3-9 enchant&enchant
「我流 『魂語胴断』」
振り上げた刀を力任せに振りおろしてきた。
それは一瞬の出来事。
しかし、その一瞬で脇差の如きその刀は全てを粉砕する大太刀へと化けた。
振り上げた時には短かった刀身が、振り下ろした時には有に5メル(メートル)はあり、それは僕が距離をとったことに意味がないという宣告のようだった。
「くっ!」
無手の僕にはそれを受ける術はなく、転がるようにして避ける。
僕が居たその場所に重量感のある刀身が深々と突き刺さり、地面を抉った。
メリメリと地鳴りのような音が響き、地表に亀裂が走る。
まるで局所的に地震でも起こったかのような有様だ。
そんな出鱈目な攻撃を見せられたら、流石に背筋が寒くなる。
「闘いだけが目的ならせめて木刀とかもうちょっと安全なモノ使えよ!」
「生憎わいが扱えるのは〈金〉だけやからなぁ。木刀だとこの技は使えへんねん。それに命がかからへんかったら、自分、真面目にやらんのと違うか?」
わかってらっしゃる。
という僕の言葉が音を持つよりも素早く男が斬りつけてきた。
「『薄月烟月』」
あまりの速さに霞んでみえるその剣を勘と経験で避けて、今度はこちらから攻める。
にしてもこの距離では虚をつかない限り一刀に臥せられるのがオチだ。ここはまず放出で牽制し、スキをつくる他ないだろう。
そう思い、雷の〈放出〉を全力で行使。収束させずに放った雷電は好き勝手に放電され、うち何柱かが男へと迫る。
しかし、動揺する様子もなく、軽くステップを踏んでその雷をやり過ごす。その顔には嬉しそうな笑顔と多少の自嘲が見てとれる。
「お師匠なら雷も斬れるんやけど、わいには無理やなぁ」
「その師匠、頭おかしいんじゃねぇか!?」
と罵倒しつつも、やっと出来た攻撃のチャンスを逃すほど僕は愚鈍ではない。
攻手を緩めたのを確認し、一足一息で射程圏内に入る。
刀身の長さを操れるということは近距離から中距離、もしかしたら長距離まで得意としている可能性があるということだ。
そんな相手をどう対処するか。
答えは一つ、近距離より更に近い零距離での戦闘しかないだろう。
「しもたっ!?」
向こうも気がついたようだ。というか、流石に自分の弱点は把握しているのだろう。
焦ったような声を出し、近づく僕に対して離れようと必死である。
しかし、ここで距離を取られてはもう二度と勝ち目はないだろう。
僕もなんとか喰らい付き、離されないように強靭な肉体能力と〈風〉の〈強化〉で追いすがる。
その間に何度か攻撃の手を加えるも、柄と足さばきでちゃんとした打撃が入るには至らない。
しかし、僕の予想通り、零距離では向こうも満足に刀が震えないようで、この鬼ごっこのような闘いになってからは僕がダメージを喰らうこともなかった。
しかし、状況は刻一刻と向こうを優勢へと傾ける。
通常追いかけっこは追う側の方が有利だ。心理的な優位性は勿論のこと、相手の突然のアクションへの対処もしやすくなる。
しかし、今回は場所が悪い。
ここは木々に囲まれた森の中、男はつい先日仲間になったばかりだと言っていたが、それでもこの辺りを根城にしている盗賊団と数日は共に行動していたのだ。それなりの土地勘があってもおかしくはない。
男はわざと視界を広くとれない細い木々の隙間を抜けるように移動する。
最初のうちはそれでも追う側の優位性でなんとかついていくことが出来たが、それもじょじょに効果を無くしていく。
小枝に足を取られたり、木葉を避ける度に数瞬のタイムラグが出来る。その度に少しずつ、本当に少しずつ距離が開く。
――このままじゃジリ貧だ。
そう考えたのは僕だけではないだろう。
男もそれを感じているのか、慎重に事を運んでいる。
これじゃあダメだ。
僕はここぞとばかりに第三の切り札を発動する。
〈雷〉と〈風〉の〈強化〉
同属性別系統の複合技は過去の試合や今日もこれまでの戦闘で使ってきたが、別属性同系統の複合は初めてである。
これも練習でのみ数回成功したことのある難易度の高い奥の手というか「もうどうにもならない状況に置かれた時の一か八」として密かに考案していた術である。
同属性の強化と放出の複合技で通常の強化を倍近くに強めることが出来るというのは前に話した通りだが、異なる属性の強化同士を掛け合わせた場合、それは倍どころか相乗する。
つまり二倍どころか二乗の効果が得られる。
しかし、異なる属性を掛け合わせるのは当然ながら難しい。
こうしている今も身体の内で荒れ狂う魔力の暴発をなんとか繋ぎとめてるので精一杯。体外から放出される雷を伴う嵐のような暴風の流れを操作することなんて不可能だ。
しかし、操作する必要はない。この暴風は周囲に散らばる小枝や木葉を纏めてはじき飛ばす。
これで障害は排除した。
あとは純粋な膂力の向上。それはもう同属性の複合の比ではない。
風の如く雷の如く、風を切り雷を切り、僕は再び零距離まで肉薄した。
鼻の先では、僕の切り札を目にした男が目を驚きで見開いている。そして、僕が右手に力を込め、筋肉を収縮させ拳先まで意識を集中させ男の顎目掛けて放つと、男は嬉しくも口惜しいと云った表情で嗤った。
「わはははは、やっぱり世界は広いのお!」
僕の拳が彼の顔面を捉えたのはその一瞬後で、決着がついた瞬間でもあった。




