休息
十月八日 午午後三時
なにはともあれ、しばらくここで生活していけるに足る物資を揃えることができた。
ライフラインは壊滅状態だが、水と燃料、LEDランタン等もある。簡易的だが生きるのには困らない。
「あの……」
「どうした?」
「お風呂とかって……無理ですよね?」
残念ながら無理だ。
そう言いたいところだが、衣食住のうち、今一番心許ないのは衣類だった。
自衛隊から拝借した迷彩服が二着と、校長室にあったセーラー服と学ランが一着ずつ。そして、カッターシャツが数枚と、コンビニ等から取ってきた下着や肌着。衣類はかさばるため、どうしてもあとまわしにしてしまった。せめてジャージかなんかを取ってきておけばよかったかと思う。
洗剤や水があるとはいえ、無駄遣いはできない。
であれば、汚さないように心得ることが大切だ。
戦闘時に付着する血液だけでなく、汗などにも気を付けなければ数日放っておくだけで悪臭を放ち始める。
そして、体の汚れを落とさなければいくら服を洗濯したところで無駄だ。
井戸があるので使い過ぎにさえ気を付けていれば水の心配はあまりないが、燃料は限られている。
夏ならば冷水のシャワーでも良いのだが、今の季節にそれをやるわけにはいかない。
以前のクリアリング時に、発見したものの中に錆びたドラム缶があったので、簡易的な風呂を作ることは可能ではある。
だが、現実的には二日に一度程度のシャワー、一週間に一度程度の入浴がいいところだろう。
できるだけ燃料は節約したいので、太陽光を最大限利用したい。
考えていてもしょうがないので、とりあえず作り始めてみようと思う。
お風呂を作るというと、ナナは喜んで手伝ってくれると言った。
「どうするんですか?」
「とりあえずドラム缶磨いてくれるか?」
「はい!」
ナナにたわしで錆びを落としてもらっている間に、トタンなどを使って簡易的にだがついたてを作る。
俺たち以外には誰もいないので、別に隠す必要はないのだが、開放的過ぎても落ち着かないのは俺もナナも同じだろう。異性として意識されているかは不明だが、ナナにとっては男と暮らしている以上、その辺は気を使ってやりたかった。
シャワーについては、金属製のバケツの底に幾つか穴をあけ、上からお湯を入れて使うことにした。
理科室などに置いてあった鏡を持ち出し、ソーラークッカーと同じような感じでバケツを中心にして並べる。
これで、晴れている日は燃料代を節約することができる。
それらの作業が終わるころには、ナナがドラム缶の錆びを落とし終えていた。
コンクリートブロックで作った台の上にそれを置き、ついたてを並べて完成。
ついたてのうち一枚は、下三分の一ほどを切り取っておいたので外から火をみることができる。
「早速はいってみるか?」
「はい!」
せっかく完成したので、さっそく使ってみる。
井戸から水を汲み、火を起こす。
「よし、そろそろいいだろ」
火おこしの様子を横で見ていたナナに入るように促す。
「その……覗かないでくださいよ?」
「覗かない覗かない」
しばらく目を合わせたのち、ナナが裏側へと回る。
衣擦れの音に続き、少々水があふれる。
「ふぅ~」
「湯加減はどうだ?」
「ぬるめで気持ちいです」
「そりゃよかった」
とりあえず火の加減は良さそうだ。
「あ、着替え……」
「とりあえずシャツと下着は持ってきたぞ」
「……ありがとうございます」
ナナの声のトーンが少し下がった気がする。なぜだ?
「あの……お兄さんは、もう少し女の子のことを考えて行動してもいいと思います。その……下着、とか」
「あ…………ごめん」
今までのナナをあまり異性として意識していなかったため、どうしても気の知れた同性と同じように接してしまう。これからはもっと気を付けていこう。
と、そうしたいわけだが。
現実的な問題として、この世界はナナにか弱い女の子として生きていくことを許してはくれない。
だが、今。すくなくとも、俺と一緒にここにいるあいだだけでも、安心して普通に暮らしてほしいと、そう思うのだった。




