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剣と魔法の人生ゲーム  作者: 真川塁
第3章 学院編 ~学院天国or地獄~
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3-5 ordinary bandit

アルベートを出て五日目。本来ならばやっと全行程の半分ほどのところ僕らは既に三分の二くらいのところまで来ていた。速ければ明後日にはもうヴァーミルに到着する勢いだ。

何故か。

答えはとてもシンプル。

ワイナードだ。


安心安定の街道を行く旅はとても快適だった。昼は馬車から外の初めて見る景色を楽しんだり、夜は夜で宿駅に泊ってメルシィと一緒に星を眺めたり、ワイナードや御者で騎士でもあるモヒンダと軽い模擬戦をしたり、とても有意義に日々を過ごすことが出来た。


 僕はそんな旅路に満足していたし、メルシィも男ばかりの中に一人だけ女という居心地の悪さもあまりなかったようだし、モヒンダに至っては僕やワイナードと模擬戦というだけで感涙でも流しそうな勢いだった。


 けれど、どうもワイナードにはそれじゃあ足りなかったみたいで、三日目の夜にいきなり「刺激が足りねぇ」と愚痴を漏らすと、モヒンダにそこからの最短ルートで行くように進路の変更を命じた。


 そのせいで僕らは安全な街道を逸れて、野生動物や山賊がうようよ出そうな山道を馬車で通っている。

 

「予定より早く到着できて、修行にもなるなんて一石二鳥じゃねぇか」


「早く着くならそっちがいいです。もうそろそろお風呂に入りたいです」


「……お二人はこう仰っていますがどうしましょう? イクス様……」


 反対意見が多いかと思えば意外にそうでもなく、ワイナードは当然としてメルシィが賛同し、僕らの護衛役でもあるモヒンダも一応の主賓である僕に意見を聞いてくるがそれほど難色は示していない。進路変更を求めてきたのが王子ワイナードだから否定しづらいというのもあるのかもしれない。


 賛成2、中立1、反対1ということで本案件は賛成多数で可決された。

 これくらいの評決なら覆せそうなものだが、賛成票がワイナードとメルシィという人の意見を聞かないスリートップのうちの二人(もう一人はもちろんエミリダ)では、覆せるものも覆らない。


 結果、僕らは整備されてない山道を突っ切るカタチでヴァーミルに向かうことになった。

 さらにその結果、ワイナードのお望み通り、刺激のある旅となった。



 辺り一帯茂みに囲まれた山道では特に見る景色もなく、馬車内で僕がうつらうつらとしていると、


「……きたな」


 ワイナードがそう呟いた。なんだろうと僕が顔を上げた瞬間、馬のいななき声が聞こえ、馬車が揺れた。

 いきなりの出来事。何事かと外を見ると、山道の少し開けた場所にいた僕らの馬車の周りを人相が悪い武装した男達が包囲していた。

 山賊登場である。


 さぁ、ワイナードお望みの刺激的な展開だ。

 この兄はどう出るのかと僕も待つ。


「モヒンダ、抵抗しようとするなよ。この数はお前じゃ無理だ」


 しかし、それだけ言うとごろんと横になってしまった。


「……え? 兄さん、なんとかしないの?」


「こんなんじゃ運動にもならねぇよ。お前、代わりにやれ」


「え……でも、僕に倒せるかな?」


 山賊ってゲームやマンガの世界じゃどうにもパッとしないけど、現実で出会うとやっぱり恐ろしい。

 それに僕が複数を相手に戦ったのは騎士相手に十人組手が最高だ。実戦においては誘拐事件の時の五人が最高だ。十人組手の時は思いっきり負けてエミリダに大目玉を喰らったし、誘拐事件の時はチート全開だった。山賊は見えるだけでも十三人……まだ仲間がいるとしたら、到底太刀打ちできない。指輪の力を使っても二十人を三分はキツいだろうな……。

