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剣と魔法の人生ゲーム  作者: 真川塁
第2章 年少編 ~イクス・アルベートの優雅なる日常~
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Interval 03 -a good reason-

「出来ることなら俺は『お前が1人で勝手に助かっただけだよ』とでもいいたいところだが――あの作家は好きなもんでね――しかし事実を捻じ曲げるのはよくないから率直に言おう。俺がお前を助けに来た。いや、正確に云うならば助けた、か」


「貴方に、助けられた?」


 彼の好きな作家というのには触れることなく、僕ははて、と首を傾げる。

 思い当たる節はないのだが。一体、いつ助けられたのだろう?


「まず、第一にあの〈魔皇の遣い〉のアジトをお前の兄貴に教えたのは俺だ。間接的に、ではあるけどな」


 指折り数え始めたトールは一発目から衝撃的なことを軽く云ってのけた。


「あの場所を兄さんに?」


「あぁ、そうでもしなければお前はあのアジトから五体満足で出ることは出来なかったからな。

 そして、二つ目。お前は知らないかもしれないがあそこにはシモンの他にもう一人、お前が脱出する上で厄介なヤツがいた」


 厄介、と云われてふと思い付く顔がひとつ。


「イーサンですか?」


 僕を拉致した張本人の顔が浮かんだのでそう述べた。実際、僕にとっては厄介以上の何者でもなかったのだが、トールの言う「ヤツ」とは違うようだった。


「イーサン? ……あぁ、あの根暗男か。違う違う、あんなのは数の内には入らない。

お前にとっては難敵かもしれないが、それはお前の兄貴をあの場に送り込んだことでもう結果は見えていた。あとはお前の兄貴の心ひとつだった。

 俺が云っているのはギルドマスターだよ。実質、あのギルドのリーダーだった男のことだ」


 ギルドマスター。

 そういえば、兄貴の元々の目的はギルドマスターだったとは後から聞いた話だ。そして、そのギルドマスターとやらは昨日の時点ですでに誰かに殺されていたらしい。

 ってことはまさか……


「うん。殺したのは俺。アイツとシモンの両方がいると流石にお前の兄貴でも勝ち目はなかったんでな。どちらか1人を消す必要があった。で、ラクに始末出来る方にした」


「ラクに始末? ギルドマスターなのに?」


 単純な考え方で申し訳ないが、あの場にいた“ギルドマスター代理”のシモンよりも“ギルドマスター”の方が強いもんじゃないだろうか?


「自尊心の強そうな、いかにも人の上に立ちたがるような男だったからな。シモンもそれを見越してギルドマスターにしたんだろ。実際、シモンの方が強い。あのままやりあっていたら、お前の兄貴じゃ勝てないだろうな」


「じゃあ……もし、シモンと兄さんが闘っていたら?」


「闘わないと踏んでいた。アイツは無駄なことはせずにさっさと帰るだろうとは思ってた。まぁ、もし万が一お前の兄貴とシモンが闘っていたとしても、その時点でお前は既に解放されていたしな。

 俺はお前を助けにきたのであって、お前の兄貴を助けにきたわけじゃない」


 その辛辣な物言いに、僕はなんと返したらよかっただろう。助けられている身分で何と云えば良かっただろう。

 人の身内を何だと思ってるんだと憤慨すれば良かったのか。はたまた、そうですそのとおりですねと相槌を打てばよかったのか。わからなかった。

 結局、何もできなかった僕には、そのことに触れる資格がないということなのだろう。

 なので、僕はそのことには極力触れず、話を進めることにした。


「兄さんじゃ勝てないって言ってましたけど、貴方なら勝てたと?」


 当然、とトールは胸を張る。


「負ける要素が1ミリミクロンも見当たらないな。というか、この世界で俺に勝てるヤツは1人もいないね。断言する」


 断言された。

 すげぇな。自信過剰も甚だしい、と鼻で笑うこともできるがその言葉の端々から本気でそういっているのが解る。

 世界最強は置いとくにしても、シモンや件のギルドマスターに勝てるというのはおそらく本当なのだろう。

 だとすれば、


「なんで、アンタが助けてくれなかったんだ?」


 それは当然の疑問だと思う。

 いや、助けてもらったのにこんな聞き方、ホントどうかしているってくらいにおかしな物言いだとは思うのだけど。

 僕を助けるために来た、来てくれたのならなぜ普通に手を貸してくれないのか。それは、本末転倒というやつではないのか。

 しかし、トールはその質問こそまっていたという顔で、堂々と答えた。


「それじゃあ成長しないだろう」


「成長……?」


「ああ」


 トールはまるで、僕が困惑しているのを楽しむかのようにゆったりとした動作で首肯した。


「俺の目的はお前を助けることだけじゃない。正確には今後もお前が生きられるようにお前の成長を促すためにやってきた……あぁ、そういうことなら、前言は撤回してこの台詞を遣ってもいいかもな。『お前が勝手に助かるだけだ』ってな。ま、『生き残れたら』って但し書きがつくがな」


