2-6 street battle 02
〈風〉の〈強化〉
体の周囲を渦巻く風が覆う。僕の心情が反映されているかのようにいつもより激しい唸りをあげるソレを見て、傭兵達が身構える。
が、もう遅い。
〈風〉は〈強化〉の中でも素早さと身軽さに特化している。その速さを活かし、一番近くにいた巨体の男へと一歩で間合いを詰める。まだ体勢を整えきれていないその男の胸元へと右腕で掌底を繰りだす。男の胸元に触れた瞬間に風を右腕に集中させる。
暴、と大気が鳴いた。
掌底と共に繰り出された地面から突き上げるような風により高さも幅も僕の倍以上はある大の男が宙に舞った。その高さは2メートルと云ったところだろうか。普通なら有り得ない吹っ飛び方に受け身をとることも出来ず地面へと激突した男はあっけなく気絶した。
ほんの数秒の出来事に他の男達もまだ完全な迎撃態勢には入っていない。この間に出来るだけ数を減らしておきたい。今度は掌を坊主頭の男に向けて伸ばし、その状態で〈放出〉を使用する。エミリダのようにサッカーボール大の球を生成している時間はない。大きさよりも速さを重視するよう意識を集中させる。テニスボール並みの大きさを持つ風の球を2秒かけずに生成し、男に向かって疾らせた。一直線に飛んでいった無色の球が坊主頭の腹を抉り後方へと吹っ飛ばす。壁に全身を打ちつけダウン。
これで二人。残るはあと三人。
しかし、ここで奇襲はタイムアップだったようだ。
傭兵連中も体勢を立て直し、僕と距離をとって云った。
「クソッ……温室育ちの坊ちゃんだと思って油断したぜ」
倒れた二人を見て、恐らくリーダー格の金髪男が乱れた髪をかきあげながら苦々しげに呟く。しかし、その呟きが僕には気に入らなかった。
「温室育ち……だと?」
明らかに温度の下がった声だと自分でもわかる。傭兵たちも構えは解かずに僕を睨めつける。がその視線さえ気に食わない。
「あんたらがどんな危ない環境に身を置いてきたか知らんけどな! オレは城っつー隔離された場所で毎日毎日鬼みたいなのに扱かれてきたんだ! ガキだと思って舐めんなよ!」
基本的には良い教師だったエミリダだが、機嫌が悪い日にはそんな言葉で評されるほどきつい特訓が待っていた。
地獄のような特訓の数々。思い出すのも躊躇われる忌まわしき過去。スパルタを越えるスパルタ式。いっそのことエミリダ式と呼んで世界に広めてもいいと思う。
言葉も口調もいきなり荒くなった僕を困惑の表情で見つめる男達。なんで僕が不機嫌になったのかわからない、といった感じだ。そのまま、一生わからないままでいろよ、もう。
ご機嫌斜めだからと云って、頭に血が昇っているからといって回転はまだ悪くはなっていない。わけがわからないよ、と今にも言い出しそうな傭兵達に再び攻撃するチャンスだ。
僕は未だ左手に持っていたアーブルの食べ残しへと目をやり、ふと思い付き行動に移す。
〈炎〉の〈強化〉
〈炎〉の〈強化〉の特性は熱だ。体が火照り、熱を帯びることで運動能力が上昇し、最高のパフォーマンスを行える。〈風〉のような大幅なスピードアップもなければ、〈金〉のような鉄の防御力をもてるわけではないが、全てのステータスがそこそこ上昇する非常にバランスの良い能力だ。もっと上達すれば炎を纏う、ということも出来るらしいが、生憎僕にはそれほどの技量はない。まぁ〈複色〉持ちであることを未だに隠している身としてはその方が有り難い。熱ならば目にみえた変化はないのであまり長い事使用しなければバレないだろう。
体中で感じるその熱を手にしたアーブルに集める。すると手の中にあったアーブルは燻り出し、そして――勢い良く燃えだした。熱を加えて発火させたアーブルをバンダナ男に向かって軽くトス。
「……うぇ? へ? あ、あちちちっ!?」
自分に向かって放り投げられたソレを本能と習慣から思わず手で受け取ろうとし、その物体が火ダルマであることを認識し慌てて手を引っ込める。しかし男の胸元目掛けて放られたソレは手を引っ込めたところでバンダナ男の服へぽんっと軽くぶつかって服に種火を着けた。
