第十一章 眠れる力 その4
アビコはほうきに乗って、谷底まで降りてきた。大量の土砂と折れた樹々が混じり合って谷を埋め尽くしていた。アビコはゆっくりと旋回しながら地面に降り立つ。もしゅっとした感触で足が土に埋まる。
(さて、この中から学者先生を探さなきゃなんないのかい)
フゥと一息ついて小石をいくつか拾った。ぶつぶつと何か言いながらその小石を放り投げる。小石は地面に落ちる前に五匹の大きな黒い犬に変化した。五匹の黒犬は『ワン、ワン』と吠えながら土砂の中に潜っていく。
アビコは空を見上げていた。噴火の炎が空を赤く染めていた。谷底は静かだった。ただ樹々の擦れる音だけが響いている。
(風が出てきたね)
しばらくして五匹のうちの一匹が土砂から顔を出した。その口には赤い紐を銜えていた。それはトウリのループタイだった。そして黒犬は『ゥオ〜ン』と高らかに吠えた。すると他の犬達が土砂から飛び出した。そしてループタイを銜えた犬の元に集まり、一斉に潜っていった。そしてまた静寂が訪れた。
(もう少しだね)
アビコは目を閉じた。土くれの匂い葉擦れの音、アビコはそっと目を開け、微笑んだ。
(嫌いじゃないがね、この感じ)
犬達が潜った辺りの土がモゴモゴと動きだし、黒い固まりが飛びだした。
『ワゥウウオォォン』
黒犬が次々に飛び出てくる。最後の一匹が何かを銜えて出てきた。他の黒犬も一緒になって引き摺り出す。
「よくやったね、お前たち」
アビコは黒犬達の頭を優しく撫でてやった。犬達は嬉しそうに『ワン』と吠えて元の小石に戻っていった。
その小石の下には、ボロボロになったトウリが転がっていた。
* * *
「なに、あの大きな鳥」
ルウの視線の先には巨大なカラスがいた。バッサバッサと羽音が近づいてくる。よく見ると足に何かがぶら下がっているようだった。
「ソビィじゃないか!」
ブッカが叫んだ。カラスは白鳥号の真上まで来ると『クェ』と一声鳴き、掴んでいたソビィをぽいと放した。
「うわっうわっうわー」
ソビィが叫びながら落ちてきた。
「うわっうわっうわ〜」
ブッカが落ちてくるソビィを避けようとあたふたしている。
ドン!
「あいててててー」
結局ソビィはブッカの頭の上に降ってきた。ふたりは頭からぶつかってひっくり返っている。
「ソビィ! 無事だったのね」
ルウはソビィの元に駆けよった。
「あいてて、まったく乱暴なカラスだな」
ソビィはしこたま打った頭を押さえながら、カラスを睨んだ。カラスはその様子を見届けると大きく旋回して『カァ』と鳴いてどこかへ飛んでいった。
「いててはこっちのセリフだよ! 早くどいてくれよ!」
ソビィの下敷きになっていたブッカが苦しそうに喚いた。ソビィは甲板に座り込みルウを見た。ルウは倒れたブッカの手を引いて起こすのを手伝っている。ソビィは魔女に言われた言葉を思いだしていた。僕がそばにいたところで何だって言うんだい。
「ねえソビィ、トウリ先生はご無事なの?」
ルウがこっちを振り向き不安気にそう尋ねた。ソビィはルウから視線を外し、自らの不安を打ち消すように力強く言った。
「大丈夫、アビコさんにすべてを任せてきたよ」




