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剣と魔法の人生ゲーム  作者: 真川塁
第3章 学院編 ~学院天国or地獄~
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3-8 a traveling fencer

 落ちてきたのは男――恐らくは戦闘開始以前から崖の上に立っていた男である。

 ああして全体を俯瞰ふかんできる位置にたっていたこと、こうして他の盗賊達が行動不能になるまで行動を起こさなかった辺りからこの男の立場はなんとなく察することもできるが、まだ無傷でいた二人のうちの片割れがあっさりと答えを教えてくれた。


「か、頭っ!」


 その顔には心からの安堵あんどが浮かんでいた。

 予想通り、この男が盗賊団のリーダーのようだ。


 しかし、若い。

 十二歳の若輩である僕がそういうと嫌味にも聞こえかねないが、実際若いのだ。

 僕よりはいくらか上だろうが、ワイナードよりは下だろう。

 見た限り盗賊団の男たちの中でも明らかに一番下だ。

 そんな中で数多くのごろつきを抑えて頭領をはっているのだから、彼らを圧倒するだけのモノがあるのだろう。

 すなわちチカラだ。

 

 実際、今の一太刀を見ただけでこれまで相手にしてきた一山いくらの盗賊達とは確実に違うことは理解できた。

加えて奴らの頭ということは僕が具現化というギャンブルに討って出た三人目の射手よりも手ごわいと思われる。


しかし、なにより気になるのはその喋りだったりするのだが……


「ヴァーミルなら強いやつぎょーさんおる思っとたけど、ヴァーミル入る前にこない威勢の良いガキに会えるっちゅーことはわいの運も悪くはなかったっちゅーことか。いやむしろ使つこてる術も雷術と風術の鬼子おにご――風神雷神なんやから縁起が良いでこりゃ」


 独り言にしては大きい声でしかし他人に話し掛けている風には全く聞こえないことをまくしたて、しきりににやついているのを見ていると喋りかけることが許されないように感じられて躊躇してしまう。


 しかし、三分間ヒーローである僕はそれをあまり長いこと待ってることは出来ない。残り持続時間は多分、二分をきっている。

 相手が盗賊の頭であることは先ほどの言葉で明白なので躊躇することもないだろう。

 そう思い、距離を詰めるため動き出す。


「なんや、せっかちやなぁ」


 僕の行動を目に映した男は悠然とした声で呟き、刀のつばを鳴らした。

 瞬間、男の身体からき上がる闘気。

 気闘術の起動を肌で感じ取った僕は足を止める。


「実戦レベルの気闘術か……」


 これはマズイ。


 いや、割とマジでマズイ。

 

 相手が只の剣士であれば僕は気闘術を使うことでその刃物の斬撃にも耐えることができる。

 しかし、相手が気闘術+刀となるとこちらの分が悪くなる。


 同系統の気闘術は相殺する。

 これは以前ワイナードとの模擬戦時にも話したと思う。属性や熟練度によりそれなりに優劣はあるが、強化と強化、放出と放出、といったように同系統の攻撃はほとんどイコールで相殺される。

 つまり、気闘術で自分の拳を強化したとしても相手が刀を強化したとすると最終的には単なる拳VS刀となってしまう。

 相手がこの状況下で使っていると思われるのは刀の〈強化〉

 指輪の力で各種能力が上がっている僕でも流石に拳で刀に勝つことは出来ない。

 つまり、結局通常の拳術対剣術になってしまう。


 剣に触れたら即アウト、間合いの方でも僕は分が悪い。

 さて、どうする?

 僕が脳内にも額にも汗を掻いていると、今度は向こうが待ちくたびれたようで、


「結局来ないんかい……じゃあ、こっちからいかせてもらうで」


 言葉が先か手が先か。

 肉薄する刃を紙一重でかわした僕は、距離を開け立て直そうとする逃げ腰な本能を抑え込む、無理やり懐に入る。

 これで間合いによるハンデはなくなった。むしろ密着にも近い距離になった分、長物ながものを振りまわすことができなくなった向こうの方が不利になった。

 向こうからアドバンテージを放棄してくれたのは僥倖ぎょうこうだ、などと考えていたがそれはどうにも思い違いで。


「天下一心流 『雨月うげつ』」


 短く聞きとれたかすれた声とともに鋭い突きが幾重いくえにも襲ってきた。

 手の甲や大腿部だいたいぶに鈍い痛みを感じたまらず下がる。

 どうやら斬れてはいないようなのは幸いだ。

しかし、違和感というか腑に落ちない理不尽にさらされた僕はそれを幸いとは捉えられずにいた。


「なんで、あの距離で刀が振れる……?」

 

