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行動目標 装備調達

ほぼ一カ月に一話投稿を目指していますが基本的に遅いです。すいません。

あと、数字と漢数字が混ざっているのはあくまで「仕様(笑)」です。

いつのまにかお気に入り登録が6件もありました。ありがとうございます。

評価も12ポイントになっていました。これからもがんばります。


二千一七年十月一日 午後三時


ヘリに乗り込んでから学生寮の屋上へ着くまで、そう長い時間は掛からなかった。

「ナナ、そこの3号棟の東のヘリポートに着陸してくれ」

「了解」

三号棟は全部で4つある寮の中でも一番大きく、床面積が異様に広い。

3階建てではあるが、平べったく見える。

寮の屋上にはそれぞれ寮の正面(入り口側)、側面(正面向かって左側)、裏、と、3つのヘリポートがあり、東はちょうど寮の裏側になる。

人影がないのを確認してから寮の屋上に降り立ち、辺りを見渡す。

爆破した所は窓が割れているのが見えたが、自動消火設備が働いたのだろう、すでに鎮火していた。

奴らは寮の周りにはほとんどおらず、避難所のあたりに密集しているようだ。

「あれ、開けるんでしょ?」

ナナが隣にきて、屋上の端、正面向かって右側を指さした。

「ああ。そのために来たようなもんだからな」

平坦で何もない屋上だが、そちら側には倉庫と、大きな格納庫があった。

「そう言えば屋上に来たのって初めてだな。あの倉庫は何なんだ?」

ケンが聞いてくる。

確かに、ヘリポートはあるが、上に上るための階段は無い。

「まぁ開けてみれば分かるさ」

オレは答えず、倉庫へ近付く。

「ナナ、頼む」

「りょーかーい」

倉庫の扉には電子錠が掛かっており、32ケタという超絶長い暗証番号を入力しなければ開かないようになっていた。

しかしナナはテンション高めに、その長い暗証番号を打ち込んで行く。

「はい、開いたよ」

ナナがロックを解除し、オレが扉を開ける。

その中にあったのは、

「これ……本物なのか?」

ケンが驚くのも無理は無い。

そこにあったのは、いや、決して広くは無い壁際を埋め尽くすように並べてあるものは、拳銃から対戦車誘導弾まで、様々な銃火器だった。

「本物じゃなかったらわざわざ取りに来ないだろ」

入り口のすぐそばにスイッチを見つけ、押す。

照明が点灯し、より鮮明に銃が見える。

倉庫の中は棚で二つに区切られていた。

「89式にMP5J、レミトンM24、パンツァーファースト3、あとは、9ミリ拳銃と06式小銃てき弾。あ、USPとグロックもある」

ナナがおいてある銃を確認する。

「弾薬は……この棚にあるヤツか」

棚には木箱が置いてあり、中身は弾薬だった。

「これは、89式5,56ミリ普通弾か。すげえな、いったい何発あるんだ?」

箱を開けてみると、89式5,56ミリ普通弾、5,56ミリNATO弾がぎっしりと詰め込まれていた。

「正確には分からないけど、戦場の最前線でも1週間は持ちこたえられそう。敵と積極的に戦ったとしても半年は持つかな」

敵を避けて行動すれば当分弾薬に困ることはなさそうだ。

他の箱を開けてみたが、9ミリパラべラム弾、7,62ミリNATO弾、手榴弾等、各種弾薬が詰められており、必要なものは全てそろっているようだ。

「そろそろ教えてくれよ。これは一体何なんだ?」

ナナと二人、銃を触っていると、入り口からケンが聞いてきた。

「警察の特殊部隊、SATと自衛隊の特殊作戦群の装備だけど?」

ナナが振り向かずに答える。

「いや、だからなんでそんなものが寮の屋上にあるんだよ……」

「ここは有事の際の防衛拠点になってるからな。SATと特殊作戦群の初動部隊が装備を整えるために選んだのが寮の屋上ってわけだ。ほら、屋上に上るための階段が無かっただろ? 一般人が簡単に入れないためだよ」

