2-4 Go out 04
「お、イクス王子じゃないか」
「こんにちは」
声を掛けてきた果物売りのおばちゃんに笑顔で挨拶をする。しかし、初めて来た時のように人が群がることはもうなかった。
あの壮絶な外出から半年。その間、僕は休みの度に街に出るようになった。勿論、自主錬はしているし、毎回というわけではないけれどそれでもこの半年で両手両足の指でも数えきれないくらいは来ている。
「今日はワイナード様は一緒じゃないのかい?」
「うん、兄さんは用事があるからって」
最初の内はワイナードについて回ることしかできなかったが、最近ではこうして1人で来ることも少なくない。喋っていると口から漏れる息が白く濁る。季節はもうすぐ冬を越えようかというところ。日中はこうして日も照っているのであまり感じないが夜になると肌を刺すような寒さだと聞いたのを思い出した。
「まだまだ寒いけど、おばちゃんは大丈夫? 体壊したりしてない?」
「丈夫なのだけが取り柄さ、心配いらないよ。 けど、ありがとね。はい、これ」
「心配してくれたお礼に」と籠とは別に置いてあった小さめのをひとつ頂いた。
「いいの?」
「元々小さくてカタチも良くない売り物にならないヤツさ。まとめて買ってくれた人におまけでつけるようなものだし、遠慮せずに食べな」
「じゃあ、有り難く」
おばちゃんにお礼を言って、また歩き出す。歩きながら貰った果物を見る。確かに小さいしカタチもちょっと歪だ。
初めて来た時は王子であることを隠していたので普通に買った。二回目にこの街に来た時は何もしていないのに王子というだけで綺麗に赤々として見るからに美味しそうなモノを貰った。それが今ではちょっと話し掛けて体を気遣っても売り物にならない小さなモノが頂けるくらいになった。最初の頃と比べると雲泥の差だが、これこそ僕が望んだ結果だった。
あの初めての外出からしばらく経ってのことだ。「もうあんなことにはならないぞ。街の隅から隅まで回って休みを満喫するんだ!」そう意気込んで行った二度目の外出は城を出て広場についた瞬間にバレた。そして前回同様に囲まれてしまった。逃げるコマンドは使用できず、ただただ握手したり笑顔で手を振ったり貢ぎ物をもらう機械と化した僕は人波がひく夕方までの記憶がほとんどない。心が記憶するのを辞めたのだと僕は勝手に思ってる。
このままじゃいけない。
結局、何処もまわることが出来なかった僕はそう確信し、いくつかの手段を考えた。その中で最も良さそうだったのが「慣れさせる」ことだった。
ようは「王子」という街であまり見かけない珍しい生き物が城から出てきているから人は一目見ようと群がるのだから、「王子」が街にいることが当たり前になってしまえばいい。だからこそ僕は休みの度に街に来てはあえて正体を隠すようなこともせず、街中を見て回ることにしたし、ワイナードにもそうするように頼んだ。
初めの内はやはり人だかりが出来て思うように動き回ることも出来なかったが、何度も来ていると段々とかこまれる時間も短くなり、遂にはかこまれることもなくなった。
「おぅ、イクス王子」
「あら、王子様じゃないの。ちょっと寄っていかないかい?」
「また今度ね」
通りを歩いていると方々から声が掛けられる。但し、今ではこのように「見掛けたら声はかけるが、それだけ」という人が多い。そうなるとそれはそれでちょっと寂しい気分になったりもするのだが、誰かに言えば「どの口がそれを云う」と呆れられそうなので他言はしない。
けれど、それが功を奏した結果、こうして堂々と大出を振って街中を歩けるようになった訳だ。
副産物としてのメリットも沢山ある。
代表格がこの小ぶりな果実だろう。
この果実名前をアーブルというらしい。一年中売っているが旬は冬とは前におばちゃんから聞いた話だ。今日のように街の人々と気軽に会話が出来るようになったことでそういった知識も手に入れた。この果実の名前のように雑学のような知識も多いが、噂好きの主婦達から街で話題になっていることを聞けたり、外から来た商人に外国の話を聞けたりもするので全てが無駄な訳じゃない。それらの知識が回り回って僕を助けてくれることだってあるかもしれない。
貰った小ぶりなアーブルを口に運ぶ。旬が冬だけあって最初に食べた季節外れのモノより格段に甘かった。
勿論、メリットばかりでもない。
芯だけになったアーブルを持て余しつつ、大通りから横に抜けるような薄暗い路地へと入る。ワイナードに説明してもらった5つの大通りの間を何十という細い道が繋いでいる、ということ知ったのは二カ月ほど前のことだったか。その内の何本かの道を覚えたが、まだまだ知らない道はたくさんある。そういう未知の道を発見するのが街の人との交流と並んで街に来た時に必ずすることになっていた。
デメリットはそんな路地裏で起きた。




