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剣と魔法の人生ゲーム  作者: 真川塁
第3章 学院編 ~学院天国or地獄~
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3-4 I`m off !!

「さて……と、じゃあそろそろ行きますか」


「はい」


 トールとのやりとりの次の日、全ての準備が整った僕とメルシィは今日ヴァーミルへ出立することになった。

 

 あのトールとのやりとりの後に僕の出立記念パーティーやそこから派生するワイナード主催のトンデモイベントがあったりもしたのだけれど、それはあまり思い出したくない。

 

 色々あったが国民のみんなに見送られてこうして出立の日を迎えたわけだ。みんなというのは比喩でこの場にいるのは僕とメルシィ、エミリダ、グライムだけだけど。

 

「……じゃあ、母さん。いってきます」


 居残り組代表的なポジションにいる母さんに出発の挨拶。

 それに鷹揚に頷くエミリダ。


「ヴァーミルでは学院の授業以外にも学ぶことは多いでしょう。まぁ、死なない程度に頑張りなさい」


「……はい」


 母親としてもうすこし母親らしい言葉をかけてくれても良いとも思うけれど、これはこれでエミリダらしい檄だの飛ばし方だとも思う。

 続いて、エミリダはメルシィに向き直り、


「メルシィ、道中何があるかわからないし、ヴァーミルは活気がある分、危ないことも多いから気をつけなさい」


 ……うん、それ。そういう言葉を僕にもかけてくれてもいいんじゃないかなって思うんだけど……まぁ、期待するだけ無駄ですよね。

 僕の哀惜も知らず、お気楽メルシィは元気に返事を返す。


「大丈夫です! イクス様が守ってくれますから!」


「そうね。危険なことは全てイクスに任せなさい」


「…………」


 え? おかしくない? ねぇそのやりとりはおかしくない?

 もうちょっと息子の身の安否にも気を遣ってもバチはあたらないと思うんだけどなぁ。


「はい!」


 メルシィも元気に返事するのはどうだろう? 

 守るよ、守るけどね?

 言われなくても守るけどね。もうちょっとなんか言い様があると思うんだけどなぁ。


「イクス様……色々と大変そうではあるますが、しっかりと勉学に励んで下さい」


 そんな様子を見かねたのかグライムが声を挟んできた。

 その様々な含みを持たせた助言というか気遣いがとても優しくじんわりと効いてくる。


「ありがとう、グライム。グライムも僕がいない間、母さん達をよろしく頼むね」


「はい」


「イクス。よろしく頼まれるほど母はもうろくしていませんよ」


 心外な、という表情で僕を睨めつけるエミリダ。


「そっちの意味じゃないから安心して下さい」


「じゃあ、どういう意味です!」


 まぁ、主に僕の修行という名のストレス発散場所がなくなることによって、衛兵なんかにその矛先がいったりするんじゃないかという危惧だったりするわけだが、それをそのまま口にして暴風に飛ばされては敵わないので余計な口は開かない。


 そうこうしているうちに、馬車の用意も整ったようだ。

 綺麗な栗毛の馬が二頭、その後ろにはなかなかに綺麗な施しがされた箱形の馬車だ。

 ヴァーミルまではこの馬車に揺られていくことになる。道中、大きな問題もなければ十日で到着とのことだ。

 最短ルートを行けば五日ほどらしいのだが、大きく安全な街道で行くとなるとその倍くらいはかかるらしい。

 一応御者は騎士でもあるのだけど、メルシィもいるわけだし入学式まではまだ二十日ないくらいほはあるはずだ。時間に追われる旅でもない。安全でゆっくりと向かえばいいだろう。

 こうして相乗りじゃなく専用の馬車で行けるのは王族貴族の特権というヤツだろう。国民の税金だと考えるとちょっと心苦しい気もしないでもないが、別に豪遊しているわけでもないし、たまにはいいだろう。

 僕が学院で多くのことを学び、この国を更に発展させるための投資だとでも思ってもらえれば幸いだ。


「じゃあ、行ってきます」


「お土産、楽しみにしてくださいね~」


 メルシィのお気楽な一言を最後に僕らは城を後にした。



「イクス様、お気をつけて! いってらっしゃい!」


「王子~、可愛いお嫁さんが見つかるといいですね!」


 街中を走る馬車に道の両側から声がかかる。その言葉に笑顔と手振りで返礼する。

 道を進めど進めど声が途絶えることはなく、その内容も様々だ。


「シーゼリカ様によろしく!」


「辛くなったら、いつでも帰ってきな!」


「ワイナード様、イクス様を無事に送り届けて下さいよ!」


 ヴァーミルにいる僕の姉、シーゼリカによろしくとの声や、辛かったら帰ってこいという温かいモノからワイナードへの声援も……


 ん?


