2-1 Go out 01
何かに打ち込むと月日がすぎるのは矢のように早い。僕の場合は勉強と気闘術、打ち込むものが2つなので2倍速いのかもしれない。そんな錯覚に陥るほど、この2年は早かった。まぁ、前世の記憶16年分が蓄積されている分、実際、他の幼児より年をとるスピードが早いのかもしれない。年を追うごとに一年を短く感じるようになるというし。
7歳になった僕は政治の勉強も気闘術の習得のどちらも一段落していた。といっても世界情勢なんてモノは刻一刻と変わっていくし気闘術にしたところで基本の〈強化〉と〈放出〉がいくつか使えるようになった程度で本格的な部分はまだまだだけれど。
いまのところ僕が適性を確認出来たのは〈風〉〈火〉〈雷〉の3種類だ。エミリダの練習のおかげで割と早い段階で〈風〉の〈強化〉と〈放出〉はマスター出来た。ただ、〈風〉以外の2つに関してはまだ十分な扱いが出来ていない。属性の切り替えというのが思った以上に難しく、こればっかりは〈複色〉持ちでないエミリダから教わることは出来なかった。かといって他の〈複色〉持ちにそうそう運よく出会うわけもなく、また出会ったところで僕はちゃんと扱えるようになるまで〈複色〉持ちであるということは隠しておかなければならないので聞くに聞けない。なんとも面倒くさい設定にしたなぁ、と後悔するばかりである。
ただ、属性の切り替えもあともう一歩という感じだ。体を流れる気に意識を集中しつつ頭の中でスイッチを変える感じとでもいうべきか。ただこれを実際に行動に移そうとするとそれがまたなかなか難しい。言うは易く行うは難し、というやつである。
今日も今日とてその感覚を掴もうと空き時間に自室で練習していると、
「うぃーっす、元気かイクス?」
ワイナード兄さんが部屋に入ってきた。
窓から。
「ちゃんと入口から入って下さい、兄さん」
「オレが入ってきたところこそが入口だ」
この2年でしっかりしてきた発音で僕の口から不満が漏れるも、ワイナードは全く気にした様子もなくけらけらと笑っている。何度注意してもやめないので最近では僕の言葉にも力がなくなってきた。そして〈火〉持ちのワイナードがどのようにして地上十数メートルで手すりのない窓から入ってこられるのかも謎だがいくら聞いても「偉大なる兄の力だ」としか言わないのでもう聞くのをやめた。
僕が気闘術の練習を始めたことがきっかけとなりワイナードとはよく話すようになった。元々仲が悪かったわけでもなく、グライムも僕に勉強させる為に距離を置かせていただけなので、僕が自分の意思で気闘術より勉強をするといったことで憂いはなくなったようで、別に会うのを止めはしなかった。
〈火〉の扱いに関してはワイナードから学んだところが多い。そのおかげかそう遠くないうちに〈火〉に関しても十二分な扱いが出来るようになると思う。
そんな兄も留学か帰ってきてからのこの2年間は特に重要な役職にも就かず、ふらふらとしている。ニートみたいな人だった。学園で何かあったのだろうか? などとたまに心配になるが両親は特に何も言わないので大丈夫なのだろう。ちゃんと王族としての公務には出席しているみたいだし。
「で、なんの用ですか?」
「なんだぁ、用がなきゃ弟に会いに来ちゃいけないってのか? っていうか敬語やめれ」
「……わかった。で、何の用?」
別に敬語というわけでもないのだが。普段の言葉遣いから兄にだけ使う俗っぽいものへと変更する。こちらの方がラクと云えばラクなのだが、普段使わないのでやはり違和感が残る。
「別に用というほどの用でもないんだけどよ」
そう前置きしてワイナードは言った。
「お前もたまには街にいかないか?」
やはり王子として生まれた以上、一度はやってみたかったのが「城を抜け出して、街を散策する」といった物語の中でよく見受けられる行為だった。
しかしエミリダの一言で僕のこの夢は塵となって消えた。
「街に? ええ、いいですよ?」
怒られることを覚悟して聞いた僕の耳に入ってきたのは許可の言葉。民との交流の多いアルベート王国では街に出ることに対して別段抵抗意識がなかったのだ(勿論「お忍び」ではあるが)。つまり「抜け出す」ことなく街へいけてしまうのである。せめてグライムくらい難色を示してくれたら良かったのだけど、母のそのあっけらかんとした物言いに落胆したのを今でもはっきりと覚えている。
そうなると今度は「いつでもいけるし今日はいいや」という感覚が襲ってくる。特に毎日勉強や鍛錬に忙しいとたまにある休日も自主錬と休息で終わってしまう。
そんな理由からいままで街に繰り出すことはなかった。
「この後も気闘術の練習があるんだけど」
「もう母さんには言ってある。そしたら『休みの日に自主錬するのもいいですが、たまには街へ出て見識を広げてきなさい』だと」
「………………」
自主錬してるのバレてたか。秘密にしてたはずなんだけど……あの人相手に隠しきれるはずもないか。
ワイナードが窓に腰掛ける。
「母さんからの許可は出た。 で、どうする?」
そこまでお膳立てが済んでいるのなら、誘いを断る理由は何もなかった。
「行くよ、僕も」