立て掛けてあった89式をいじりながら補足する。

「いや、だって……なんでここが防衛拠点なんだ? なんで二人はそんなこと知ってる? 大体、どうやって暗証番号を……」

「あーもううるさいな。ナナ、説明してやってくれ」

めんどくさいのでナナに説明を任せる。

「ここは都心に近いし、海に面してるから拠点にしやすいの。私達が知ってるのは前に屋上を覗いたから。暗証番号は覗いた時に盗み見して覚えたの。これでいい?」

ナナがケンの質問に全て答える。

「ほら、いつだかに消防の消火訓練とかいって屋上にヘリが止まってたことがあっただろ? 気になったからナナを呼んで屋上に登ってみたら、SATと特殊作戦群の合同部隊が装備を搬入してたんだよ。

その時に隊員が持ってたマニュアルに書いてあった暗証番号をナナが見て覚えてたってわけだ」

追加で質問されそうなことを先に答えておいた。

ケンは納得したようには見えなかったが、それ以上追及はなかった。

「で? その銃使えるのか?」

「おう。一通り見てみたが整備はばっちり、今すぐにでも発砲できるぞ」

「そういう意味じゃない……撃てるのかっていうのは俺達が使えるのかってことだよ」

「オレとナナは大丈夫だ。ゴールデンウィークにグアムで一通り撃ってきたから。運営の兄ちゃんがブラボーって手叩いてくれてたよ」

そう言うとケンは本当に何も聞いてこなくなった。

「そうだ、タクヤ、お前は撃てるのか?」

一応聞いてみると、

「撃ったことは無いが教えてもらえればたいていのことは出来る」

とのことだったので、外で試し打ちをすることになった。

まずはMP5Jから。

「ここを引いてストックの長さを合わせて、セーフティーをセミオートにする。後はこのサイトで照準を合わせて引き金を引く。どうだ? 出来そうか?」

返事の変わりに一発の銃声が返ってきた。

驚くことに100mほど先にいたキラーが頭部から血を流し倒れていた。

うん。とにかく凄い。

反動もうまく受け止めており、もう少し口径の大きな銃でも撃てそうだったので、今度は89式を撃たせてみた。

「これは固定ストックだから調整はいらない。セーフティーを「ア」から「タ」にして撃つ」

簡単な説明をすると、少しの間があって銃声。

今度は200mほど先のキラーの首を貫通していた。

もう何をいっていいのやら。

次はケンの番だ。

「ほら、タクヤは撃ったぞ。ケン、お前もやれ」

「むりだって」

「じゃあ弾薬運搬係ね。さっきの荷物よりもはるかに重いけど」

ナナが決定。

「もうそれでいいよ……」

ケンも了承した。

「でもいいの? 重い荷物を持って機動力を失ったうえに個人自衛用火器も持たなくて」

ナナがなんか脅しに掛かる。

「え、だってお前らが守ってくれるだろ?」

「前方はね。後ろから来たらどうするの? それに、いつでも完璧に守るっていうのは無理でしょ。あと、拳銃は自殺しやすいからいいかもよ?」

「う……う~ん」

最後は脅迫にも聞こえなくもないが、とりあえず考え込むケン。

「まぁ一回撃ってみろよ」

ケンに弾を込めたSIG SAUERP226を渡す。

ちなみに、本来特殊作戦群で採用されているUSPもあったのだが、45ACPモデルだったので装弾数が少なく、さらに撃ちづらいので使用は見送った。

代わりに、「9ミリけん銃改」という名称で保管されていたSIG SAUERP226を使う事にした。

「マニュアルセーフティーが無いから注意しろよ」

「なんだよそれ」

「安全装置が無いと思え。あと撃つ時以外トリガ―に指を掛けないこと」

それと少しの説明をして、いざ実射。

あれだけ弱気な発言をしていた割には案外まともに撃てており、グルーピングも悪くない。

「あれ? 思ったより軽く撃てる」

本人はこんなことを言っているが、9ミリパラべラム弾はどちらかと言うと反動が強い方で、日本人には撃ちづらいと言われている。

「でもこれだと一応ダブルカラムとはいえ装弾数も少ないし、もうちょっと弾幕張れた方がいいよな。ナナ、さっきG18cがあるって言ってたよな?」

「うん、奥に1丁だけ」

確かにナナの言うとおり、倉庫の一番奥に1丁だけG18cが、大量の予備マガジンとともに置いてあった。

