Interval 03 -an ostensible reason-
「とまぁ、それは冗談だけども」
思わず息を呑んだ僕も後に続いたその言葉に一瞬の小休止を得る。
いきなり現れた男はなんというかちぐはぐだった。
白髪よりもなお透き通る銀髪にこちらも濁りのない澄んだ碧眼。完全なる欧風の顔だち。しかし、服装がトリッキー。
和服だった。
着流しというやつだろうか。ごてごてとした装飾はなく、シンプルな出で立ち。足元を見ると草履を履いていた。ザリザリという擦るような足音はどうやらこれのせいだろう。そして、驚くことに腰にはなんと日本刀らしきものがぶらさがっていた。そういえば、この世界にも日本のような国があるのだろうか? でなければ、この服装は説明がつかないが……。
ともかく。
それは完全なる「サムライに憧れる外国人」の格好だった。
しかし、それがコスプレに見えないのは振る舞いや所作のおかげだろうか。普段から着物を愛用している者独特の「佇まい」のようなものを感じる。気品というとそれはまた少し違う気もするが。
先ほどまで感じていた胡散臭さが一気に抜けていくような――
「改めてご挨拶。こんにちは、俺の名はトール。神の使いだ。だが、そのことはあまり気にせずトールと呼び捨てにしてくれたらいい」
あ、ダメだ。やっぱり胡散臭い。
神の使いとか、胡散臭さが止まる所をしらない。
どこの宗教かと。
いきなり現れるまでの演出は良かったが、格好が武士ではどうしたって宗教の勧誘は無理だろう。
というか、僕は本物の神様を見てきているのでその手の勧誘は……
そこで思考が一時停止。
僕の脳裏にふと、とある神様の顔が浮かぶ。
「その通り、ノルンの使いで来た」
僕の考えを読んだかのように男――トールは頷いた。
ノルンさん。
言わずもがな、僕をこの世界へと転生させてくれた正真正銘の神様だ。本人はなにやら曖昧な返事をするばかりだったが、神様みたいなことができるのだから神様と呼んでもいいだろう。
この世界で他にノルンなどという人は知らないし、あの時のことは誰にも話していない。話したところで正気を疑われるだけだ。
となると、この人は本当の意味で正真正銘の神の使いということになる。
「ノルンさんの部下か何か?」
何気ない僕の質問にトールが少しばかり鼻白む。
「それは違う。アイツには恩があるから手伝っている。俺とアイツに上下関係は存在しない」
そう強く否定し、言葉を続ける。
「まぁ、その恩にしたって考えようによっては恩でもなんでもなくなるようなものだから……そうだな、強いて云うなら自分の為だな」
「はぁ……」
かっこいい事云ってやったぜ、みたいなそのしたり顔が気に食わなかったので反応を薄めにしてやった。
突如部屋に出現することといい、やたらいい事や格好いい事を言おうとするところなんかが、兄さんとダブってみえる。
なんか嫌だ。
アレもアレで頼れる兄だが、アレと同じようなのが二人もいるという現実は、なんか、すごく、イヤ。
ちょっと強引にでも話を本筋に戻してもらおう。
「で、じゃあノルンさんの使い――じゃなくて知人がどのような用件ですか?」
「お前の『能力』について」
トールは短く端的に、余計な言葉を省いてただ、そう云った。
「……はぁ?」
それだけじゃわからない。
首を捻る僕にトールはいう。
「今のでわからないか?」
そんな十分なヒントは与えてやったぞ、みたいな顔をされても困る。どう考えても十分どころか十分の一のヒントも与えてもらってない気がする。
ともあれ、こうしてクイズを出されるというのは存外久しぶりなので、ちょっと考えてみる。
僕の持つ能力といえば……。
「気闘術のことですか?」
能力というとそれくらいしか出てこない。しかし、あれは一応「術」だし能力と呼ぶのが正しいものなのだろうか?
そんな風に僕が脳内で答えが出る前に答え合わせをしていると、トールはしたり顔で、
「ふむふむ……どうやら本当に制限が掛っているようだな」
なんてことを言ってきた。
しかし、それも意味がわからない。
「ロック……?」
「あぁ」
「??」
僕の様子を見て、トールが漏らしたその呟きに僕は一層困惑する。
何だ? 何なんだ? この男は何について喋ってるんだ?