 そんなことをくるくると考えていると見透かしたようにワイナード。


「この辺りの山賊にそんなレベルの高ぇヤツはいないから安心しろ。この数でも上手く立ちまわれば傷を負うこともないさ」


 ……その言葉を聞く限り、初めから僕にやらせる気だったなこの野郎。


「……………」


 恨みのこもった眼で睨むも知らぬ存ぜぬと目を瞑る兄。


「ほれほれ、早くしないとモヒンダとメルシィが大変なことになっちゃうぞ」


「はぁ」


 追い払われるかのように手を振られ、嘆息。

「やれやれ面倒だ」とかいうつもりは一切ない。

 ただ、単純に不安だ。


 兄のお墨付きを貰い、指輪の力を隠し持っていたとしてもそれは変わらない。

 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、ということわざもある。質より量という格言も。本当に大丈夫なのだろうか?

 不安と疑念が交差する。

 そうしている間にも馬車に近づいてくる山賊達。窓からその野暮ったい顔がのぞいた。


「へっへっへ。おい、女もいるじゃねぇか」


 ――あ、勝てる。

 メルシィを見てそんな下卑た声を上げる山賊に、僕はそう思った。

 もはや台詞が三下以外の何者でもない。


〈風〉の〈放出〉


 とりあえず先制攻撃とメルシィに対するセクハラの罰を兼ねて風をまとめて創り出した風球を扉ごと撃ち抜く。

 勿体ない気もするけど先手を取るには都合がいい。


「ぶへっ!?」


 情ない声と共に扉に押しつぶされる山賊の上に降り立った。


「あん?」


 視線が僕に集まる。

 その隙にモヒンダに近い位置に立つ山賊に向けてまた風球を放つ。

 やはり指輪を使わないとテニスボール大がせいぜいだな。

 ……うん、冷静に分析できる程度には余裕があるな。


「おぅらぁ!」


 僕の背後から怒声が聞こえる。振り向くと山賊の一人が接近中だった。今まさに僕に向けて獲物が振り下ろされている最中、さっと身体の重心を移動し刀撃をかわす。僕の虚をついたつもりの男は渾身の一撃を受け止めてもらえず、そのまま体勢を崩した。

 ちょうど手ごろな位置に顔があったのでそのまま思い切りグーパンしてやった。横っ面を殴られた男はそのままダウン。


 このまま、第二波を待っていても仕方がない。

 

 僕は〈風〉の〈強化〉を使い身軽さを一段上げて、軽い飛脚で馬車の天蓋上に足を乗せた。とりあえず数を正確に把握したかった。ここからならば360度を見渡せる。


「17人ってところかな……」


 見える場所にいるのが14人、影になって身体の一部らしきものが見えているのが2人、崖の上からも気配を感じるのでそれでおそらく17人。

 顔面強打された山賊は多分起きてこないので残り16人。

 とりあえず、ワイナード以外の二人の安全は確保したい。


「モヒンダは自分の身を守ることに専念して。こいつらは僕が片づけるから」


 大きな声でそういうとモヒンダだけではなくその他大勢から反応があった。そのほとんどは「あん?」とか「んだと?」とかおおよそ言語としてどうかと思うものばかりだったが、中には「もう一遍言ってみろおらぁ!」とか「やれるもんならやってみろおらぁ!」とかなんとか言葉として成立していたので意思の疎通は図れそうだ。図る気はないけれど。


 が、まぁ怒りの視線が僕に集中しているのでしばらくはモヒンダやメルシィへ危害が及ぶ可能性が減った。作戦成功だ。


 血気盛んな賊達が僕を引きずり下ろそうとその巨体で馬車を上がってこられても困るので、人数の確認と挑発を済ませて即座に飛び降りる。


「よっ」


「なん――ぶへぇらっちょっ!?」


 

 そのさいに手近にいた敵を足場にして数を減らすのを忘れてはならない。


「よし」


 これで15人。

 では、次の段階。


 狙うは飛び道具をもった男達。

 大勢を相手に戦っている時に何が怖いかと言えばやはり飛び道具。接近戦で三人も四人も相手している時に遠くから狙いを定める弓矢にまで気を配るのは一苦労だ。それらしいのが三人ほど。

