Interval 03 -Messenger-
後処理等は衛兵に任せ、僕と兄さんは揃って城へと帰ることにした。
道すがら、兄さんの起こした爆発の音を聞いたのであろう町民から何度か声を掛けられるなどもあったが、上手い事とりなして特に大事には至らなかった。
城に帰るや否や衛兵から話を聞いたメリィさんやグライムその他数人が駆けよってきたりもしたが、それだけだった。
エミリダは「誘拐されるような柔な育て方をした覚えはないのですけどねぇ?」と額に青筋を立てる寸前だった。
また明日からの練習が厳しくなることは火を見るよりも明らかだったので僕も口元をひくひくと不器用に動かすくらいしか出来なかった。
ゼーリットは特に何もいってこない。だからといって父さんが薄情というわけではないことも知っているので、これも信頼か激励のつもりなのだろう。
こうして誘拐という王子が一度は経験すべき事件は一段落した。
僕は自室に戻ると、灯りを点けずにそのままベットへとダイブした。
さて。
ここからは反省のお時間だ。
今回は全て僕の責任、僕が起こした事件と云っても過言ではないだろう。
自分が王子であるということを包み隠さず町民に喧伝し、護衛もつけずに街をほっつき歩いていたツケが回ってきたというだけの話でもなる。
そのせいで、兄は目標の十分な手掛かりを掴むことができずに潜入捜査も水の泡だ。「標的にまんまと逃げられた」などとまるでワイナードの失態であるかのように云ったが、本当はそうじゃないこともわかっている。
結局は僕のせいなのだ。
チートな能力があるから大抵のことなら大丈夫だと思っていた。師は優秀で、既に3つの属性術を使え、体捌きだって軽い。
でも、それだけだ。
世間に疎く、常識を軽んじ、規律を蔑んだ。
死というものが一度死んだいまでもまだ曖昧だし、もし死んだとしてもまた次の人生があるから大丈夫だと、そう思っていた。
そう、強がっていた。
けど、能力が使えなくなり、死ねないまま何者かに凌辱されるのかと思ったら、全身に恐怖が纏わりついてきた。
殺される以上に、死ぬかと思った。
思い出すと身体が震える。
結局、僕は縋りついていた。能力に。転生に。
僕が偶然得た力と偶然知った知識に、しがみついていただけなのだ。
これでは強くなれる筈もない。
強くなれる訳もない。
「おめでとう。ようやく一歩踏み出したな少年」
「――っ!?」
僕しかいないはずの部屋に、初めて聞く声が響く。
灯りを消した部屋の中で声だけが妖しく反響する。
僕は声の出所を探るため、身体を起こす。
そして、首を巡らせる。
窓際に1人の人間が立っていた。
窓から降り注ぐ月の光が逆光となって、侵入者の顔を隠している。
「誰だ?」
窓から入ってきたのだとしてもそれが兄でないことはわかる。
そして、兄以外に僕の知る限り窓から入っているような人物に心当たりはない。となるとこの侵入者は必然、僕と面識のない誰かということになる。
侵入者はザリザリと妙な足音を立てながら、月の光を背にして僕へと近づいてきた。
やっと暗闇に慣れてきた僕の眼が大分距離の近づいた侵入者の顔を映す。
それは見たことのない男だった。
そして、僕と目が合うと男は立ち止まった。
「どうも、ラスボスです」
胡散臭い笑顔を作り、男はそう言った。




