1-0 set up
『共感覚』
これが僕の選んだ『特殊能力』だ。
10という思わぬ数字によってなんとか命拾いした僕ではあるが、それ以外の数値が1~3だと考えるとあまり裕福な(というか平穏な)日常は送れないだろう、と考えた。
勿論、裕福でないからといって生きていくのが困難だと決まったわけじゃない。けれど、ラクな道のりでないのは確かだろう。もしかしたら毎日を生きるだけで精いっぱいかもしれない。いや、毎日を“生きる”ことなど出来ないかもしれない。
出来れば、食うのに困ることだけはしたくない。
そう思い、僕の中で一つの結論に達した。
技術を身につけよう。
いわゆる「手に職」というヤツである。
異世界でどういう仕事があるのかはわからないが裁縫や調理、金属加工の技術などがあれば、なんとか食いつないでいけるだろう。
それゆえの「器用さ」である。これさえあればとりあえずどんな繊細な仕事でもそれなりの適正はあるだろう。
そして、もうひとつの能力値を何にするか。
そこで選んだのが『特殊能力』であり、『共感覚』だった。
これはとある海外ドラマの主人公格の男が使っている能力で「他人の超能力をコピーし扱えるようになる能力」、要するにコピー能力だ。
ありがちだと言われても仕方がない。
しかしコレ、使い勝手が凄くいい。
コピーは相手が近くにいれば勝手にコピーされるし、コピーする能力の数にも限度がない。使用回数などもなく、発動条件も特にない。
明確な弱点はないのである。
強いて言えば「コピーする能力を選べない」「能力の種類によっては練習しないと上手く扱えない」などがあるが前者は使わなければいいわけだし、後者は最大まで高めた「器用さ」がどうにかしてくれるだろう。
そう思っていたのだけれど……。
|(どうして前世の記憶があるのだろう?)
僕は『記憶力』を選択していない。いや、できなかったというべきだろうか。
それなのに記憶を保持しているということは『器用さ』か『特殊能力』のどちらかとあの神様が選択し間違えたのだろうか?
でも気になることは他にもある。
たぶん、この家は金持ちだ。
僕に与えられた部屋は赤ん坊部屋にしては広すぎる。それに僕の世話をしてくれているのは産んでくれた人――母ではなかった。メイド服を着た金髪の妙齢の女性である。おそらく、乳母というヤツだろう。いや、ここは女性の容姿に合わせてメイドと呼ぶべきか。
しかし、子供に身の丈に合わない大部屋を与えて、さらにメイドを雇えているのだから裕福なのだろう。
つまり『出自』もそれなりにいいのだと思う。
そして、この赤ん坊らしからぬこの『認識力』はどうなのだろう? 高校生の時ですら僕にこれだけ色々と考えをめぐらす『知力』はなかったはずだ。心なしか頭の中がクリアである。
僕が現在確認出来る能力だけが高いなんてのは偶然が過ぎる。
これらの事柄から導き出される答えは「能力値が総じて高い」ということだろう。
しかし、実際こんなことがなぜ起きたのかはわからない。テスト期間ゆえのシステム上のバグなのか。はたまた僕の選んだ「共感覚」という特殊能力を選択したことで起きたエラーなのか。
それはまだわからない、というかたぶんあの神様が現世にでも降りてきてくれなきゃ一一生わからないだろう。
こればっかりは考えても仕方がない。
予想以上の高待遇が受けられそうなことを素直に喜んでおこう……なんて考えは赤ん坊らしくないな。
よし!
ここはひとつ、赤ん坊らしく何も考えずに眠ることにしよう。
有名な海外ドラマですから、能力の元ネタを知っていらっしゃるかたもいるのではないでしょうか?
正確に言うと元ネタには『共感覚』なんて能力名はついてないのですが、この方がわかりやすいかな、と思い勝手につけちゃいました。