素っ頓狂な声をあげバンダナ男が服に燃え移った火の消化作業に勤しんでいる隙に、それに気をとられている刺青男に的を絞る。
男に向かって走っていると流石にこちらに気づいたようで、咆哮とともに手にした斧を僕目掛けて振り下ろす。
おい、子供相手に何してんだっ!? と、抗議の声をあげたかったがそんなことをしていたのでは右脳と左脳でまっぷたつに仕分けされそうだったので邪魔だとばかりに思考は片隅に押しのけた。
おざなりなタイミングで、更に付け加えるなら片手持ちでの一撃。
全運動能力と共に動態視力も強化された今の僕ならばかわせない速度ではない。突っ込みながら強引に身体を捻じる。斧は僕の髪の毛一本すら切ることなく地面へと突き刺さる。刺青男は地面から斧を媒体として手に伝わってきた衝撃に一瞬、硬直する。
その隙を逃す手はない。スピードを落とすことなく間合いへと入ることに成功した僕はそのままの勢いで相手の顔面を殴りつける。
気闘術で強化され、更には助走で勢いのついた僕の拳は男の顎を正確に打ち抜いた。刺青男はそのまま白目をむいて倒れた。……脳を揺らして昏倒させるのが狙いだったが、勢い良すぎて顎の骨を砕いてしまった……。この点だけは反省しよう。
「てめぇ! よくも!」
バンダナ男が声を荒げた。僕は挑発するように言う。
「どうした? 仲間がやられたことで怒りに火がついたか? おっと、火がついたのはアンタ自身だったな」
ガラにもない台詞だとは十分に承知しているが、この口調の方が挑発の意味も大きいだろうし、折角思い付いたので云ってみた。上手いことを言いたい年頃なのだ。しかし、上手いこと云われた方は惜しみない称賛の拍手を送ってはくれない。
「くらえっ!」
拍手の代わりに無数の土の塊が飛んできた。おそらく〈土〉の〈放出〉だろう。焦ることなく後方へと下がることで回避した。足元に飛んできた泥団子みたいな物体は思いのほか簡単に崩れた。
もう一度撃つつもりなのだろう。バンダナが準備行動に入っていた。
――数は多いが、強度は脆くひとつひとつの大きさはピンポン玉程度。更に準備から発動までのタイムラグも大きい。
コイツはそれほどの使い手ではないと確信する。
しかし〈火〉と〈土〉では相性がよろしくない。
〈火〉から〈風〉へと属性の変更を試みる。この場合、通常の気闘術の発動より少し遅くなってしまうが一旦術を解いてから術を掛け直すよりは早い。
そう思い使用したのだが折り合い悪く、このタイミングで泥団子の第二波が飛んできた
「くっ!?」
意識を集中させていた中でのこの攻撃だ。焦りが出てしまい上手く対処できない。意識も頭の中だったので身体も上手く反応せず、思わず足を滑らせ転んでしまった。しかしそれが巧を奏したのか泥団子が当たることはなかった。
「ちっ! もういっちょ!」
優勢と見たバンダナが仕留めようと次の攻撃を練っている。だが、もう三度目。そうそう喰らってやる理由もない。
起き上がりバンダナ目掛けて一直線に走る。
「これで終わりだっ!」
まだ3メートル近く距離が離れている中でバンダナの土くれが〈放出〉された。今度は下から吹き上げるように土玉が飛んでくる。これではバックステップでもかわせないし、転んだところで餌食になるだけだ。勝利を確信しバンダナがにやりと笑う。しかし、その顔は次の瞬間驚愕へと変わることになる。
――〈風〉への変更は出来なかったが幸いまだ〈炎〉の〈強化〉は切れていない。〈風〉には劣るがこの脚力があればなんとかっ!
そう信じて、僕は身体の向きを変え、壁を蹴った。次の一歩で更に壁を蹴り、殺到する泥団子の頭上を越える。更にはその泥団子すら足場にして高く飛びあがり――
「へ?……ぶっへぇらげぼぉ!」
バンダナの顔面を蹴りつけ、綺麗に着地。奇声と共に回転しながら飛んでいったバンダナの首ががくっと落ちるのを見てから一言。
「秘技……ライダーキック」
ぶっちゃけ、ただの飛び蹴りだけどね。
バトル回でした。
アクション描写難しい……。
今後もバトルは入れていきたいと思っているので、参考のためにも良い点や至らない点などあったら教えて頂けると助かります。




