0-4 Character Make 03
視点の切り替えって難しいですね。
幼児期は主人公以外の視点で進めようと思っているのですが、これは意外と得策じゃないかもですねぇ。
「はぁ」
その出目に彼は思わず声を漏らした。
落胆の声ではなく、安堵の声。
転生先を決めるゲームで悉く小さい数字を出し、先ほどまで土色ともとれる顔色をして「来世を捨てる」宣言をしていた少年もこれでなんとか思いとどまってくれるだろうか。
そう思い、神様役の私も小さく安堵のため息を漏らす。
最後に少年が出したのは“10”の目だった。
これでなんとかカタチにはなるだろう。
私は指を鳴らし、空間から転生者用の書類とクリップボード、ペンを取り出す。必要項目にペンを走 らせ、埋めていく。
そして例の四項目を前にしてペンを走らせる手を止めた。
肩を撫で下ろしているようにも見える少年に対し声を掛ける。
「それで、数値はどうしましょうか?」
「……質問してもいい?」
「どうぞ」
今日何度目になるかもわからない少年の問い掛けに私は応じる。
「『世界レベル』が2の場合と3の場合はどんな世界になるのか教えてほしい」
「『世界レベル』が2の場合、その世界に存在する全て生命体が滅亡の危機を抱えることになります。隕石落下か地上全てを飲み込む大津波か……理由は様々ですが。
『世界レベル』が3の場合は貴方が選択した種族が滅亡の危機を抱えます。環境への不適応か種族間の争いにより淘汰されそうなのか……こちらの方が理由は多岐に渡りますね」
少年は私の言葉を受けて顔を伏せる。
ルーレットを回す、というのも大事な工程の一つではあるが、もっと重要なのが数値の設定だ。
出た数値が3つ高くても“1”がひとつあれば完全にはならないし、逆に“10”が1つあるだけでかなり好条件を得られる場合もある。
どれもこれも本人の意思や考え方ひとつの問題だ。
そういう点でいえば、なかば人生を諦めていた少年が最後にどんでん返し、というこの状況は彼にとって数値以上にプラスに働いているだろう。
どう割り振れば少しでも転生先でも楽しくやれるのか、それをしっかりと考えているのだろう。
――これは案外成功かもしれませんよ。
実のところ、この「人生ゲームをつかった転生」というのは思い付きと悪ノリによって生み出されたものだ。
そのため、私自身「これはダメなんじゃないかな?」と内心不安な部分が多かったのだが、こうして見ると通常の転生方法にはないメリットもありそうだ。
しばらく顎に手をあてて思案していた少年は顔をあげ、私の両目をしっかりと見据えながら答えた。
「とりあえず『生物レベル』は“1”で、選択生物は『人間』で」
「はい」
これは予想通りである。
――今回はまぁ、そうですね。1や2でも人間をお望みならそうさせて頂きましょう。
私が気まぐれに言ったこの言葉がここにきて役だっているのだから、彼は運がいい。……いや、“1”を出した時点で運がいいとはいえないか。
「『世界レベル』を“3”、『能力値個数』を“2”に設定、そして――」
「『能力値レベル』を“10”ですね」
私が引き継いだ言葉に少年は首肯する。
まぁ、当然といえば当然だ。
『能力値レベル』には10以外振れないだろう。仮に『能力個数』を10にして、『能力値レベル』を3にした場合、全ての能力値が平均ということになる。『記憶力』『特殊能力』に至っては無いも同じである。
それならば最高ランクの能力を少ない数でもとった方が合理的だ。
たぶん、早い段階でこれは決めていたのだろう。
先ほどの質問からもそれは明白だ。おそらく彼が悩んでいたのは『世界レベル』と『能力個数』どちらを3にしてどちらを2にするか……それだけだ。
「どうして『世界レベル』を3にしたんですか?」
今日初めて私からした質問。それはちょっとした疑問からだった。
その問いの真意をはかるように私を見ながら、少年は選択理由を述べた。
「……隕石や津波といった不可避の超常現象の危機がある世界より、闘争や環境変化の方がまだいいと思っただけです。
争いごとは話し合いで妥協点を探ることだって可能なはずだし、それが無理にしたってやりようはいくらでもあるでしょう。環境の変化にしたって科学の進歩や技術革新が起こせれば生き残る方法はある筈です」
そんな、自らの努力次第では解決策を見つけることが出来る世界ならば、危機に瀕してもどうにかなるかもしれない。
その言葉を発する少年の目には強い意思の炎が灯っているように見えた。
先ほどまでとは随分と顔つきが変わったように思え、私は再度このゲームの有効性を確信した。
次回で転生も終わる予定です。
思ったよりもかかってしまいました。