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剣と魔法の人生ゲーム  作者: 真川塁
第3章 学院編 ~学院天国or地獄~
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3-6 summon

 飛んできた矢が僕の眼前に迫ってきたのでしゃがんでやり過ごす。

 それを確認して男は既に準備済みの矢を放ってきた。

 

 一本目で動きを止め、二本目でトドメを刺す。

 弓矢の基本だ。

 なので、この行動は予測できた。


 自身が纏う風を両足に集中させる。

 これを一瞬で、身体を動かすのと同じようにできるようになったのは一重に度重なる反復訓練の賜物だ。

 やはりトールの言葉に間違いはなかったようだ。実戦の中でのほうがよけいにそのことを実感させられる。


 そして両足に風が収束したのを確認するようなこともなく、身体で感じ取りそのまま空へと跳ねた――

 

 跳ねる、とはまた絶妙な表現だ。

 飛ぶというほど驚異的ではないが、翔けるというほど美しくもない。

 しゃがんだ状態から大きく跳躍した僕は、大きな放物線を描きながら射手へと近づいていく。

 

 それと同時に気闘術を解く。


 今まで僕を守ってくれていた風が消えたことにより、木々の葉っぱや枝に身体の節々が打たれる。痛い。

 けれど、その木葉が僕のシルエットを隠してくれる。これなら狙いをつけづらいだろう。

 

 そして、このまま次の術へ。


 どうせ後は重力に任せてゆるゆるとゆるやかに下るだけだ。

 僕は目を閉じ、集中する。

 頭の中で強くイメージする。


 前に城に勤めている兵士に見せて貰ったソレ。

 サブウェポンとして小さくて使い勝手がいいイメージがあるが、あの時の僕にはとても大きく驚異に思えた。

 刃。

 万能の道具で、人を斬る道具。

 そのイメージを想起させた状態で気闘術発動。


 手の中でバチバチと音を立てて雷光が迸る。

 無秩序に手の中で蠢いていた雷はじょじょに変化し、僕の脳内イメージを象っていく。


〈雷〉の〈具現化〉


 僕が密かに検算を積んでいたワイナードとの模擬戦用の『第二の切り札』である。結局、使わずじまいだったので人目に晒すのは今日が初めてだ。

 使う前に負けてしまったというのもあるが、一番の理由は練習不足である。なんとかカタチにはなりかけているものの未だワイナードやエミリダの前では成功していない。自主錬の際に数回カタチになっただけである。


 手の中の雷はある程度までカタチを形成するものの一向にその定着する様子がない。バチバチと雷音を発しながら、ゆらゆらと不定形だ。

やはり、今回もそううまくはいかないようだ。


身体はすでに射手に向かっている。自由落下とほとんど変わりない為、このままでは野鳥よろしく射落とされる。



「くっ……」

 

 歯がゆさと焦燥感から思わず呻いてしまったが、これすらも余計な行為だと自分に言い聞かせる。


 努めて冷静に。

 死と隣り合わせの緊張感の中で僕はイメージする。

 より鮮明に。

 より明確に。

 そして、なにより確実に。

 強固な意志と強烈なイメージを持って、頭の中で強圧的に刻み込む。

 

