2-8 infiltrate
金髪男はあっさりと白状した。我が身かわいさ、というヤツだ。しかし、その話が本当の話だと信用するには色々と足りないものがある。
なので、闇ギルドの在り処には当然金髪男を連れていくことになった。電気ショック以降、完全に観念したのか成すがままなのでやりやすいと云えばやりやすいが、ちょっと気持ち悪い気もする。
日も傾いてきたので少々肌寒くなってきた。あのまま道端に捨ててきた他の4人も気になるし、早めに済ませたいところだ。
広場に通じる5本の大通りの内のひとつ。通称「東通り」と呼ばれる通り沿いから少し離れたところにお目当ての建物があった。
「あそこだ……」
物陰から隠れるようにして男が顎で指した方向を盗み見る。
そこには『夜梟亭』と書かれた看板が掲げられていた。
名前からして恐らく酒場なのだろうが、その見た目からそう判断出来る者がいるとは思えない。廃墟とまでは云わないが看板がなければおそらくそこが酒場だとは誰にも解らないだろう。
中央広場から西側の門に抜ける西通りと東側の門に抜ける東通りは門の外がそれぞれ山岳地帯と森林地帯ということもあってか利用者が少ない。訪れる者のほとんどは南通りを抜けた先にある正面門から街の中へと入ってくる。その為、大通りの中でもこの二つの通りは店がまばらだ。さらにその通りから少し離れたところともなればふらっと立ち寄る人間というのもそういない。石畳だった道も修復されていないのかこの辺りは土がむき出しになっていた。というかほとんど土だ。
周囲にもぽつんぽつんと民家なのか廃墟なのかわからないような建物があるばかりで人通りからも遠い。酒場としての立地は最悪だが後ろ暗いところがある人間には最高の立地だ。
しかし、こうなると潜入は難しい。新規の客がそうそう来るような店ではないだろうし(そもそも営業しているのかも怪しい)、なにより今の自分は8歳だ。この世界では15歳から飲酒が認められているが、それでもまだ誤魔化せるほどではない。7歳は流石にサバ読み過ぎだ。
けれど、まだあの酒場が闇ギルドだという証拠はない。金髪男の証言だけだ。その証言も本当か嘘か怪しいところだ。僕の直感は今回に限っては何も云ってくれない。というか今日は調子がよろしくないのか一向に冴えわたる気配がない。
城の兵士に連絡するにしても確証がないのでどうにも呼びにくい。確証を得るためにはもっと近づいてみる必要があるがそうするとすぐにバレてしまいそうだ。見事な堂々巡りである。
さて、どうするか……。
「よし。やっぱり危ないし事情を話して誰かに来てもらおう」
「そいつは困る」
「っ!?」
僕の出した解答を否定する声がどこからか聞こえた。金髪男の声ではないし、もちろん僕の声でもない。
焦り、首を回して周囲を窺うも人の姿形は見えない。辺りは閑散としていて遮蔽物もないので、人がいればすぐにわかる筈だ。
そこで気が付いた。あの酒場を監視するのに適した場所がここしかないということを。他の建物は距離があるし、他に遮蔽物はない。
と、なれば。唯一の死角となるこの場所に人員を配置していてもなんら不思議ではない。どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。
――まずい。
闇ギルドが監視に派遣している人間ともなれば、この金髪男よりも腕がたつのは間違いない。まるっきり姿を見せないことからもそれは容易に想像できる。かなりの手練だ。
こんな状況じゃ不意を突くこともできやしない。むしろ不意を突かれないように警戒するので手一杯だ。
しかし、なにも悪いことばかりじゃない。監視がいたということはイコールあの酒場が闇ギルドである可能性が限りなくクロになったということで、これならば僕も自身を持って兵士を呼びにいける。
よし、逃げよう。
エミリダ辺りが聞いたら「何を弱腰なことを云っているんですか。全員蹴散らせばよいでしょう?」とか真顔で返されそうだが、こちとら一度は死んだ身だ。そう易々とデンジャラスゾーンに繰り出していく勇気はない。そんなものは蛮勇だ、蛮勇!
僕がしたいのはクールでスマートな闘い。敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……みたいな。つまり、格上の相手となんか闘いたくない。……あれ、いま凄くかっこ悪いこと言ってない?
とまぁ、そんなわけなのでこんな得体のしれない強そうなヤツと闘って倒すとか面倒なことはしたくない。
アジトの確認という当初のノルマはクリアできたことだし、ここは逃げの一手だ。
〈風〉の〈強化〉で素早さを極限まであげる。未だ姿を見せない敵に対する警戒を怠らず、一歩下がる。
するとぼこっ、という音と共に僕が足を下ろそうとした地面が割れた。
当然、体勢を崩す僕。
天地が逆転した世界で僕が見たのは地面の中から現れた切れ長の目をした痩躯の男だった。その右手が僕のこめかみ辺りを狙っていた。
――〈土〉の〈操作〉かっ!
男が姿を消すために使ったトリックを理解したところで、男の右手が着弾した僕はぐらりと頭を揺らされて意識を失った。