「よし、ケン、こいつを使え。コンペンセイタ―が付いてるから反動が軽くなるし、ロングマグが大量にあるおかげで十分弾幕も張れる。フルオートついてるからな」

「弾幕って、いったい何発入るんだ?」

「33発だ」

「マガジンエクステンションがついてるから35発ね」

ナナが訂正する。

「だってさ。89式よりも多いな、うん。大丈夫だ。シグよりちょっと重いけど」

と、言う事で、全員の装備が決定した。

オレとナナとタクヤのメインが89式、サブがP226。

マガジンは、戦闘防弾チョッキから必要のないセラミックプレートをはずしてそこに入れた。

特殊作戦群使用なのか、マガジンは2列に入るようになっており、合計8本入った。

拳銃は、足に巻きつけるタイプのマガジンポーチがあったので、それを左足に巻き、使う事にした。

こちらには4本入った。

ケンは、予備のマガジンとバラの弾薬、手榴弾その他を入れたバックパックを背負い、護身用にG18Cと35連マグ。

グロックのマガジンは、幸いSATのMP5用のマガジンポーチに入ったので、そこに入れる。

こちらは全部で6本入った。

あと、全員共通で、コンバットナイフとライトを持った。

「あとは移動手段だな」

オレ切りだす。

「そう言えば向こうの倉庫にはなにが入ってるんだ?」

ケンがここから離れたもう一つの倉庫、いや、格納庫を指さして言う。

「そう言えば前に覗いた時には開けてなかったけど……」

ナナの疑問に答えるべく、話を進める。

「あれはな、オレの私物だ」

「は?」

ケンが声を上げる。

「私物? じゃあ何があるの?」

ナナが聞いてくる。

「私物って言ってもずっと空になってたから勝手に使わせてもらってるだけで、格納庫自体はオレのものじゃないけどな。まぁ見てみろよ」

そう言って格納庫に近づき、扉に手を掛ける。

そして一気に開け放す。

「ch-47?」

ハテナの前に小さなビックリマークが付いたようなセリフだった。

「そう。部品単位で海外から購入して、こっちで組み立てたんだ」

「スペックは?」

また小さなビックリマークが入ったような口調で聞いてくる。

心なしか目も輝いているようだ。

「それが……飛べるまでには組み上げたんだけど、肝心のエンジン部分が途中で、カスタムどころか、本家よりもスペックダウンしてるんだよ……」

「一番大事な所なんだから最初に組めばよかったのに……」

ナナが少し残念そうに言う。

「ま、まぁ他の機能は本家よりも少し秀でてるから、文句無しで……。あ、あと、運搬能力重視だから、内部は普通の機体よりも少し広いし、最大積載重量も上がってるから」

「うん。……ならよし」

なんとかナナの許しを得たようだ。

ナナは航空機に対しては特に思い入れがあるようで、操縦技術も大したものだが、その愛着も凄いものだ。

もしももっと中途半端なヘリを組んでいたら、きっと怒られていただろう。

「じゃあ、飛びますか。操縦は……」

「もちろんナナに任せるよ。頼むぞ、成績最優秀者さん」

「最後のなによ……って言うかナギサ君が下手なだけでしょ。アクロバット飛行の実習で墜落しかけるなんて信じられない」

「仕方ないだろ!? 大体、大学でアクロバットなんて無理だって‼」

「無理じゃない。落ちかけたのはナギサ君だけだったでしょ?」

「それはナナが超高難度技をやらせるからだろ!?」

「え? わたしはただ、こんな簡単な技も出来ないの? って言っただけだけど……」

真顔で言われるともう言い返す気にもならない。

「まぁいいや。で? やってくれるよな? 輸送ヘリで空中一回転なんてやってたんだから」

「やってほしいの?」

「やめろ! いや、やめてくださいマジで‼」

一通り落ち着いた所でケンが口を開いた。

「そういえばさ、この装備、自衛隊とSATのだっていったよな? 全部持っていっていいのか?」

確かに、後で隊員が来て、装備が丸ごと無くなっていては、作戦行動は愚か、自衛すらできないという事態になりかねない。

「さすがに全部はもっていかないから、後から人が来ても大丈夫。89式数丁と弾薬一式、あとけん銃数丁と、たぶん使わない45ACP弾。まぁ、使うかもしれないから45ACPも一部は持っていくけど、半分以上残すから、十分戦える。もっとも、戦える人がいれば、の話だけど」

