3-7 thunderbolt
意識とわずかな気を指輪に集中させる。もちろん『変身』なんて叫ばない。既に顔が割れているうえで今さら姿を隠しても意味がないだろうし、何より色々と恥ずかしいし。
中央の黒い水晶が一瞬にして透明に変化する。
同時に、僕の身体から疲労が消える。
体内で荒れ狂うエネルギーの奔流。
まるで血管や細胞を伝って、足先から頭頂まで全身に活力が行き渡っていくかのような錯覚に陥るほど、僕の体内で大きなパワーとなっている。
気力に余裕が出来たことがそのまま心の余裕にも繋がった。
頭の中がクリアになり、思考回路が十全に機能しだす。残りの人数、位置、武器を確認し、頭の中でシュミレートを開始。
早速、その一端を使い、術を行使する。
〈風の強化〉
複合する必要はない。欲しいのは最速ではなく、高速の移動力。
さんざん放っておいた馬車の元へと走る。
飛び道具は全部破壊したし、これで心おきなく肉弾戦へと持ちこめる。
と、いいつつ大きな跳躍と同時に強化を解除、続けざまに慣れない術を行使する。
〈雷〉の〈具現化〉でもう一度タガーを創造する。
バカじゃないのか、と思われても仕方がないだろう。
さっきあれほど苦労していたのにまた使うなんて、僕が客観的な立場にいたら、確実に阿呆呼ばわりしている。
けれど、色々と理由はあってのことだ。
攻撃の利便性や一対多数の闘いにおいて武具の必要性。そして何よりも、折角成功したのだからもう何度か行使して身体に覚えさせようというのが僕の最たる目論見だ。先ほどの死と隣り合わせの術の使用が功を奏したのか、コツのようなものを掴めた気がする。それを忘れないうちにもう一度具現化を試しておきたかった。
結構な気力を持っていかれるので指輪を発動している状態でないと早々何度も使えるものでもないし、いい機会だと思ったのだ。
そして、案の定僕の手中にはさきほどと同質のタガーが収まっていた。
……うむ、こうして見るとやはり刃の歪なカタチはデフォルトのようだ。
しかし驚いた。
自分の実力に、などと奢ったわけではない。
実戦――死合というものに、だ。
実戦とかかくも飛躍的に技術が伸びるものだったのか。
こうなるとワイナードに文句をつけるどころか礼のひとつも云わなければならないような気になってきたな……。
しかし、そんな暇があるわけもなく。
僕は盗賊ひしめく馬車周りへと戻ってきた。
たった数分間の出来事なのになんだかとても長く感じる……年を跨いでしまったような、そんな錯覚に陥るほどに。
あの射手以上に動ける人間、というのはどうやらこの中にはいないようで、全員が全員突如として躍り出た僕に驚くばかりで、一番身近にいた三人ばかりをタガーで斬りつけ、痺れさせたところでやっとのことで事態に気がついて僕の周囲を取り囲む。
各々剣や斧などの武器を手に四方を囲んで、接近してくる。
半数近くがやられてしまったことから流石に危機感を覚えたのか、慎重な足取りでじりじりとにじり寄ってくる。
怖い顔した野郎どもが息を荒くし、じりじりとにじり寄ってくる様は結構な恐怖だった。
けど、その包囲が完成するのを待っててやる義理はない。
そもこの状態は180秒しかもたないのだから少々強引でもこちらから仕掛けるしかないのだ。
僕は手にしたタガーを一番体格の良い男へと飛ばした。
大きい男=スピードがない、という頭の悪い適当な考えだった。
が、あながち的外れでもなかったようで男は飛んできた雷で出来たタガーをはじこうとして、タガーが 剣に接触した瞬間、感電して動かなくなった。
図体がでかい=のろま、かどうかは兎も角、図体がでかい=バカではあったようだ。
