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剣と魔法の人生ゲーム  作者: 真川塁
第3章 学院編 ~学院天国or地獄~
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3-3 hero ring

 シンプルなシルバーのリングに指輪には珍しい黒い宝石のようなものが埋め込んである。最初は黒真珠かと思ったが、どうもそうではないようだ。宝石部分をよくよく見て見ると、中で黒い煙が動いているような感じだ。

 これに近いモノを僕は以前に目にしたことがある。


交感水晶ラクリマ?」


 大きさこそ違うが、気闘術を初めて習った時に僕の持つ属性を調べるために使ったあの水晶に似ていた。そう考えると宝石らしきものの色も僕が触れた時になったのと同じような黒だ。


「正解。交感水晶のデザインと魔力伝導率がちょうどいい感じだったんでな。それを加工してみた。はめてみろ」


 云われるがままに僕は中指にはめた。ぴったりだ。


「……で、はめたけどこの後は?」


「その指輪に魔力――ここでは気っていうんだっけか?――それを送れ。〈強化〉と同じ要領ですればいい」


 いわれるがままに、僕は指輪に意識を集中させて気を送りこむ。

 すると、交感水晶が一瞬その色を一際濃くして、その後スッと色を失った。


「――うっ!?」

 

 次の瞬間、気を送りこんだ指輪から何かが逆流してくるのを感じた。嫌な感じではなかったが、いきなりの出来事につい声を漏らしてしまった。恥ずかしい。

 しばらくするとその波も収まってきた。


「それで、もうお前はオール10のチート野郎に戻ったわけだ。感想は?」


 手を握り、開く。首と肩を回し入念に確認。

 しかし、


「う~ん、あんまり変わった気がしないな」


 劇的な変化は見当たらない。心なしか身体が若干軽くなったような気がしないでもないが、勘違いだといわれたら言い返せないレベルだ。


「まぁ、実際身体動かしたり街に出ないことには変化に気がつかないだろうよ。いまここで確認できるとなると……『魔力』だな。

 おい、ちょっと〈風〉の〈強化〉使ってみろ」


 いわれるがままに気闘術。

〈風〉の〈強化〉を使用。

 すると、


「おわっ!?」


 ビュルルルルルと、凄まじい風切音がしたかと思ったら、部屋中のモノが宙を舞った。カーテン・小物などは勿論、箪笥は揺れるはベッドは軋むはちょっとしたホラーである。   

 原因は僕を中心に起こった小規模な竜巻。

 慌てて僕は気闘術を解除した。


「なっ……」


 あまりの事に声も失った。

 そんな暴風に見舞われながらも、全く影響がなかった様子のトール。


「今ので違いが理解できたんじゃないか?」


「逆に理解できない!」


 すっかりぐちゃぐちゃになった部屋で僕は叫んだ。


「えっ? ……なんで〈強化〉でこんなに部屋が荒れるの? 前はこんなに強くなかったんだけど?」


 4年前。能力制限されるまでに何度もこの術は使っていたけど、こんな規模の風は〈強化〉どころか〈放出〉でも生まれなかった。


「俺がアドバイスした通りにしっかりとマスターした証拠だな。4年前はただ単に『使える』だけだったのに対してこの4年間で『扱える』ようになったからこその結果だ。基盤となる身体の方も武術で鍛えられてるみたいだし、その効果もありそうだな」


「それだけでこんなに違うのか……」


 基礎は大事だっていうけど、本当だったんだな……。

 実感。


「で、その能力事態に劣化はないが、さっき言った通り“時間制約”がつく。

 その状態を維持してられるのは一日に三分までだ」


「三分か……短いな」


「短いととるか長いととるかはお前次第だが、どうしたところでそれ以上は伸びないから気をつけろ」


 三分経ったら、問答無用で元に戻る。


「なんか変身ヒーローみたいだな……」


「お、よくわかったな」


 僕が小さく呟いた独り言に耳ざとく反応するトール。反応があるとは思わなかったので、僕の方がうまく言葉を紡げず、呆けたほうに聞き返す。


「へ?」


「ちょっと指輪貸せ」


 これまた、いわれるがままに指輪をはずし、トールへと預ける。受け取ったトールは手の中でなにやら転がしていたが、それも数秒のことですぐに僕に投げ返してきた。


「……よし、これでもう一回使えるようになった。今度は気を送った時に『変身』って叫んでみろ」


「……なんで?」


 え、なんで?


