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剣と魔法の人生ゲーム  作者: 真川塁
第2章 年少編 ~イクス・アルベートの優雅なる日常~
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2-3 Go out 03

 南の通りをワイナードと連れだって歩いていく。あのリンゴみたいな果実の汁をボタボタとワイナードの頭上に(わざと)こぼしていたら肩車はやめてくれた。今は手をつないで歩いている。これもちょっと恥ずかしいが肩車に比べれば心身ともにダメージが少ないので許容範囲内だ。欲を言うならシーゼリカかメリィさん辺りの女性とこうして歩きたかった。あ、エミリダ母さんはなしで。

そんなことを思っていたら、びゅぅう、といきなり突風が吹き抜けた。物凄い風に思わず目を瞑ってしまう。まるでエミリダの気闘術の、よう、だ……これ、エミリダの仕業じゃないよね? 偶然だよね?


「大丈夫か? イクス」


「う、うん」


 兄の声に返答するもどうにも嫌な汗が拭いきれずに生返事になってしまった。(恐らく)関係ない只の突風で僕の心をここまで震えさせるとはやはり母は偉大である。


「おや、あんたワイナード王子じゃないか」


 僕が実母の間違った偉大さを心の隅で称えていると、ふと壮年の男性がそう声を掛けてきた。

 どうしてばれたのだろうと兄を見上げるとどうやら先ほどの突風でフードが外れたらしく、整った顔立ちが露わになっていた。元々、長男でもあるワイナードは王子の中でも最も人前に立つことが多い。僕だって転生前に日本で暮らしていた時、とっかえひっかえの総理大臣の顔は覚えてなくとも皇太子の顔くらいは覚えている。知られていてもなんの不思議もなかった。そして、そんな有名人がいきなり街中で現れたとなればこの後起こる展開も予想できた。

 その男性の声を合図に道行く人々が一斉にこちらに首を回した。老若男女商人町人旅人問わず、である。エージェントスミス顔負けの綺麗に揃ったタイミング。ちょっとしたホラーだろ、これ。

 そして次々と飛んでくる歓声や驚きの声。「あらホント、王子様じゃないか!」「おいおい、ワイナード様ならついこの間来たばかりじゃないか、見間違えじゃないのか?」「この間見掛けたオレが言うんだ、間違いねぇよ」「おい、こっちに王子様がいるぞ!」「ワイナード様ァ~!!」方々から飛んでくる言葉の嵐。

 これだけ騒がれてはしらんぷりを決め込む訳にもいかない。さぁ、どうしたものかと考えているとワイナードは「おいおい、あまり騒がないでくれよ。こっちはお忍びなんだ」と、いつもの調子で答え、その言葉に軽い笑いが起きる。

流石だった。これが場数の違いだろうか。年季……でいえば僕の方が上だしやっぱり場数だろう。兄のこの軽薄な物言いが今はとても心強かった。

その後もワイナードは周囲の声に王子らしかららぬフレンドリーな口調で、時折笑いを交えながら言葉を返す。

一時は騒然となり、人の流れが滞っていた通り一帯も少しずつ動きを取り戻しつつあった。


「それで、そっちの子は誰だい?」


 そんな折りに僕らのほど近くにいた露天商のおばちゃんが僕を指差し聞いてきた。その言葉で僕へと視線が集中しだしたのがフード越しにもよくわかった。

 この流れならフードを取って正体を明かしても大丈夫だろうか? そんな風にも思ったりもしたがここは一日以上の長があるワイナードに全てを任せることにした。

 

「ん? こいつか? こいつは弟だ」


 間髪いれずに僕のフードを多少強引に外す。フードを被っていたせいかどことなく機嫌の悪い髪の毛を弄り、最低限の身なりを整える。

その仕草だけで衆目が湧いた。

さて自己紹介でもするかと考えていたがあまりの周囲から飛んでくるら悲鳴にも似た歓声や次々と掛けられる声にそんな暇もなく、しかしただ突っ立っているだけというのも落ち着かないので笑顔を浮かべたり、軽く手を振ったりするとその行為でまた盛り上がる。まるでアイドルにでもなった気分だ。

いや、王族であるとはそれに近しいモノがあるのだろう。実際に街に出て気付いたこと。これがエミリダの言う所の「見聞を広める」に当たるのだと思う。なるほど、確かにこれは城内から眺めているだけでは気付けなかったかもしれない。理解していたつもりでも本当の意味では理解していなかったというわけだ。

 しかし、それ以上に僕がわかっていなかったのはワイナードのことだろう。あちらこちらの露天からどうぞどうぞと食べ物やアクセサリーの類を手渡される僕を見て、オレにはないのかよ、とちょっと不満そうだ。

 そこで気がついた。ワイナードは特に考えてあのように軽い口調で喋っていたわけでもなく、ましては考えがあって僕のフードを取ったわけでもなかった。

 何も考えず、思ったままに行動しただけのようだった。




 次々と押し寄せる人波も日が暮れだすと日光と同じように影を潜めた。夕食時ということで主婦は勿論、帰りが遅くなりでもしようものなら夕食抜きになってしまうとぼやく亭主や子供達も足早に立ち去って行く。そんな人達を見送るのが現在の僕の仕事だった。結局、2時間ほど人だかりの中心にいた僕ら兄弟はこの時間になって、やっと解放された。 

両手には抱えきれないほどの沢山の貢ぎ物を携えているので重い。食料は(頂き物を食べないのも悪いので)一口食べては兄に押し付けるという荒技で最初の内は特に問題なく対処できたが僕の胃はまだ小さいし、僕の食べ残しをまるごと食べるワイナードの負担も大きく、途中からは「捨てる方が悪い」ということで近くにいた食べざかりの僕と同い年くらいの少年たちにあげたりもしていたのだが、まだ手をつけないまま冷めてしまったモノがいくつもあった。

 食べ物以外の貢ぎ物も多く、中には明らかに女性向けの商品や見た目からは使用方法のわからない物もあるが……まぁ、母さんたちへの良い土産が出来たと思えば良いだろう。 この淡いピンクのイヤリングなんかはエリィさんに似合うと思うし。僕みたいな子供がつけるより美しいメイドさんに使用してもらったほうがこのイヤリングも、これをくれた露天商の人も喜んでくれると信じてる。

 

「さて……本当はもうちょっと色々案内したかったんだがな。もういい時間だし帰るか」


「そうだね」


 ずっと笑顔で対応しなくてはいけなかったのでその気疲れでだいぶ体がだるい。人との接触が苦痛だったというわけではないが自分の思う通りに身動きが出来ないというには辟易としたのも確かだ。サービス業も大変だ、とずれた感想が頭をよぎった。

 ワイナードがこうして事あるごとに街に繰り出しているのはそういった公務の鬱憤を晴らしている、という意味合いもあるのかもしれない。

 兎にも角にも。両手一杯に手土産を抱え、先に家へと帰っていった人達と同じく、僕らもいえへと帰ることにした。





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