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剣と魔法の人生ゲーム  作者: 真川塁
第2章 年少編 ~イクス・アルベートの優雅なる日常~
31/47

2-12 after the fact

「魔皇会?」


「ああ」


 なぜあの場にいたのかと兄に問いただしたところ真っ先にでてきた単語がソレだった。

 

 あの後、酒場からなんとか逃がしてもらった僕は自身の不甲斐なさと無力感に襲われたりもしたが、そんな場合でないことも重々承知していたので、そういった自己嫌悪の素になりそうな感情には一時的に退場していただいた。


 城外の見回りをしていた兵士を捕まえて、さらっと事情を説明し応援を出して貰うまで一時間弱といったところ。

 そうして、数人の兵を引き連れて再び戻った闇ギルドのアジトに辿り着いた時、僕は眼を疑った。

 そこにあったはずの酒場がなくなっていたのだ。


 酒場の立っていた場所は炭と灰まみれの煤けた更地へと変貌していた。そして、その場に1人立ち残っていたのは、我が兄ワイナードだった。

 僕らを目にすると「お~い」と勢いこんでやってきたこちらが脱力するような声を出し、ふらふらと手を振ってきた。

 目立った外傷はそれほどなかったが明らかに動きがおかしいので内臓なかや腱を痛めているのはすぐにわかった。


 すぐさま治療を受けさせるが、麻酔を打ったり横になったりするようなこともなかったので治療の合間にあらましについてはしっかりと聞くことが出来た。

 そして、今の質問に戻る。


「それで、その〈魔皇会〉とやらは一体なんなんだよ?」


 初出の単語、それも僕の貞操やら精神やらが危うく失われるところだった原因を前にして語気が荒くなってしまったのは仕方がないことだと思う。

 兄さんもそれを承知で、特にとっかかるようなこともなく、自然と話してくれた。


「まぁ、ひらたく言えば闇ギルドの一種だな。つっても闇ギルドを裏社会とするならそっから更に奥――“裏の裏”ってな感じで闇ギルドのやつらでも知っているやつは少ない。表社会だったら尚更だ」


「じゃあ、なんで兄さんはソレを知っているのさ?」


 一国の王子なんて、表社会の象徴みたいなものだろう。危険と常に隣り合わせの裏社会なんかとは一番縁のない人物のはずだ。

 いや、一国の王子たる者、暗殺等の危険性はアルベートうちみたいな小国であっても拭えないが、だからといって今回のように自分から危険に飛び込んで行く必要はないだろう。


「俺も昔、誘われたんだよ。『魔皇会に入らないか?』ってな」


「え? なんでなんで?」


 もう身の危険がどうとか今回の事情とか経緯とか関係なく只の好奇心で迫る僕を目の前にして、ようやく兄は疲れたため息を吐く。


「勧誘されたんだよ」


「勧誘?」


「あぁ、入団条件を満たしたヤツのところには大抵来るらしい。で、学生時代にオレのところにも来たわけだ」


「へぇ。で、その入団条件って?」


 裏の裏とか呼ばれる組織に入るのにはどんな条件が必要なのか、なんとなく気になったので聞いてみた。


「いくつかあるみたいだが、オレの場合は『特質以外の5系統全てを扱える』ってのが当てはまったらしい」


「え!? そんな条件なの?」


「そうだけど……あれ? ここは『アニキ、すっげぇ!』ってなる場面だと思うんだけど?」


「え? だって母さんも全部使えるし、全然外に出ない父さんだって4系統は使えるでしょ?」


「そりゃそうなんだが、あの辺と比べられてもなぁ……。まぁ、確かにこんな環境じゃその反応でも仕方がないのかもしれないけどよ」


 なんかがっかりだよ、とわかりやすく肩を落とす兄。それでも自身のプライドを守るためなのか、話を進めやすくするためなのか注釈を入れてくる。


「オレの在籍していた王立学院ってところは世界中から生徒の集まる学校なんだが、そこの気闘術を扱う学科でもオレの卒業した年は二人だけだった。卒業後にその域まで達する者もいるがそれにしたってそう多くはないはずだ。現にウチの国には母さんしかいないしな」


 王立学院というのがどれくらいの規模なのか定かではないが、世界中から人が集まるようなところで10や20ということもないだろう。少なくとも桁が1つは違うはず、その中で扱えるのが二人というのならば最高でも全体の2%ということになる。

 そう云われると、凄いと感じてくるので不思議である。


「そうなんだ……」


「おぅ、ようやくお前にも兄の偉大さが伝わったようで何よりだ!」


 僕の曖昧な相槌から目聡く感嘆の意思を見出した兄は急に得意気になり胸を張る。

 そういう部分があるからちょっと憧れを抱きにくいという部分に気がついて欲しい。


「で、その条件を満たしてたからその魔皇会とやらが兄さんに接触してきたの?」


「まぁ、正確に言うともう一人の方に、だな。俺はあのころはまだなんとか全系統を扱えるようになったばかりで十分とはいえなかったからなぁ。ソイツのついでに誘われたみたいなもんだよ」


 その苦々しい表情にワイナードの負けず嫌いな性格が表れているようで、ちょっとはにかんでしまったが、まだまだ割とシリアスな話題なので、僕はもう一度顔の筋肉を固くした。


「で、以来、追いかけているってことか」


「まぁ、そうだな。 最初はその勧誘を受けたもう一人の学生ってのが友人で、そいつの眼を覚まさせるだけが目的だったんだが、探っているうちにその会が相当ヤバいこと企てているってのがわかってな。それからは潰すのを目的に動いてる」


「ヤバいことって……?」


「そいつは教えられねぇな」


「っ!?」


 有無を言わさぬ口調だった。別に殺気を放っているわけでも怒気をはらんでいるわけでもない。表面上は別段変化はなかったがその言葉には棘よりも鋭い刃がついているようで、これ以上踏み込めば許さない、という意気を感じさせた。

 その気に当てられ僕は思わず身を固くしたが、次の瞬間にはいつものワイナードに戻っていた。


「知りたいなら自分で調べるこった。独力で魔皇会の目的についてまで調べあげられるようだったら、その時はお前も仲間に加えてやるよ」


「仲間?」


「あぁ、何も奴らを追ってるのはオレ1人ってわけじゃねぇ。学生時代の友人や同じく魔皇会を追っている奴らとは連絡を取り合ってるし、場合によっちゃ共闘することもある。その逆もまた然りだけどな」


 つまり、場合によっては敵対することもあるのか。


「それ……仲間?」


「……そう聞き返されると困る」


 ワイナードにとってもその辺りは不明瞭らしい。


「ま、仲間って言い方が気に食わないなら。もっと簡潔に云ってやろう――オレの知ってることを知りたいなら、ここまで上がってこい。オレと同じ土俵まで、な」


 なんとも勇ましい台詞は流石ワイナード、まさに自身が服を着て歩いているような男である。

 だが、ひとつ云いたい。


「でも今回は標的にまんまと逃げられたんだよね?」


「うっ!」


 僕の切り返しに言葉を詰まらせるその姿もある意味ワイナードらしかった。



山場を通り過ぎてちょっとダレちゃいました。


またコツコツ頑張ります。



今回も読んで頂き有難うございます!

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