まぁ、この時代、全員が全員十分な教育をうけているわけでもないし、ましてや相手は盗賊である。雷の性質について理解しておけという方が土台無理な話だろう。
「……使えるかな?」
脳内の独白からヒントらしきものを得た僕はすぐさま考えを実行に移すために、再び〈風〉の〈強化〉
感電して倒れた男目掛け走り、その身体を足場にいつもより大きく真上へジャンプした。
その下に餌を求める魚のように殺到する盗賊たち。
ぎらぎらと血走ったような目で僕が落ちてくるのをいまかいまかと待っている。
予想以上の展開に思わず口が自然と笑みをこぼす。
〈風〉の〈強化〉を解除しまた術を変更する。
〈雷〉の〈放出〉
風切音から雷鳴へと僕を取り巻く音が変化する。
右手に宿った眩い光源が全ての視界を奪う。普段扱う〈放出〉とはあきらかに違うその猛々しいばかりの発光は直視していない僕の目もやむなく瞑らせるほどだった。
「サンダーボルト・シャウト!」
たったいま適当につけた技名と共にその光源を地面目掛けて(といっても目を瞑っているので目測はつけられないが)放り投げた。
天を裂く雷音が快晴の空にこだまする。
次いでくぐもったうめき声と鳥の羽ばたく音。
視界を開きに地に目を向けると、そこには崩れ落ちた盗賊達が散乱しており、その横には地面が焼き焦げたような痕があった。彼らと少し離れた位置では音に驚いた馬を落ち着かせようとするモヒンダの姿が見てとれた。
とりあえずあちらに大事はなさそうなので一安心。
強化による跳躍もそうそう長くは続かずに僕は彼らが伏せるほど近くへと着地した。
見たところ転がっているのは八人。その内意識があるのが二人、意識はないが息はあるのが四人、そして残る二人が意識も息も無い状態だ。
間近に落雷したのだから無理もない。
とは言いつつも流石に気が咎めたのでその二人に歩み寄り、心臓マッサージを行ってみることにした。
と云っても手を胸にあて上下させるような一般的なのではなく、雷によるショック療法だ。
見える位置にまだ二人ほど盗賊が健在中なので、膝をついて息を吹き返すまで頑張るのはちょっと無理だ。
両手でそれぞれ男の胸に手をあて、雷を流す。
数回流すと止まっていた心音が再び一定のビートを刻みだした。
ふぅ、と小さく息を吐きちょっと安堵。
しかし、ひとつ問題が解決されると別の問題が表面へと顔を出してきた。
「う~ん、やっぱコントロールに難ありだな」
普段扱っている量よりも気の内容量が豊富なせいか最近では十二分に扱える〈雷〉系統であっても細かい制御が効かなくなっている。〈風〉や〈炎〉だともっと顕著だろう。
この状態での練習もしたほうがいいかもしれないな。
僕が今後の鍛錬方法について考え込んでいるとふと僕の周囲が夜になった。
それが上空から迫りくる何者かの影であることに一寸遅れて気がついた僕は、すぐさまその場から飛びのいた!
ザン、と今の今まで僕がいた場所を打ちつけたのは刀だった。
剣ではない。
片側にしか刃がなく、しっかりと反りの入った正真正銘の日本刀(と同型の刀)である。
しかし、それに魅入っている時間は与えられなかった。
地面を強く打ちつけたかと思ったその刀は地面に軽く触れるくらいですぐさま切り返し、僕の喉元へと肉薄してきた。
それを、上体を反らしてかわし、即座に雷で反撃を試みる。
しかし、他の者達と違い雷の性質を知っていたのかもしくは彼らがやられてたのを見て受けてはダメだと悟ったのか、考える風もなく雷撃をひらりとかわして、距離をとった。
そして、愉しそうににやりと口元に笑みをたたえて、こう云った。
「ええなぁ、久々に骨のありそうなやつと出会えたで! ほな楽しもうか!」
「か、関西弁だとぉ……っ!?」
今日一番の驚きがそこにはあった。