ナナが説明する。

「いやなこと言うなよ……」

ぼそっとケンが呟き、それを聞いたナナが続ける。

「事態が起こってからもう2時間ほど経ってるのに、だれも来てない、来ないってことはそういう可能性が高いでしょ」

ナナはあくまで冷静に言った。

さらに続ける。

「SATは警視庁から来るから時間が掛かるとしても、特殊作戦群はこの施設内にいたんだから」

…………ん?

「この施設内にいたってどういう事だ?」

オレが聞く。

「え? 気付かなかったの? 大学の講師とか付属高の教師とか、何人も特殊作戦群の隊員がまじってたのに」

「いや、まてまてまて。うそだろ? そんなの気付かなかったぞ? っというか普通気付かないだろ……」

普段の生活の場にそんな人物が紛れ込んでいたことに驚きつつ、ナナの超能力的観察能力にもかなり驚いた。

「例えば、英語講師だったら、英語の発音、イントネーションの所々に自衛隊用語の名残が見えたり、付属高の体育教師は結構うまくまぎれてたから、廊下いグリス塗って試してみたら、ビックリするほど受け身がうまくて、体内のダメージコントロールも完ぺきだった。普通の体育教師ならこうはいかないでしょ。ほかには、物音に敏感だったり、廊下や教室で必ず最初に人と物の数と位置を把握する、みたいに索敵のくせが抜けてなかったり。一番分かりやすかったのは、誤作動で警報が鳴った時。腰に手がいってる人や、懐に手を入れてる人もいたから。

あとで観察してみたら、内ポケットに折りたたみナイフと、ズボンのベルトに銃弾が一発。たぶんベルトが発射装置になってるんだと思うけど」

ナナが言うのなら間違いないのだろう。

いやーほんとに全く気付かなかった。

「そういうことだから、必ずしも死んでるってわけじゃないでしょ。あの人たちはナイフ一本で一週間は生き延びる人たちだから」

「だな」

質問者であるケンをほったらかしで話しを進めてしまったが、ケンはなにやら複雑そうな顔をしたままで、口は開かなかった。

ちなみにタクヤはいつも通りだ。

「あ、そうだ。せっかくだし、着替えていかないか? この季節とはいえ汗もかいたし、返り血も浴びたしな」

オレが提案する。

「うん。防弾チョッキと一緒に作業服もあったし、いいかも」

ナナも賛成してくれるようだ。

「じゃあ着換えるか。二人も着換えるよな?」

一応確認を取っておく。

「え? あ、ああ」

「…………」

二人も異論は無いようだ。

倉庫の奥からそれぞれサイズの合うものを選んだ。

「じゃ、三人とも外で着換えてね。特にタクヤはさっさと出て行って」

ナナがさも当然と言うように男子陣を追い出した。


―数分後―


外で着換えるのはそれなりに寒かったが、とりあえず着換える事は出来た。

作業服(迷彩)と言うだけあって、変な校則で強制されている制服もどきよりも断然動きやすそうだ。

ちなみに、ヘルメットもあったが、特に必要もなさそうなので、軽量化の意味も込めてパスした。(変な校則と言うのは、「同じ施設で学ぶのだから、高校生大学生の間に溝を作ってはいけない。なので服装もスーツではなく、制服を着用すること」と言うものだ。もっとも、付属高には正式な制服があるのだが、大学側はあくまで「制服っぽいもの」なので各自自由に選んでいる。まぁわざわざ新しく買うのもめんどくさいと言う人も多く、高校時代の制服の丈を直して来ている人も多い)