「なんで、兄さんの名前が出てくるんだ?」


 この馬車の中には僕とメルシィしかいないのに。

 と、僕が疑問符を頭に浮かべると、


「呼んだか?」


「うぉあ!?」


「きゃあ!」


 その呟きに対し、窓の外から答えが返ってきた。

 見るとそこにはまごうことなきワイナードの顔が上下逆さまに現れた。

 どうやら、天蓋の上から顔だけ出しているようだ。どうにもホラーテイストだった。

 僕とメルシィがビックリしてなかなか反応できなかった間にワイナードは走行中の馬車のドアを開けて、スルリと内に入ってきた。

 そのあまりにスムーズかつさも当然というようなワイナードの態度にしばらく僕らは言葉もなかったが、いやいやそうじゃないだろと気づく。


「兄さん、なんで乗ってるのさ!?」


「なんでって、そりゃお前、俺もヴァーミルまで同行するからに決まってるだろ?」


 ヴァーミル行きの馬車に乗ってるんだから当たり前でしょ? みたいな顔で僕を見返すワイナードにメルシィなんかは「あ、なるほど」と手を打ったりしてるけど、それはおバカな子限定だ。


「おいおい、俺が何の挨拶もなしにお前を旅に出すとでも思ってたのかよ? そんな訳ないだろが」


 確かに。あれだけ色々と世話を焼いてくれたワイナードが、いざ僕が初めての国外という時に何の挨拶もないことには違和感を覚えたりもしたが、まさかヴァーミルまでついてくる気だったから挨拶がなかったとは思わなかった。


「けど、それにしたってもっと前に僕らに一言あっても良かったんじゃない?」


「サプライズだよ、サプライズ」


「サプライズですって、イクス様! やりましたねっ!」


「…………」


 このサプライズのどこに喜ぶ要素があるのだろう。

 別に道中、メルシィとのラヴロマンスとか女の子と二人っきりだ、きゃー! とかそんな感情があったわけでもないし、この馬車は二人だけというのは広すぎるので、そういう意味では別段問題はないのだが、いきなり乗客が増えるというのはちょっと許容しがたいものがある。

 しかも連絡不備とかじゃなくて、わざと連絡しなかったなんて場合とか。前日に別件にてちょっとした恨みをもっている場合とか。


「……ヴァーミルに何か用事でもあるの?」


「俺もそろそろ一度ヴァーミルに戻ってアレについての情報を集めてみようと思ってたところだからな。ついでにお前らの道中の護衛役も引き受けてやろうと思ってな」


 アレ、というのは〈魔皇会〉についてだろう。僕が誘拐された事件の時に何かしらの情報を掴んだようで、気がつくとワイナードが数日から十数日程行方をくらますということがあった。

 帰ってくるたびに一応聞いてはみるのだけれど、内容についてはやっぱり教えてくれなかった。前に言っていた通り「知りたければ自分で調べろ」ということだろう。


 けれど、そういうことならここで僕が文句をいうのもおかしな話である。元々、僕の馬車というわけでもないのだ。ワイナードの乗車を拒否する権利はない。

 それにまぁ、なんだかんだ言っても兄がついてきてくれるならば、心強いことは確かだ。

 いくら安全な道だからといって、全く問題がないとは限らない。いざという時に僕だけでは対処しきれないこともあるかもしれないし。


「凄いです! ワイナード様がついてれば百人力です! 模擬戦でワイナード様に勝ったイクス様もいますし、千人力ですね!」


「……いや、メルシィちゃん、アレは俺の勝ちだからね? 倒れたのは試合が終わった後だからね?」


「え~、でもイクス様は気を失ったりしませんでしたよ?」


「ほら、気を失うとか失わないとかじゃなくてさ。試合にはルールってものがあってね。それで――」


 メルシィとワイナードの水掛け論のような言い争いが始まった。基本的にメルシィは思いこみが激しく人の言うことをあまり聞かないので、議論しだすと時間がかかるだけで何も生まれない。長年の経験からそれを知っている僕は会話に入る気にもなれず1人、窓の外を見る作業に入った。


 いつの間にやら市街と外を結ぶ門を通り過ぎていた馬車から見える景色は既に僕にとって新鮮なものになっていた。

 城下の大通り付近の散策はよくやっていた僕も門を越えた先を見るのは久しぶりだ。母さんや騎士と一緒に国内の村を視察にいった時に何度か見ただけだから、まだ三回目。

 しばらくは店も人の気配もあるが、門から10キロも離れてしまえばもう完全に野生の世界だ。


「ヴァーミルかぁ……どんなところなんだろ……」


 まだ見ぬ遠き王国、まだ見ぬ学校に想いを馳せて、馬車に揺られる僕だった。


今週はちょっと付け焼刃です。

次回辺りから新キャラ登場の予定です。

楽しみにすると多分、損します。


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