0-2 Character Make 01
今回はゲームの説明回になります。
ゲームといっても単純なものな上に転生後の世界との直接的な関係はないので面倒な方は飛ばしてくださっても支障はないかと。
人生ゲーム。
日本ならば知らない人はそういないんじゃないかとも思われる有名ゲームで、僕も小さい頃には友達の誕生会などで何度か遊んだ記憶がある。最も高校生にもなった(『なっていた』と過去形にすべきだろうか?)最近では目にする機会もそうそうなかった品物ではある。
「まさか、これをプレイしてその結果通りに転生先で行動させたりするんじゃないよね?」
「流石にそれは没になりました」
「案としてはあったのか……」
「いやぁ、モニターテストまでは云ったんですけどねぇ。結局、大金持ちか開拓地送りかの二択になっちゃうから使えないんですよねー」
あははー、と自らの失敗を笑うノルンさん。
本当にこの人が神様なのか疑わしく思えてきた。
仮にこの人が本当に神様なのだとしてもこんな人に転生をしてもらうのはちょっとどころじゃなく不安だ。
「で、これをプレイすること自体は諦めた訳ですが、流石に自腹きって購入したものを使わないというのも癪にさわるのでなんとかこれを利用して転生先を決めることにしました」
「アンタが考案者かよ……」
「高かったんですよー、東急ハンズでサンキュッパでした」
「今時、高校生でもサンキュッパを高いとはいわないだろ。それよか神様が百貨店でお買いものしてるとか……そっちのが気になるんだけど」
目の前の女性がデパ地下で試食品を食い漁る光景が脳裏に浮かぶ。
大口開けてパクパクパクパク次から次へと大量に試食するだけして一切買わずに帰りそうだ。
「……失礼なことを考えてるとミジンコに転生させますよ」
「わ、わぁ、人生ゲームで次の人生を決めるなんてシャレが効いてるなぁ~。ノルンさんは凄いなぁ~」
「……えへへ」
見え見えのお世辞に照れたような笑いを浮かべるノルンさん。
その笑顔は素敵だよ。素敵だけど……なんでオレが神様のご機嫌とりをしないといけないんだよ。
僕の恨めしい目に気がついたのか頬を緩ませまくっていたノルンさんはこほんと咳払いをし背筋を伸ばした。
「で、では、そろそろルールの説明と行きましょうか。ルールは簡単です。この人生ゲームのルーレットを4回回してください。そして、その出た目をそれぞれ『転生先の世界レベル』『生物レベル』『能力値レベル』『能力個数』に割り振って頂きます」
四本の指を順々に折り、そういうノルンさん。
「『転生先の世界レベル』は転生後の世界の状態を表します。1の場合、寿命内に滅亡するか、極端に生活レベルが低いかのどちらかになります。逆に10の場合――貴方の前世は『第二深層』なので、そこから『第三深層』に上げることが出来ます」
「第三深層?」
先ほどからちょくちょく出てくるこれらの言葉は一体なんなのだろうか?僕はその答えが彼女の口から出るのを今か今かと待っていたがどうやらその願いは敵わないようだった。
「先ほどもいいましたが、その辺りにはあまり突っ込まないで頂けると説明が早くなるので有り難いです。……まぁ、一言で言うなれば宇宙旅行が簡単に可能な世界、とでも申しましょうか。他の惑星との交流がある世界、と言い換えてもいいです」
ようはSFの世界ですね~。
そういって、ノルンさんは説明を続ける。
「次に『生物レベル』ですが、これは単純に生物としてのレベルですね。10は世界によっては神と呼ばれるような存在にもなれたりします。8、9なんかだと神獣やドラゴンとかですかね」
「人ですらない……」
まぁ、確かに人間が一番上、みたいなのも嫌だよな。こんな不完全な生物が生命の頂点だとは思いたくもない。などと、たまには真面目に考察してみる。
しかし、ノルンさんの次の一言で僕の真面目な思考などというものは彼方へ飛んでいった。
「人間では8以上で選択できる『半神半人』が最高位ですね。『サ○ヤ人』だと7が妥当でしょうかね」
「サイ○人にもなれるのっ!?」
「不可能ではないですがちょさくけ……色々と厄介な問題があるのであまりおすすめはしません」
「おい、アンタいま著作権って言いかけただろ」
「な、なんのことでしょうかね……」
こんなに目が泳ぎまくってる神様初めて見たぜ……。神様見るの初めてだけど。
不用心な発言をした神様をジト目で見つつも、これ以上詮索しても何も出てこないどころか色々と余計なものを掘り出しそうな気がしたので話題を戻すことにした。
「○イヤ人でその位ってことは普通の人間は5くらいか?」
「一概にそうとも言えません。さきほど言ったようなドラゴンや神獣のいる世界の人類とそれらがいない世界の人類では生活レベルや支配圏なども違いますしね。ちなみに前者は程度により3~4、後者は5~6ってところですかね」
「総括すると人間は3~8、か……」
『半神半人』や『○イヤ人』は抜かしたとしても3~6、意外に開きが大きい。
「『人間』には獣人なども含まれますし……。 そもそも哺乳類は大体がそのランクですね。1~2、だと微生物から魚類、昆虫などに通常はなるのですが、今回は……そうですね。1や2でも人間をお望みならそうさせて頂きましょう」
「え、なんで?」
「まぁ、仮にも扱うボードが“人”生ゲームですし。このゲームも現在はまだ試用期間みたいなものなので。テスターボーナスとでも言ったところでしょうか」