「おまたせ」

ドアが開き、迷彩服に着替えたナナが出てきた。

「…………」

どうにもリアクションが取れずに黙っていると、

「そう? そんなに似合ってる? 照れるな~」

「だから! 人の思考を勝手に読むな‼」

まぁ確かに本心ではあるが。

迷彩服はナナにとてもよく似合っていた。

その後は、しばらく無言でタクティカルベルトにレッグホルスターや各種ポーチ類を装着し、完全武装状態になった。

いやはや、予備自衛官ぐらいならやろうかと思ったこともあったが、まさかこんなことになろうとは。

「っと、もうひとつ大事なこと忘れてた。あぶねー」

「大事なことって……ああ、そう言えばケンの部屋になにかあるんだっけ?」

「さすがによく覚えてるな。ケンの部屋にあるのはサバイバルグッズだ。まぁほとんどは食糧だけど。それを取りに行く」

「でもケンの部屋って一階だったはず、ロープ降下でもするの?」

「さすがに練習無しじゃ無理だ。ヘリの後部ハッチに昇降用の小型クレーンがあるからそれで下りる。部屋に着いたら食糧を確保、一度上へ上げる。で、もう一度ロープを下ろしてもらって、オレが上へ上がる」

「分かった。じゃあ最低限の準備はしないとね」

「そうだな。89式はかさばるし、拳銃とナイフだけ持っていくか」

部屋にキラーはいないだろうが、もしもに備えて個人自衛火器は持っていく。

2本のマガジンに弾を込め、1本を銃に挿し、初弾を装填、マニュアルセーフティーが無いので代わりにデコッキングレバーを下ろし、ハンマーを戻した。

次に、ヘリからロープを取り出し、器具で腰に固定する。ケンの部屋へは真っすぐ下りればベランダに着くので、ヘリの向きを調整する必要は無い。

空のバックパックを持ち、降下する準備は整った。

「と、そうだ、まだ家主に許可を取って無かったな。ケン、使えそうなもの全部持ってきてもいいよな?」

一応確認を取っておく。

着換えと違い、他人(ひと)の家に入るのだから、勝手なことは出来ない。

「ああ、いいよ。こういうときのために集めてたんだからな。台所の床下収納に固めて置いてある」

「分かった。そうだ、何か取ってきて欲しいものとかあるか? 」

「いや、特には……あ、テレビの横にある浄水セットを忘れるなよ、それとフィルターも」

「分かった……エログッズはいいのか?」

「要るか! ……いや、まてよ? 過激過ぎて発売中止になった写真集だけ……」

「冗談に決まってるだろ。マジになって考えるなよ、気持ち悪い」

「酷くないか!?」

しょうもない冗談を挿み、緊張をほぐす。

「じゃあ行ってくる。ナナ、下ろしてくれ」

ゆっくりと降下していく。

十秒ほどで下に着いた。

周りにキラーがいないことは上から確認してある。

ナイフを窓の隙間から差し込み、鍵を開ける。

「さて、床下に食糧、テレビの横に浄水器だったな」

この部屋には何度も来た事があるうえ、間取りはほとんど同じなのでどこを探せばいいか迷う事は無い。

まずは床下から食糧を取り出す。

あったのは、災害用備蓄米や、缶詰、フリーズドライ食品に、軍用レーションまであった。

そういえばケンと出会ったのはミリタリーショップだったな、あの時もレーションを探してたんだっけ。

春の事を思い出し、少し懐かしい気持ちになる。

昨年の冬、近畿地方を大地震が襲った。

前から予測されていた南海トラフ地震だ。

近畿地方と四国、中国地方の一部が甚大な被害を受けた。

幸い原子力発電所は無事で、事故は起こらなかった。

しかし、埋立地は沈み、四国は一時孤立、近畿地方はほぼ壊滅状態であった。

膨大な量の被災者は全国へ散り、多くは北海道へ移った。

オレもそんな被災者の一人だ。

外にいたおかげで難を逃れ、救助活動にも協力した。

しかし、あまりにも規模が大きすぎた。

死者、行方不明者は日本国民の約10分の1に上った。

学校の仲間も大勢死んだ。

高校の卒業資格はもらえたが、進学予定の学校は、もう学校としては機能出来なかった。

今は国の援助を受け、この、東京都と千葉県の県境をまたぐように造られた巨大な教育施設に在籍している。

ケンがこういったものを集めているのはそのことも大きかったと言っていた。

と、そんなことを考えているうちに、全ての食糧、水を詰め終わった。

最後に浄水セットも忘れずに入れる。

が、肝心のフィルターが見当たらない。

いろいろと物を動かし、やっと見つけた。

(実は目の前のテレビラックの中にあったのだが、気付いたのは最後の方だった)