 まずは、こいつらから潰しておこう。


 しかし、相手もまがりなりにもこの辺りを縄張りにしてきた山賊。戦術の基本はなっているようで飛び道具持ちは後方で絃を張って待っている。しかもそれぞれが別方向ときたもんだ。

 ここからだとちょっと距離がある。

 あまり時間をかけて、馬車の周囲を囲む山賊達の標的が僕からメルシィに移ったりしても困る。

 なので最初からフルスロットル。


〈風〉の〈強化〉と〈放出〉を〈複合〉

 

 雷に比べるとまだまだ未完成で持続時間が短く、効果も不十分だが、移動速度で言えば僕が使える術の中では間違いなくダントツだ。

 掌上で踊る風球を握りつぶし、加速。

 一足飛ばしで山賊と木々の合間を抜け、弓を番えた男に接近。


 小細工は必要ない。

 加速によるスピードを足に乗せて、ただ蹴る!

 それだけでダウン必至の必殺技となる。


 相手が吹っ飛ぶのを確認する時間も惜しいのですぐさま方向転換し、次の射手の元へ疾走はしる。


 その間も馬車の確認は怠らない。

 移動中も牽制の意味を込めて複合により速度を増した風球を飛ばし続ける。流石に狙いをつけるのは無理だが、僕に注目させておく役割くらいは担ってくれる。


 そうこうしているうちに2人目に接近。

 風球を出しているせいでこちらの位置は丸わかりだ。

 僕の位置を確認した二人目は僕に向けて矢を放ってきた。

 矢は凄まじい勢いで僕に迫ってくる。構図的には僕が自ら当たりにいっているようですらある。


 しかし、そこは現在絶賛〈風〉使い中の僕。

 風の流れから矢の軌道を読みとり、問題なく避けた……と云いたいところだったが頬の薄皮一枚を持って行かれた。少々予測に失敗してしまったようだ。

 しかし、これでしょげたり攻撃を渋っていても仕方がない。

 手元でもう一度風を放出、手の中でプールする。

 男に肉薄し、僕の射程圏内に入ったところでソレを打ちこみ、解放。


「ごほっ」


 肺の空気を全て体外に吐きだしながら、男が宙を舞う。

 掌に収まるくらいの風力でも一点収束すれば大の男を悠々と吹き飛ばせる。


「ふぅ――っ!?」


 息を整えようとした瞬間、視界の端で何かが煌めいた

 イヤな気配を感じ、上半身を思いきり反らす。


 すると、今まで頭のあった場所を一本の矢が通り抜けた。

 重力で後方に倒れならばも顔を矢の来た方向へと向けると、次に向かう予定だった場所で男が矢を番えていた。


「まぁ、読まれるよなぁ」


 流石に他の山賊を相手せずに弓矢持ちでなおかつ距離のある二人を狙い澄ましてノックアウトさせれば、あちらさんも僕の狙いには気がついただろう。

 いや、二人目を倒して油断した所を狙ってきたということは一人目を手に掛けた時点で僕のやりたいことは予想されていた可能性が高い。

 となると、最後に狙うべき弓矢持ちはそれなりに頭のまわる男か今までの経験でそれを知っている実戦経験豊富な手錬かのどちらだ。

 ワイナードの情報を信用するなら前者のはずだ。


 しかしそれを悠長に確認しているほど、兄の言葉を信用してはいない。

アレは修行という名目ならどんなことをしても済むと思っている。嘘情報くらい日常茶飯事だ。

 獅子は我が子を崖に落とすというが、その言葉を借りるなら兄は僕を崖に落としたところに岩を投げてくるようなやつだ。

 

 二射目が放たれたのを確認すると同時に動く。しかし、相手はもう既に次の矢を番えている。


 ――こりゃあ、どうにも後者っぽいな。


 そう本能が呟きかけてくる。

 ならば一度見られている以上、かわして至近距離からの一撃という撃退方法には不安が残る。

 何より芸がない。

 ……ここはひとつ、転生以来のギャンブルといこうか。


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