プロローグ 猫と学者の会話
「じゃあ、なにかい? 空ってのは本当は青かった、ってのかい?」
「ああ、そうだ。古文書によると、空に関する複数の記述の中で、空の色についての表現があってだね。例えば『雲ひとつない青き空』や『夕焼け空が赤く染まりて』などだ。他にも黄色や紫にも変化する様が書かれている書物もあるんだ」
「うっヘー青とか赤に変わるだなんて、ずいぶん忙しい空じゃないか。でも、そんな空が今じゃなんでこんな真っ暗なんだい?」
「さあそこだ。一体いつからこの空が夜に覆われた世界になってしまったか? その謎を解くために、私は辺境調査隊に志願してこの地へやって来たんだ」
「へぇーそうだったのかい。それでその謎ってヤツは解けたのかい?」
「いや、それがさっぱりだ。それに私はこの地に留まり、調査隊を離れてしまったしね」
「なーんだ。学者がさっぱりだなんて言ってちゃダメじゃないか。それにそもそも空が青いだなんて、昔の人のつくり話じゃないのかい? そうだ、きっとそれだよ!」
「はっはっは、さすがは猫殿、なかなか鋭い考察だ。ところで君は月の女神と火の魔人の神話を知っているかね?」
「荒ぶる火の魔人を、月の女神が退治するって話かい? それくらいぼくだって知ってるよ」
「そう、その神話だ。実はこの神話は央都や四都、その周辺の都市部ではあまり知られておらず、むしろ辺境の地ではよく知られているんだ。私はこの神話こそが謎を解く鍵なのではと思うんだ」
「へぇ、そうなの?」
「うむ、さてここからが本題だ。授業を始めようじゃないか。まず火の魔人だがね、これはおそらく……」
「あ! いっけね、そろそろ朝ごはんの時間だ。ぼくもう行くよ!」
「これこれ、まだ話の途中というに……まったく猫とは気まぐれな生き物だ。ところで彼は知っているのだろうか。月の女神の末裔と言われるのが、彼のよく知る『魔女』だということを……」
* * * *
それは遠い遠い果ての世界の物語り。
その国は夜が支配し朝日が昇る事はなかったという。
人々は幾千ものかりそめの朝を迎え
来る事のないその時を夢見て、いつしか自らの国を
『夜明けの国』と呼ぶようになった。