 決め手には欠けるがどのような場面で使える万能の武器。

 ナイフ。

 その中でも投擲や刺突に特化したモノ。

 若干の反りと柄。

 決してなくなることのない優れた道具。


 ――すっ、と頭の中で霧が晴れた。

 瞼の裏で思考の霧が晴れ、日光が顔を出した。

 それがあまりに眩しくてふと、目を開く。


 すると眩い雷光が手の中で確かな形を象っていた。

 歪な十字のようにも見えるソレはしかし、一方の線は短く直線でもう一方の線は長く、緩やかな曲線を描いていた。

 それは僕が望んだとおりの武器――タガーだった。


「よしっ!」


 思わず声を上げて喜んでしまった。

 それを仕方がないと思う心とここは戦場なのだから自重しろという思いが心の中でせめぎ合う。

 そうだ、僕は今まさに死地にいるのだ。あまり自分の中で浸ってばかりもいられない。

 タガーを生みだすために僕自身の精神ナカに向けていた感覚を再び周囲ソトへ。


 そして手の中で光り輝くタガーをもう一瞥する。


 思い描いていたような綺麗な刃ではない。

 僕の技術不足なのか属性が影響しているのかは定かではないがまるで稲妻のようなカタチである。ま、それはそれで味があると思えばいい。

 なによりも大事なのはしっかりとした形を持っていて、タガーとして過不足なく扱えるかという点だ。


 僕は自然落下しながら、周囲の木々を斬りつける。軽く当てただけのは刃はしかし帯電の影響からか思った以上の切れ味を示した。これなら問題はないだろう。


 射手との距離が更に縮む。

 高度が下がり、僕の視界が完全に晴れた。

 ということは、向こうの視界を遮るものもなくなったということだ。


 射手が狙いを定め、射出しようと引き金を引こうとするよりも早く、僕はタガーを放り投げた。

 僕の力のこもった投擲は狙い通りにまっすぐに射手の持つ弓矢へと飛んでいく。


「――っし!」


「なっ!?」


 しかしこの男、よほどの熟練者だったのか、それすらも避けてしまった。

 そして、再び体勢を戻す。僕の驚愕顔を弓ごしに確認し、勝利の笑みを漏らす。

 これで僕は完全に勝機を失った――


「なんてね」


 それを見て、僕も笑みを漏らす。

〈強化〉を手に集中する。


「がっ!?」


 瞬間、射手の身体を不可視の攻撃が穿つ。

 

「なんとか、上手くいった……かな?」


 彼方に飛んでいった雷で出来たタガーと帯電している僕自身の間とを結び、擬似的な落雷を起こしてみた。

 射手も焦げてはいるものの死んではいないようなのでこのまま捨てておいても問題ないだろう。


「しかし、落雷の直撃を受けてこれだけの怪我ってことは威力的には本物のようにはいかなかったってことかな?」


 せいぜいスタンガンに毛がはえた程度なのだろう、と落胆しそうになるが、まぁ命を奪わなかったことには少なくない喜びがあった。


 この世界に来てからの教育の賜物かはたまた一度死んでいるだからなのかあの誘拐事件以来人の生き死について考えることが多くなった。


 転生前にほんとは命の値段が違う。

 転生前あのころとは抱えているモノが違う。


 それを自覚して、させられて人を手にかける覚悟のようなものを持った気になってはいたけれど、そうはいってもまだまだ僕は子供だ。できることなら綺麗な身体でいたいとは思う。

 しかし、それで僕自身が死んでしまったとあっては本末転倒なので、殺害する気概で飛び込んだんだが、それが功を奏したのかもしれない。

 彼が避けずにタガーが刺さっていれば、やはり彼は絶命していただろうし。


「……と、悠長に浸っている暇はないな」


 いくら僕がサボろうともこの程度のピンチではワイナードは出てこないだろうし、ここで僕が時間を浪費したらした分だけ、あとで僕にツケがまわってくるのだ。


 それは調子してはいるのだけど。

 そうなんでも上手くはいかないものだ。


「……いやー、しかしまいった。実地での〈具現化〉がこんなにも消耗するとはね……」


〈具現化〉の気力消費量が半端なく、僕の身体は悲鳴をあげていた。

 あんな小刀をつくるだけで〈強化〉や〈放出〉の倍ちかく持っていかれるのだから、それは覚える人も少ないだろうなぁ……と納得してしまう。


 本来、気の量に関して言えば問題はなかった。

 転生ゲームで勝ち取った(?)「魔力」がこの世界での「気」に相当するので(国や地域によっては気でなく魔力やチャクラと呼ぶところもあるそうだ)量に関していえば多分、この世界でもトップクラスだと思う。

 しかし、現在はそれが制限されている。

 トールの話から察するに現在の僕の持つ気の総量は「1~4」のはずなので良くて平均、と云った具合だろう。

 エネルギー不足で不発に終わっていた可能性もあった。

 と、なるとこうして具現化を使えただけマシだというものだ。


 しかし、こうなるとちょっとピンチだ。


 気力は枯渇気味。

 敵はまだ残り十人以上。


「はてさて……ここからどうすべきかね」


 口に出して考え込んでみるも、僕の視線は既に指で光る銀色の輪から離れなかった。


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