行動目標 襲撃からの生還
いやー、今回もかなり遅くなったうえ、いまだに当初の目標すら果たせないなんて……本当に申し訳ございません!
なんかもう、上中下みたいな三段構成になってしまいましたが、次で、なんとか目標は果たせそうです。
それでは、どうぞ‼
二千一七年十月二日 午前六時三十分
オレ達が非日常へと足を踏み入れてから初めて迎える朝。
オレ達の気分とは裏腹に、気持ちの良い快晴であった。
昨晩は、テントを二つ並べ、二人づつに分かれて就寝した。
女子と二人同じテントで、というのは少々アレだったが、疲れていたこともあり、ぐっすりと眠れた。
午前七時に起床予定だったが、三十分ほど早く目が覚めたようだ。
今起きているのはどうやら自分だけのようなので、出来るだけ音をたてないようにテントから出た。
昨日シャワーを浴びた際に着替えているので、着替える必要は無い。
少し残った眠気を覚ますために、外周にある水場へと歩いて向かう。
少し朝靄が掛かっていたが、視界不良というほどでもない。
数分間歩き、水場に到着した。
フェンスから外の様子をうかがってみたが、特におかしな様子は無い。
風の音すらなく、ただ水の音だけが響く世界。
あの惨事なんて無かったのではないかと思えてくるほどだ。
顔を洗い終え、眠気を覚ました所でヘリへと歩きだす。
本当にこの世界には音が無い。
唯一の音は自分の足音だけ。
悲鳴も、うめき声も、物音一つ無い。
おかしい。
昨日は時折爆発音すら聞こえていたのに、あまりに音が無さ過ぎる。
昨日の出来事が、本当に夢か何かだったのだろうか。
いや、そんなはずは無い。
第一、もしすべてが夢だったとして、なぜ自分はこのだだっ広いグラウンドのど真ん中でテントを並べて女子と仲良く眠っていなければならないのか。
つまりこれは夢でもなんでもない。
とりあえず辺りを見回した。
無意識のうちに右太ももへと手が伸びた。
もしも今レッグホルスターを装備していたのなら、迷わず拳銃を抜いただろう。
何一つおかしな様子など無いと思っていたのだが、水場の一つとなりのフェンスが、開いていた。
ここは昨日シャワーを浴びて帰ってきたときに、確実に施錠したはずなのに。
その施錠したはずの鍵は、無理な力を掛けられたかのように壊れていた。
とにかく走った。
もし今襲われたら、恐らくまともな戦闘も出来ないままに全員やられるだろう。
行きの半分以下の時間でヘリに着いた。
すると、ちょうどナナがテントから出てきた所だった。
「そっちの二人起こして銃用意して。すぐに離陸するから」
声を掛ける前に指示が飛んでくる。
「ここ、すでに囲まれてるから」
続いてナナから出てきた言葉は予想外だった。
囲まれている、言葉通り受け取るなら、このグラウンドが包囲されている、ということだろうか。
聞き返そうとするが、すでにナナは操縦席で離陸の準備をしている。
とにかく。
「おい二人とも起きろ! 緊急事態だ‼」
「んぁ? もう少し寝かせろよ……」
「さっさと起きろ! フェンスが破られたぞ!」
寝ぼけていたケンにッそう言うと、一発で目が覚めたように、ついでに血の気も引いたように、
「マジかよ……」
と飛び起きた。
ちなみにタクヤは何も言わず、静かに起きた。
「破られたって、どういう事だよ」
「向こうの、昨日シャワー浴びるときに通った所の鍵が壊されてたんだ。しかもナナによるとすでに包囲されているらしい」
そこまで説明し、エンジンの掛かりかけたヘリからレッグホルスターと拳銃、スリングを取り付けた89式と各予備弾薬、それと双眼鏡を取り出し、装備する。
双眼鏡で外周を見回してみたが、敵の姿は見えない。
索敵を同じく装備を整えたタクヤに任せ、テントの片付けをケンと二人でする。
ヘリの離陸までは、気温が低いこともあり、もうしばらく時間が掛かりそうだ。
テントの片付けをケンに任せ、少しでも時間を稼ぐために軽トラックでフェンスを塞ぐべく、エンジンスタート。
と、ほぼ同時に、いったいどこに隠れていたのか、全方向からキラーの群れがフェンスに向けて押し寄せてきた。
しかし、フェンスに阻まれて中には侵入してこない。
ただ目の前の一か所を除いて。
フェンスを塞ぐのを諦め、助手席のシートにピンを抜いた手榴弾を挿み込み、エンジンはそのままに外へ飛び降りる。
破片を防ぐためにその場で伏せると、フェンスにぶつかった衝撃でレバーの外れた手榴弾と、軽トラックに残っていた燃料が爆発したことで発生した熱風が背中を吹き抜けた。
前の方にいたキラーは吹き飛ばせたが、何しろ数が多く、後ろの奴らにはダメージが無かったようだ。
こうしている間にもどんどん数は増えて行く。
ある程度距離を取ってから、射撃しつつ後退した。
タクヤからの援護射撃を受けながら、何とか侵入を遅らせる事は出来ているようだが、この様子だと他のゲート部分が破られるのも時間の問題だろう。
少しずつその数に押されながらも、何とかヘリまで戻る。
ヘリのエンジンは少しずつ温まっており、プロペラの回転数が上がっていく。
タクヤはヘリに乗り込み、ガンポートから射撃を続け、オレはケンに06式小銃てき弾を取ってもらい、密集している所へ向けて撃つ。
この分だと、何とか離陸は間に合いそうだ。
が、フェンスに群がっているキラーの中に、他のものとは明らかに違う個体を見つけた。
なんとそいつは、フェンスを登り出したのだ。
普通奴らの運動神経は、元の人間よりも数段劣るものだと、経験から知っている。
そんな奴らに、フェンスを登るなんてことが出来るはずが無い。
射程距離外にいるその個体に注意しつつ、次々に侵入してくるキラーに向けて射撃を続ける。
が、そいつはフェンスを登り切り、なんと、信じられない速さでこちらに走ってきた。
陸上の世界選手を越えるような速さで走ってくるそいつに向けて、銃を撃つ。
しかし動き続けるそいつに有効弾を当てる事は難しく、あっという間に接近されてしまった。
もし、ここでケンが撃った弾が中っていなかったら、オレは間違いなくそいつにやられていただろう。
「ありがとう、助かったよ」
離陸したヘリの中で、ケンに礼を言う。
「ああ。にしてもあいついったい何だったんだ?」
「分からない。ただ凄い速さだった。今後、もしああいう個体と遭遇したら、いままで以上に注意しないとな」
窓からついさっきまでオレ達が居た場所を見下ろすと、すでにいくつかの部分が破られ、フェンスの中はキラーでいっぱいになっていた。
「にしてもあいつら、なんで一斉に襲ってきたんだ?」
誰に問うでもなく言う。
「恐らく、避難所にいた人達ね。その中に、突然変異体なのかなにか知らないけど、統率能力を持った個体が現れ、生存者の居場所を突き止めて一晩掛かりで今朝の襲撃の準備をした。そんな所でしょ。さっきの足の速い個体も、そう言った特異能力を持っていた、と。これは推測なんだけど、伝染元になった個体、つまり、騒動が始まる前にヘビに噛まれ、治療を受けた人達が、そういう特異能力をもっているんじゃないかしら」
このナナの説が、少ない情報の中で一番優秀なものだと、オレは思う。
なんにせよ、予期せぬアクシデントはあったが、今度こそ塩素の調達へと向かう。
皆様の冷やかなご意見、ご感想等、お待ちしておりま~す。