頭の周りをクエスチョンマークがぐるぐると回る感覚。
「本当にわからないようだし、いいだろう教えてやろう」
それを見ていたトールが笑いを含みながら答えを提出した。
「能力というのはお前が手に入れた『オール10』のチート能力についてだ」
「えっ!?」
驚きの声が自然と漏れる。
「知らないとでも思ってたか? 相手は曲りなりにも神を名乗れる御仁なんだぜ?」
トールは首元を掻きながら、にたにたと言葉を紡ぐ。
その表情は確かに『神の使い』とか『ノルンさんの命令でやってきた部下』という言葉がそぐわないものだった。
しかし、彼の言葉には納得のいく部分がある。
僕がさん付けで呼んでいる彼女。
テンション高く、ちょっとお茶目で親しみやすいドジな彼女。
いくら親しみやすくてドジでも彼女は神なのだ。僕が(意図的ではないとはいえ)起こした不正を検知できないはずはない。
そして、彼女の使いという人物が「能力」といえば、それはこの世界の「気闘術」なんてモノではなくて、彼女が僕にくれた「能力」――筋力や魔力、器用さ特殊能力といった計十種類の力の配分のことを指すのは当たり前だ。
どうしてそのことに思い至らなかったんだろう――認識力も高いはずなのになんで自分は言われるまで気付かなかったのだろう?
「『認識力』も高いはずなのになんで自分は言われるまで気付かなかったんだろう、って顔してるな」
「…………」
一言一句違わず心の内を読まれてしまい、僕は上手く返すことすらできない。
そんな僕を楽しそうな表情で見ていたトールは「答えは簡単だ」と意外にあっさり、解答を吐きだした。
「俺――正確にはノルンがお前の『能力』を一時的に制限してるからだ。それがロック」
カチリと鍵を閉めるような仕草をするトール。
「お前が元々選択した『器用さ』と『特殊能力』、それと今さら変更が出来ない『記憶力』と『出自』以外の6つの能力は今、全て10から1~4程度に抑えてある」
「…………いつから?」
「今日から。思い当たる節があるんじゃないか?」
そう云われればという感じではあるが、確かに調子は良くなかった。
路地裏では十分な跳躍が出来ず、撃退方法も月並みだった。周囲への気配りを忘れていたわけでもないのに簡単に捕まってしまい、捕まってからは敵に自分の考えを読まれ先回りされる始末。
そりゃ向こうの方が上手ではあるがそれにしたってあの体たらく。
僕自身のパワーダウンも原因だったのか。
……いや、パワーダウンなんかじゃない。これが本来、僕が得るはずだった力の全て。
つまり、今の状態こそ僕の正しい強さなのだ。
「それで、僕はこれからこのまま生きていけばいいんですか? それとも、何かペナルティを受けるんですか?」
覚悟を決め、僕はトールへと問いただす。
しかし、僕の覚悟は空を切るカタチになった。
「ペナルティ? どうして?」
そんなものが必要なんだ、と首を傾げるトール。
その返しに僕も首を傾げながら、思ったままを返す。
「どうして、ってそりゃあ不正を働いたんですから。罰を受けるのは当然でしょう?」
意図してではなかったが、本来持つべきでない過剰供給された能力を得たと自覚して好き勝手を働いたのだから、知らなかったではすまされない。
と、思っていたのはどうやら僕だけのようで。
「いやいや、これはこっち側のミスなんだからお前がそこまで思いつめる必要はないさ。むしろ、これもお前の持つ運だったということで覆いに活用してほしいと思っている」
和服の美丈夫はそう云ってきた。
――僕を罰するためにやってきたわけじゃない?
そうなると、今度は他の疑問が浮き出てくる。
「じゃあ、なんで、わざわざ僕のところにやってきたんですか? 罰するためじゃないのならなんのために?」
罰でもペナルティでもないというのなら、一体何のためにトールはここにいるのか。僕の能力について言及しているわけだし、それが関係ないということもないはずだ。
罰が必要ないというなら僕の能力に制限をかけた理由もわからない。
『認識力』に制限がかかっているからなのかそうじゃないのかは知らないが答えが解らないという事実は変わらない。
考えあぐねる僕にトールが助け舟――というか答えを提示した。
「お前を助けに来てやったのさ」
サブタイトルがそろそろ限界です。
苦手科目だったのになんで横文字使っちゃったんだろう……。