「いいから」と具体的なことは一切口にせず、しかし顔には嬉々とした表情を浮かべ、僕に促してくるのを見ていると悪い予感しかしないんだが。

 でも、トールは促した後は口を開こうとしない。笑顔を浮かべていても無言の圧力というのはあるようだ。

 ……はぁ。ちょっと気後れするが仕方ない。言われた通りに指輪に気を送り――叫ぶのは流石に気が引けたので普通に言う。


「……変身」



 シャバドゥバドュビットkamen ride ヴィヴィヴィヴィランド



 指輪が発光し、転生前に日曜の朝に聞いたような効果音がどこからともなく流れ、指輪の光が僕を包んだ。

 その眩しさに思わず目を瞑る。

 そして、目を開く。


 目の前にはトール。そして、ちらかった部屋。うん、目に映るものは変化なし。

 変化があるとしたらそれは僕自身だろう。

 掛け声からも効果音からもありありと解る。

 おそるおそる両手を視界に入れる。


 すると先ほどまで素手だった僕の両手は黒い手袋で覆われていた。握った感触から察するに皮革――レザーだろうか。

 そのまま腕、身体全体を見下ろす。こちらも黒いレザージャケットだ。勿論ブーツも黒。さらにシャツまで黒とは恐れ入る。今時中学生でもここまで黒くないぞ。

 そして、最後に部屋の端に移動し、姿見で顔を見る。

 顔は口の出る仮面に覆われていた。想像通り、仮面もほとんど黒一色だった。色違いは額部分と目元の黄色く稲妻のようなライン部分のみだ。形に関しては側頭部にアレンジが効いているするものの、やはりカラーバリエーションの問題かあまり喜べなかった。


「っていうか、なんなんだよ! これ!」


「何って……変身?」


「むしろそれ以外の何者でもないけど?」って顔で僕を見返してくるトール。


「だから、なんで変身するのかその理由を聞いてるんだよ!」


「なんでってそんなの格好いいからに決まってるじゃないか!」


「考えが幼稚過ぎるっ!?」


 威風堂々と胸を張るトール。

 黒一色といい、ヒーローっぽい衣装といいまるで小学生が考えそうなことだ。問題はそれを実行できるだけのチカラを持ってしまっていること。


「せめて、特撮系ネタを引っ張ってくるなら姿形も合わせろよ……」


 今の僕の姿は変身時間が三分の宇宙からの来訪者にも掛け声と共に姿を変える改造人間にも見えない。どう頑張っても悪役か、アンチヒーローだろこの姿は。というかそもそもヒーロー感がない。


「ばかやろう、この世界であんなヒーローが出てきたら世界観が壊れるだろうが」


「神様が世界観とか気にしてんじゃないよ!」


 そういうのは僕らこの世界に住む人間に決めさせろ。

 なおも僕がいきり立っていると、トールは面倒臭そうに取り繕った。


「ま、普通に能力返還してもつまらないし、折角時間制限なんて変身ヒーローっぽい制約がついていたんだ。ついでに変身能力をつけといたって別にいいだろ? 俺からの入学祝いってとこだな」


「……使い時がわからない」


「結構、機能性高いんだぜ? 例えばその服は特殊な造りになってて軽いのに丈夫だから相手の攻撃を少し弱めてくれるし、熱や冷気に対しての耐久性にも優れてる。さらに変身ヒーローお得意のモードチェンジもある」


 ……まぁ、最後のは兎も角、前者二つは嬉しい機能だ。服装も世界観がどうとか言うように確かに違和感はない。ただ、場にそぐわないというだけで。原宿系ファッションで銀座を歩くような感じとでも例えればいいだろうか?

