最期の時を
十月二十五日
午前五時三十分
「モルヒネ、まだあるか」
「これで……最後です」
あの後、学校には戻れた。だが、俺の体はもう限界だった。
噛まれた箇所を中心に、全身に激痛が走る。モルヒネを使わなければ今すぐにでも意識を失いそうなほどだ。
「外に出してくれるか」
ナナに肩を借り、校庭へ出る。
日の出前の薄暗い中、建物の輪郭が見え始める。
「ここからは……一人で行く」
まだ、自分の意識があるうちに。
少しでもここから遠ざかる必要がある。
さっき打ったモルヒネが効いている間に。
「いいえ……ここで終わりです」
「ナナ……?」
「約束、ですから」
ナナは俺を校門の近くの木に下ろし、スカートのポケットから拳銃を取り出した。
「無理するな……まだ歩けるさ」
「約束は守ります」
ナナの目は、真っ直ぐ俺を見つめている。
その目に迷いは無い。
「そうか。ごめんな」
「あやまらないでよ。最期は、さ。こんなこと無理だろうけど、何も思い残してほしくないの。きっと、あなたは優しいから、私に重荷を背負わせることになるって気に病むでしょ」
「そう……かもな」
「ええ。だから最期くらい、気楽に死んでちょうだい」
「気楽に死ね、か。お前らしいセリフだな」
ナナが俺の体を抱く。
涙を浮かべながらも、その顔は笑っていた。
抱き返す力は、もう無かった。
「それじゃぁね」
「ああ、お前も元気でな」
さようなら―
今日もまた、東の空が紅く輝く。
今回の更新をもちまして、「世界史最後の物語」を完結とさせていただきます。
長い間、大変お世話になりました。
本当にありがとうございました。