「……被験者扱いかよ。まぁ、いいけど」
それでミジンコ人生を回避できるというなら安いものだと自分自身を納得させ、なんとか留飲を下げる。
こちらの様子を窺いつつも話を続ける辺りは流石というべきなのだろうか。ノルンさんの説明は淀みなく続けられる。
「そして、『能力値レベル』と『能力値個数』ですが……これは先に各能力を説明しておいた方がいいでしょうね」
いって、彼女は指を鳴らす。
するとポンッという小さな破裂音とともにノルンさんのその華奢な手の内に一枚の紙が収まっていた。
それを広げて、僕へと渡してくれる。
「能力一覧」と書かれたその紙には短く10個の単語が書かれていた。
能力一覧
『筋力』
『魔力』
『魅力』
『出自』
『知力』
『成長率』
『記憶力』
『認識力』
『器用さ』
『特殊能力』
「『筋力』『魔力』『知力』などは特に説明する必要もないと思うので省きますね。
『魅力』は異性や周囲の同族にたいして影響します。貴方がもし群れで生活する生物に転生する場合、これが高いとリーダーなどのポジションにつくことがあります。人間の場合はこれが高ければ高いほど異性にモテたり、上司に可愛がられたりしますね。また、外的要因として美男美女になる可能性が高いです」
さくさくと、ノルンさんの説明は続く。
「『出自』は生まれですね。この出自が高いと――ここからは全て人間を例として挙げて説明します――家が裕福だったり、徳の高い人物やその世界で伝説と呼ばれるような人物の血を引いていたりします。これが高ければ良い〈血脈〉に恵まれるわけです。
次に『成長率』ですが、これはゲームでいうところの獲得経験値アップやレベル制限解除といったところでしょうかね。これが高いほど人間的に成長できますし、その他の技能においても適正があればめきめき上達することでしょう。
『記憶力』はその言葉通りの記憶力……ではなく、前世の記憶をどのくらい引き継げるか、というものです。本来は全て忘れて新しい人生を送るのがセオリーですが、どうしても残しておきたい、という人のためにあります」
『認識力』『器用さ』についても同様に説明し、そして最後のひとつについても説明する。
「そして、最後に『特殊能力』ですが、これは世に言う〈超能力〉やちょっと特殊な技能を選択できます……と、能力についての主な説明はこのくらいですね」
一拍あけるノルンさん。
「では、『能力個数』と『能力値レベル』の説明に戻ります。
『能力個数』はこの十個の能力の中からルーレットで出た目の分だけ選択することが出来ます。その選択した能力は『能力レベル』で出た目のレベルになります。このレベルが高いほど選択した能力の資質が高くなります。
……基本的な説明はこんなところでしょうかね。何か質問はありますか?」
「多すぎるって」
説明量にしても、疑問点についても。
思わず僕は呻いてしまった。
このままイニチアシブをとられたままではいけないと本能的に感じ取り、少なからず疑問に思ったことを順序たてることもせず、素直にぶつけてみることにする。
「じゃあ、まずどのくらいの数値でどのくらいの能力を発揮するのかを教えてよ」
「そうですね……では『選択生物:人間』の『筋力』を例に挙げるとしましょうか。
その場合、1では肉体面でなにかしらの障害を伴うことになるでしょう。3で通常生活に支障はない程度、6でアスリート並み、10で世界屈指の戦士、といったところでしょうかね」
成程、と頷ける部分と意外な部分があった。
「10でもそのくらいなのか……」
いや、世界屈指の戦士とかたぶん凄いんだろうけど、どうにも漫画やアニメでフィクションのバトルモノに慣れ親しんでいる身としては、もっと〈竜を殺せるチカラ〉とか〈世界を破壊できるチカラ〉とかがあるものだと思ってた。
僕がそういうと、ノルンさんは首肯した。
「『神』や『龍』といった種族を選べばそういうことも可能だとは思いますが、あくまで『人間』ですからね。あまりにも人とかけ離れた能力は与えられません。『人間』であっても『成長率』や『器用さ』に最大まで振れば似たようなことは出来るかもしれませんが」
なるほど、そういうチカラが欲しいなら『生物レベル』に大きな数字を割り振らなきゃいけないのか。
思い付き、と評した割には意外とよく出来ている。
「他の能力値についても大体同様ですね。1だと弱く、3で普通、6で強く、10でワールドクラス。ただ、『記憶力』『特殊能力』はどちらもちょっと特殊なので最低でも7くらいないとあまり使い物にはなりません」
ノルンさんがいうには『記憶力』は“7”以下だと夢の光景として前世の自分を見たり、前世で行ったことをするとデジャブに陥ったりする程度なんだとか。前世の自分が何者であったのかを知覚するには7~10はないとダメなんだそうだ。元々が「どうしても記憶を残したい人」向けなので他とは違い高めに設定してあるのだそうだ。
『特殊能力』も同様にちゃんとした『超能力』のようなカタチで得られるのは7からなんだとか。それ以下だと6でも『絶対音感』とかが関の山らしい。
しかし、これでまたひとつ疑問が生まれた。
「でも、超能力ってどこまでオッケーなんだ? “人間の限界は超えられない”んだろう?」
筋力を例にして話したことだが、あまりにも人間らしくない力というのは使えないのではなかっただろうか?
