湖の中で確認したことをトウリに報告した。


「ほほう。どうやらこれは船のようだな」


「船ですか」


「そうだ。女性の彫刻というのはおそらく船首飾りだろう。船首飾りに女神像のモチーフというのは昔からよくあるからな」


 すると二人の後ろから、首まで水に浸かったブッカがやって来た。


「なになに何だって聞こえないよ」


 ブッカは首をぐっと伸ばして上を見上げている。どうやらもはや足がとどいてないらしい。ときおり水中で跳ねながらここまで来たようだ。


「おおブッカ、あまり無理をしてはいかん」


 とトウリが言った瞬間、湖から岸に向かって突風が吹いた。ブッカは風にあおられ後ろにひっくり返る。さらに風を受けた湖に大波が立ちブッカに襲いかかる。


「ぶはっ。た、たすけて〜」


 ブッカは確実に溺れていた。このチビ猫は泳げないのだ。


「ちっ、しょうがないな」


 そう言って泳ぎの得意なソビィが沈んでいくブッカを引き上げる。


「げほっげほっ、たすかった〜。ありがとうソビィ。君は命の恩人だ。心の友だ」


 トウリにおぶわれたブッカがソビィに礼を言う。


「まったく君ってやつは、どんな時でも大げさなやつだな」


 ソビィは心底あきれてしまった。


「はっはっはっ、とにかく戻ろうじゃないか。ルウが大岩の上でまってるぞい」


 トウリは高笑いで大岩の上のルウに手を振った。





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