 使用している生地はおかしくないのだが主に色や装飾のせいで目立つ服装になっている。


 なおもトールは説明を続ける。


「変身してもしなくてもどちらにしろ能力が戻るのは三分間だけだ。一度使用したら次の日の出まで使えなくなるから、それは頭に入れておけ」


 変身しない時にも関わってくることならば、しっかりと頭に入れておく必要があるな。


 日の出――つまり朝にリセットされるわけか……。

 一度使ったら丸一日使えない、とかじゃなくて良かった。それならピンチの時以外は日の出前に使うようにしておけば、緊急の際に使えなくなるということもないだろう。

 まぁ日の出前ってことはすなわち深夜から早朝くらいだから出来ることも限られてはくるが。

 ふむ。理解した。


「ほかに何か知っておいた方がいいことはある?」


「当たり前だが指輪を持っていない状態だと使用できない。ただ、指に嵌めていなくても手で触れて気さえ送りこめば大丈夫だ」


「わかった」


 こっちの学校が転生前むこうと同じような規律があるとすればこういった装飾品はつけられないからな。まぁ、王族や貴族の多い学校だ。そういう融通は効きそうなものではあるが、覚えておいて損はない。


「それからこれが一番重要なことだが……」


 トールの声に真剣味が増したので、おもわずゴクリと喉を鳴らす。今までの説明以上に大事なこととなると、一体何の話だろうか? 僕もあわてて居住いを正した。


「変身後のフォームチェンジについてだな。しっかりとお前の頭に叩き込んでおこうと――」


「全然重要じゃないよ!」


 思わず吼えた。


「? なんだよ? お前も元は日本男子だろ? だったら、変身ヒーローは憧れの的だろ?」


「そりゃあ、子供の頃は憧れたけど、高校生になってまでそんな願望はなかったよ……ってちょっと待って、お前もってことはトールも日本人なの?」


「こう見えて色々な世界へ出張している忙しいビジネスマンだからな。お前がいた世界で日本人として生活していた時期もある」


「へぇ」


 なんとなくイメージが沸かないな。容姿が容姿だし。これでビジネスマンと云われてもイメージがわかない。けれど、「ビジネスマン」という言葉自体がこの世界にも神という偶像にもそぐわないので、日本で生活したというのは嘘じゃないかもしれない。


「で、フォームチェンジの話だが」


 どうやら、どうあってもその話からの脱線はないらしい。しかし、だからといって説明を聞きたいかと云われるとそうでもなくて。


「……それ、今聞かなきゃダメ?」


 せめて、もうちょっとこの服装に慣れさせてほしい。受け入れる時間が欲しい。


「……まぁいいや。じゃあ取り扱い説明書トリセツ渡すから後で眼を通しておいてくれ」


 そういうと袖口――袂から小さな本を取り出して僕に放ってきた。

 表紙を見ると「これで貴方も変身ヒーロー!初級編 ~名前の決め方から必殺技、フォームチェンジまで~」と書いてある。

 あまりにチープな仕様に逆に眼が惹きつけられる。


「じゃあ、二度目の学園生活楽しんでくるといい。今度は死ぬんじゃないぞ」


 冗談めかした声がやたらと耳についたので文句のひとつでも言おうと顔をあげると、既にトールの姿はなかった。

 ……全く、入退場が自由すぎてついていけない。


「入学祝い……か」


 説明者は一旦置いておくことにしはめた指輪に目を落とす。

 希望のはずのその指輪、けれど交感結晶に映し出される黒色が僕の未来にもたらされる暗雲のように思えて仕方がなかった。

 鏡に映った黒一色も姿がそれをさらに強調させた。


「前途多難そうだな……」


 ため息を吐く姿は全然ヒーローじゃなかった。


冒険回です。


変身の下りを今回限りのギャグとして終わらせるか、話に組み込んでいくかは反応次第ですかね。



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