2-7 street battle 03
細い路地裏に4人もの男が転がっているのを見て、「オレすげぇ!」という気分よりも「邪魔臭い」という冷めた考えが出てくることに僕自身ちょっとびっくりしている。
けれど、日頃の特訓に割いている時間と、僕自身のチートスキルを鑑みればこれが偶然でも幸運でもないことは明らかだ。努力は人を裏切らない、とはなんの歌だっけか。
「さて、残すところはあなただけですが」
「……くっ」
一対一という状況のおかげが心に余裕が生まれたおかげか口調も元に戻る。拉致しようとした男に敬語を使う、というのは引っかかるモノもあるが、やはりこの口調の方が自分でも落ち着いているという気がしてくる。王子であるということを相手に明確に知らしめるという意味もある。丁寧語の方が高貴な人間っぽいというのが僕の自論だ。
平静を取り戻した僕とは対照的に先ほどから苦虫をかみつぶしたような顔しかしていない金髪男は、さらに口元を歪ませている。まぁ、仲間が全員やられてもなんの危機感も抱かないような傭兵なら今まで生きてこれた筈がないし、リーダーなんて務まらないだろう。
「僕としては依頼人を教えて貰えれば、貴方達にこれ以上危害を加えるつもりはありませんし、誘拐の件を水に流しても良いですよ?」
「し、しらねぇよ。俺らはギルドから斡旋されただけだ」
「そういう嘘は感心しません。ギルドがそんな依頼を受けるわけない」
「ち、違う! 正規のギルドじゃなくて!」
「――あぁ、いわゆる闇ギルドってやつですか……依頼はこの街で?」
「ああ」
「ふむ」
闇ギルド。
そう呼ばれるのは国や連盟の許可を得ていないギルドを指す。中には国の認可が下りないだけで全うな仕事をこなしているギルドもあるがそんなのはほんの一握りだ。
闇ギルドに集まる依頼のそのほとんどは略奪・暗殺・誘拐・強盗など、国を問わずに違法となる犯罪行為だ。しかし、捕まれば実刑は免れない内容な分、報酬も良い。
元々、お世辞にも素行が良いとは言えない「傭兵」という職業でしかも最近は職不足。そういった闇ギルドに手を出す者も少なくないとは聞いていたが、まさかアルバートの城下町にまで出来ていたとは驚きだ。
「じゃあ、ギルドの場所まで案内お願いします」
僕の一言に男は目を剥いた。
「まさか、1人で乗りこんで行こうってのか?」
言葉の端々から「お前馬鹿?」というニュアンスが伝わってくる。
「俺らを倒したからっていい気になってんじゃねぇぞ!」
わーい、圧倒的三下臭がぷんぷんするー。
「云いたくねぇが俺らはこれがギルドでの初仕事だったんだ。つまりアンタの誘拐なんか俺らみたいな初心者にやらせるような仕事だってことさ」
「つまり、他の仕事をするやつはもっと強いって訳ですか……」
「その通りよ」
へへっ、と得意気に鼻を鳴らしているが、お前が自慢することじゃないだろ。こういうのを虎の威を狩る狐というのだろうか? いや、まぁこいつらは狐どころか鼠とかだけど。
しかし、本当に「虎」のような人間がそのギルドに所属しているのであれば警戒する必要はある。気闘術の扱いに慣れたといってもまだ2年目のペーペーだ。ここに転がっている傭兵だって不意をつけたから簡単に片付いただけで、もし最初から僕を殺す気で彼らが攻撃を仕掛けてきていたのならこう悠長に話が出来る状態ではなかったと思う。
それを考えるとやはり1人で行くのは得策ではないか。
まぁ、場所を確認するくらいだったらさしたる問題はないだろう。衛兵を向かわせるにも場所と敵の人数、出入り口の数くらいは把握しておかないとどれくらいの人数で向かえば良いのかもわからない。
「まぁ、忠告は有り難く受け取っておきます。 ――で、場所はどこですかね?」
僕の問いに今度はあざ笑うような素振りは見せず、目を伏せて何事か思案し、また僕へと向き直る。
「――だったら、取引だ。俺らのことは見逃すと約束しろ」
「雇い主がわかれば、とさっき云った筈ですけど」
「雇い主が見つからなかった場合もだ。なんせ、あそこの闇ギルドの連中を全員敵にするわけだからな。もしも、雇い主がわからなくて同じ牢に入れられたりしたら俺らは殺される」
「あー、はいはい。じゃあ、それでいい」
云い分はわからなくもないが、僕としてはどうでもよいので適当に許可を出す。が、そのおざなりな返事が気に入らなかったのか、少しむっとした様子で男が唾を飛ばした。
「そんな適当な口約束じゃ信用ならねぇんだよ! なんかちゃんとした契約書をもってこい!」
犯罪者のくせに自分のことを棚にあげて、上から目線でそういうこの男は自分の立場を覚えていないのだろうか? カチンときた僕はちょっと懲らしめることにした。
〈雷〉の〈強化〉
そう念じると手の中でバチッと何かがはじけるような音がした。
「な、なんだよ……ソレ」
金髪の声はどもっていて、明らかな動揺を感じた。
「ちょっと、痛いかもね」
僕が笑顔で金髪に近づきその肩を掴む。すると僕の手から電流が奔った。
「ギャッ!」
男はそう一言呟いて白目を剥いた。男のくせにという枕詞が付きそうなその金色の長髪はぶすぶすという音をたてて、見事なアフロヘアーへと様変わりしていた。
「うーん、まだまだ調整が効かないなー」
ちょっと痛めつけるだけ電気ショックを与えるつもりが、思いのほか強かったようだ。気絶してしまったアフロ男を見て、僕自身、気闘術の扱いはまだまだだと思い知る。
まだまだ未熟なので〈雷〉はまだ戦闘では使えないなー、などと今後の参考にすべく頭に留めておくことにした。
まぁ、しばらくして目を覚ました金髪男が打って変わったように協力的になったので結果オーライということにしておこう。