「『特殊能力』は例外ですねー」
そういうと虚空から紙を取り出した時と同じように指を鳴らし、今度はもう少し厚みのある長方形のモノを取り出した。
それを見て僕は驚愕した。
「iPa○……だとっ!?」
なんで神様がそんな文明機器持ってるんだよ。いや、人生ゲームとか百貨店がどうとかさっきから神聖とか神性とかとは無縁の会話が続いていたけれど、よりによって○Padとか……。
もうこの世界観についていけない。
「ここの中から好きに探してください。あとは能力の効果や発動条件を見て、『能力値レベル』に沿うようならばオッケーです。」
そういって渡されたi○adが映し出していたページ。それは――
「ウィ○ペディア……だとっ!?」
神の頼るツールとしては貧弱すぎるっ!
辞書というのなら広辞苑とかシソーラスとか思い付く限りでももっとまともな出典のモノがあると思うんだけど。
「図鑑・書籍の形にしても良かったのですが、貴方のいた世界から良さそうなツールとしてはそれが妥当だと判断しました。まぁ、能力を一から作るのも面倒ですし、好き勝手作られても困りますからね。このサイトなら、古今東西あらゆる異能バトルや超常アクションの多種多様な能力が閲覧出来ますし、そういうのってそれなりに弱点や制限が設けられていますからね」
確かにどんなに強力な能力を持っていても何かしらの弱点や制限があることが多い。格上の相手を倒すのはバトル漫画の王道だしな。世の中万能じゃないっていう良い見本にもなる。
しかし、
「人生ゲームは自腹買いでゲームのルールまで独自なのに、能力設定は面倒くさがるのかよ……」
自分の興味のあるなしで随分と行動力が変わってくる辺り、どうもこの神様は“人間っぽさ”がある。
その辺りになんとなく違和感を感じるが、それを追求したところで意味はないだろう。
それよりも、疑問点について解消していこう。僕の来世に暗雲が垂れこめるか安穏の二文字が踊るかを占う大事なゲームなのだから。
「次は『魔力』について聞くけれど。これって僕が前にいた世界みたいに魔力や魔法のない世界での扱いはどうなるの?」
『魔力』というものがない世界でのそのステータスの意味。普通に考えれば無意味に終わりそうなものだけれど……。
当然の疑問ですね、とノルンさん。
「その場合は選択してもほとんど意味がありません。潜在的に肉体に魔力を宿していても『魔力』という概念がなければ上手く発現することはできません。
もしも、『能力個数』が最大の10だった場合は必然的に選択されますがその場合は他の9つの中から『能力値』の数だけ他の『能力値』を上げることができます」
「なるほどね……」
つまり、『能力値』が“5”で『能力個数』を“10”とした場合、半分の5つは能力値が“6”となるわけだ。
5×10=(6×5)+(5×4)=50
ということで計算上では確かに同じになる。
ということは、
「その余った分っていうのは1つの能力値を“2”あげたり、ということも可能だったりするのかな?」
能力値“5”が8つ、能力値“10”が1つ、のような組み合わせ。これでも計算すると50になる。合計値という意味では差はないはずだ。
「それは構いませんよ。まぁ、そもそも10が出るかどうかというのも問題ですし、どの『世界レベル』でも魔力のある世界もない世界も存在するので、どちらが良いという希望があるなら受付も可能です」
ノルンさんの言葉が確信を突く。
そう。どちらにしても自分の器量を上げたければルーレットで大きな数字を出さなければならない。
全部“1”では選びようがない。サイテーの人生が待ってるだけだろう。
「他にご質問は?」
まだまだ聞きたいことはたくさんあったけれど、こう説明を聞いているだけじゃわからないこともある。僕は首を横に振り、ノルンをまっすぐ見て、掌の汗をズボンで拭い去る。
「とりあえず回してみようか」
その上でわからないことがあれば聞けばいい。
そう決断し、僕はボードの前へと足を伸ばす。
「一回練習しときます?」
「このゲームに練習とか必要でしょ」
ルーレットを回すだけなのだから。
「それもそうですね」
そう結論づけて、僕は己の来世を賭けて、プラスチックで出来た円盤の中心を摘み、思いっきり回転させた。
長々とゲーム説明でした。まだしばらく転生中のお話が続きます。