 後半の言葉はもう耳に入ってこない。心に残った言葉を僕は繰り返した。


「成長を促す……」


 余計なお世話だバカヤロー、と罵詈を吐けないのは実際に(間接的とはいえ)命や命以外に色々救われたからであり、しかし言っている内容はとてつもなくでっかいお世話だった。

 神様に言われていると思えばいくらか気持ちがラクにはなるが。

 僕がこの気持ちとどう折り合いをつけようかと悩んでいる間にもトールは喋り続ける。



「こちらの手違いでお前の人生を面倒なものにしてしまったんだ。せめて、お前を成長させることで生存率をあげてやるくらいしかノルンや俺にはできないんでな」


「ちょ、ちょっと待って! 面倒な人生って何っ!?」


 聞き捨てならない台詞を聞き捨てるようにさらりと吐くとは全くもって不届きな神様である。


「そこんところ詳しくっ!」


「あ~……面倒臭いからこの話はまた今度でいいか?」


「よくないよ!」


 面倒なのは人生だけで十分だ。いや、面倒な人生もいらないけど。命を助けられていようと、ここで折れるわけにはいかない。

 しつこく食らいつく僕に押されるカタチでどうにか具体的な内容を聞けることになった。


 面倒だな……と、もう一度呟いてトールは話し始めた。



「まず、なぜお前の持つ能力が改竄されてしまったのか。これについてはまだ原因がはっきりしていない。選択した特殊能力のせいなのか、はたまたお前の魂が特殊だったのか、テスターゆえのバグなのか。それはわかっていない。

 しかし、お前の能力はなぜかオール10というチートな能力になってしまったわけだ。ここまではいいな?」


 原因が不明なんてあまりよくなんじゃないか、と思うのだけど、把握しているか否かという話のようなのでとりあえず頷いておく。


「で、問題というのは『オール10になってしまった』ということよりも『特定の能力値が変化してしまったこと』、これ自体にあるわけだ」


 一旦、言葉をきって僕の反応を見ながらまた話しだす。


「『筋力』や『認識力』、『成長率』、この辺りはまぁいいさ。これらのパラメーターが変化したところでその人物の辿る道筋こそ変われど運命はそう大きくは変わらない。しかし、他の能力は違う。特に『出自』なんてのは、ダイレクトにお前の人生を大きく変えてしまった。そして、これはもう変更が効かない。」


 確かに。この『出自』なんてのは生まれた時点でその役割を果たしたといってもいい。

 いまさら能力値を下げたところでエミリダの腹から僕が生まれてきたという事実は変わらない。

 変更する意味がない。


「その結果お前はこうして王子として生まれてきた。そして、ここからが重要なんだが――大きなチカラを持つ人間は否応なくその世界が持つ“物語”へと介入させられてしまう」


「物語?」


「“歴史”と言い換えてもいい。百年後の歴史の教科書にはお前が載っている可能性があるということだよ」


「……なるほど」


 歴史の教科書を紐解けば、そこに載っているのはなにかしらに秀でた者ばかり。地位、権力、富、名声、政治的手腕に軍事的手腕。

 そういったモノを“持っている”者達だ。

 僕も王子というだけでこの国の歴史書には既に載る運命だ。

 出自、魅力、知力、筋力全て高い能力値を誇っている(いた)僕が将来一角の人物になる可能性、というのは多いにあったことだろう。

 あまりに話が大きくなっているのであまり自分のことという感じはしないが。


「そして、歴史に名を残すような人物というのはかなり過酷な人生が強いられる、というのもわかるんじゃないかな?」


「想像はできます」


 劇的じゃない人生なんてない、とは思うが確かに偉人の伝記を読んでいると劇的以上に劇的な場合が多い。

 劇的に、刺激的だ。


「つまり、ノルンのミスによって、お前にはより困難な人生が待っているということさ。これはもう変えられない。そのお詫びにこうしてキミの成長を促すため、また今回だけではあるが――お前が死なないようにこうしてこの世界に助けにきたわけだ」


 これでわかったろ? と、まるでマジックの種明かしでもするように、しっかりと開いた両の掌を僕に見せてくる。


「なぜ俺が直接助けなかったのか、と聞いたな? これがその答えだ。

 今後、お前は今日以上に危険な目にあう。だから、これはその為の予行練習、チュートリアルだ。完全に排除することにも出来たが、それでは成長を促せなかったからな。


 ――チュートリアルもクリアできないようなら、それこそ死んだほうがましってものだろう?」


 そういってトールは無邪気に笑った。

 その無邪気な笑顔に幾許いくばくか邪気が混じっている気がした。




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