ついでに、警棒とバール、ジャッキが出てきたので、それも持っていく。

用が済んだので、再びベランダへ出る。

と、不意に入り口のドアが破られた。

キラーが中へ入ってくる。

「くそっ、音を立てすぎたか!?」

ナナが言うには、五感、少なくとも視覚と聴覚は機能しているらしい。

すぐにホルスターから銃を抜き、ハンマーを指で起こす。

引き金を引く。

久しぶりに撃ったが、まだまともに撃てる。

出来る限り頭を狙うが、オレの腕のせいか、緊張のせいか、うまく中らない。

ヘッドショットを諦め、ダブルタップで胴体を狙う。

いくら凶暴化していると言っても、人間に変わりは無く、生命力も同じようだ。

ホールドオープンするまで撃ったが、次から次へと入ってきてキリが無い。

リロードし、急いで後ろへ下がり、ロープを体で繋ぐ。

屋上から下を覗いていたナナに合図を送り、引き上げてもらう。

上昇しながらも射撃は止めない。

オレが一階部分よりも高く上がるのと、キラーが部屋を埋め尽くすのはほぼ同時だった。

「あぶねー」

なんとか無事に屋上に辿り着き、詰めていた息を吐く。

「急に銃声がするからビックリしたよ」

ナナがこちらへ近寄ってくる。

「悪い、ちょっと音を立てすぎたみいだ」

それからケンの方へ向き、続ける。

「悪いなケン、お前の部屋めちゃくちゃにしちまった」

「いいって。当分戻ることは無いだろうから」

「で? 何があったの?」

ナナが聞いてくる。

「浄水セットのフィルター探してたらキラーが……」

そこまで言った所でナナが口を挿む。

「じゃなくて、どんなものがあったのかって聞いてるの。どんなことが起こったかなんて興味無いから」

「酷くないか? だってさっき心配したみたいなこと言っただろ!?」

「私はビックリしたっていっただけ。心配はしてない。で? 何があったの?」

悲しくなるのであまり気にしないことにする。

「えーと、フリーズドライ食品と米、缶詰に軍用レーション。まぁそんな所だな。あと警棒とバールとジャッキがあったから持ってきた」

「そう、分かった。あ、マガジンに弾、込めといたから。なんかタクヤが異様に早くて驚いたけど」

「それは助かるな。弾込めは力仕事だからな。今度からはタクヤに頼むか」

微笑し、話す。

「じゃ、今度こそ飛びますか」

ナナが言う。

「目的地はどこにするの?」

「そうだな、安全な所、と言いたいところだけど、日本だけじゃなくて世界中がこうなってるなら無理だろうな。出来れば自衛隊に合流したいな」

「ならテレビに映ってたバリケードね」

「場所分かるのか?」

「背景で分かる」

「やっぱりすげぇな。でもその前にスイミングスクールに寄りたいな」

スイミングスクールと言うのは、東京寄りの施設の端にある室内温水プールだ。

水泳部の冬季の練習場所に使われるほか、一般の人でも入ることが出来る。

「塩素の調達?」

ナナが目的を当てる。

「そう。弱点が分かってるのに突かない手はないだろ?」

「じゃあ早く乗り込んで。途中に生存者がいたら救出しつつ、向かうから」

「頼んだぞ」

「任せといて」


装備を整えると言う目標は達成した。

次なる目標は、敵の弱点、塩素を調達することに決定した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、文法の誤りがあればご指摘いただければ幸いです。

コメント待ってます!

目指せPV10000! ユニーク1000‼


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