 妙だ。あそこまで距離を詰めたのに(突きとはいえ)あれほどの手数を繰りだせるわけがない。

 僕の疑問が冷たい風吹き荒れる中ぐるぐると回る。


「これか? ようみてみい、さっきよりみじかなっとるやろ」


 僕の呟きを耳にして、男はころころと嬉しそうな笑顔で刀を目の前に持ち上げた。

 それを見ると確かに先ほどまでとは刀身の長さが違う気がする。

 腰に差したさやと比較してみても明らかに持っている刀が短い。

 つい先ほどまでは通常の太刀ほどの長さだったのに対し、今は脇差わきざしほどの短さになっている。


「わいが使つこうた内気功は〈金〉の〈操作〉や。元々この刀身に使われとる玉鋼たまはがねはわいが放出で生みだしたヤツでのぉ、それを操作して刀身をその都度にちょうどええ長さに変えることができるっちゅーわけや。おもろいやろ」


 どやっ! とでもいいたげな表情で胸を張るその姿がどうにも僕をバカにしているようにみえて鼻持ちならない。


「手の内を晒しても負ける要素はないってか?」


「あぁ、ちゃんねんちゃうねん。別に勝ち負けとかどうでもええねん。わいは武者修行中さかい強いヤツと闘えればそれでええ」


 本当に心の底からどうでも良さそうにそういう男を見ていると様々な疑問が生じてくるが、最も謎なのはなぜそんなやつが盗賊をやっているのか、だ。


「アンタ……盗賊じゃないのか? あっちのヤツらに頭とか呼ばれてただろ」


「まぁ間違ってはいないんやけどな。そこには聞くも涙語るも涙のワケがあるんや……」


 大袈裟な身振りと大仰な物言いから、男は身の上話をし始めた。


「わいは『ヒダ』っちゅー島国の出身なんやけど、ちょっと用事があって海を越えてやってきたわけや」


「……その用事ってのはなんなんだよ?」


「それなんや。その用事っちゅーのをすっかりさっぱり忘れてしまっての」


「……記憶喪失とかそういう話か?」


「只のド忘れや」


「…………よし、殴る」


「あぁっ!? ちょい待ちぃや! 本当に綺麗さっぱり忘れてしもうたねん!」


 慌てて言いつくろう姿がどこか滑稽こっけいというかやる気を削がれる様相ようそうだったので、硬く握った僕の拳が男を穿うがつことはなかった。


「海を渡ってくるまではお供のもんがおってやな! そいつに何から何まで任せてたんやけど途中ではぐれてしまっての。あてもなくぶらぶらするのは流石にこの大陸は大きすぎるしどうしよ思て頭悩ました結果、とりあえず何か目的を持てばなんとかなるやろっちゅーことで武者修行の旅ってことにしたんや。

そう決めたらなんや当初の目的もそんな感じだった気もしてきてな、とりあえず適当に歩いてて強そうなヤツ見かけたら、勝負挑むつもりでおったんやけど、いやぁなかなか出会わんもんやなぁ」


 その言葉には家族構成からお付きの人まで個性的なメンバーで揃えられている僕でも、口を開けてあきれるしかなかった。


「どんだけ大雑把おおざっぱな性格なんだよ……」


 出来ればこういう人とはこれ以上お近づきになりたくないものだ。

 僕のそんな思いとはうらはらに男は僕に親近感でも感じているのかどんどんと話が進んで行く。

 ……どうして僕は盗賊(なのかどうか微妙らしいが)の身の上話を聞いているのだろうか?


「そのうち路銀ろぎんも尽きてもうてな。食べるもんもなくなってしもたんで、仕方なく山で木の実やら兎やら探しとったらこいつらに見つかってもうて、囲まれて金出せ云うて脅されたんで『ないわボケェ』云い返したら襲ってきよったからに返り討ちにしてやったんや。んで迷惑料代わりに飯でも食わせろ云うたら、食わしてやるから頭になれゆわれてしょーがなくやっとる感じやねんな」


「その話を聞くとどっちが加害者だかわからないな」


「まぁ、そんなわいの身の上話はどうでもいいねん。ほなさっさと続きしよか」


 どうでもいいなら話すなよ、という言葉は飲みこんで、僕は提案する。


「いや、別に盗賊じゃないなら闘う必要ないんじゃないか? 僕らとしても手だししてこないなら、ここでこれ以上やりあう気はないし」


「阿呆か。なに聞いとったんや。何度もいうとるやろ? ……わいは強い奴と闘いたいんや!」


 男が手にした刀を振りかぶり、闘いは再開された。



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