1-5 vigor effect 03
「残る最後の〈特質〉ですが、これは気闘術の中でも異質です」
グライムは表情を立てなおし、口早にそういった。隣でまだエミリダはくすくすと笑っている。ツボに入ったのだろうか。
「他の5系統に分類できない特殊な能力を総称して〈特質〉と呼びます。なので、ここにはそれ以外の挙げるべき特徴は唯一この系統だけは属性が存在しないということです。
魔法的要素――呪文や魔方陣を用いない〈透視〉や〈未来予知〉などが分類上はここになります。これは後天的に習得することは不可能とされていて、先天的に才能があったものにしか使えません」
「本当に気闘術に分類して良いのか、と疑問視する声もありますね。事実、極東の国では別のチカラとして考えられているところもあるとか」
ファンタジー世界で極東と言われるとやはり日本やそれに近い国を想像するのだけど、この世界でもやはりその辺りは順守されているのだろうか。聞いてみたい気もするが、いまそんなことを気にするのも変かな? などとあれこれ考えてしまい、結局聞けなかった。まぁ、そのうち地理についても勉強することになると思うし、その時でいいか。
「次に属性についての説明ですね」
どうやらようやく系統についての説明は終わったようだ。なんだが、物凄い時間がかかった気がする。これが小説だったらそろそろ読むのをやめるかもしれない。
「属性は系統と違い、全て生まれつきで決まります。年を経て扱える属性が増えたなどという話は今まで聞いたことがありません」
しかも、まだ説明が続くというのだから恐れ入る。
週刊誌では絶対に出来ない暴挙だ。
「先ほども話した通り、気闘術には9つの属性があります。〈火〉〈水〉〈風〉〈土〉〈木〉〈金〉〈雷〉〈光〉〈闇〉 これらには発現しやすい属性や各系統と相性の良い属性などが存在します」
おおぅ、これは耳よりな情報だ。よく聞いて覚えておこう。
「まず、最も発現しやすい属性ですが、これはいわゆる四大元素――〈火〉〈水〉〈風〉〈土〉の4属性ですね。次に多いのが〈木〉と〈金〉――〈金〉は金属のことですね。これは四大属性に少し劣る程度でしょうか。
次の〈光〉が大体1000人に1人といったところで大分間を開けてその次に〈雷〉、そして最後に〈闇〉という風になります」
ふむふむ。
「では、そのちょっと珍しい能力を見せてもらいましょうか」
エミリダの言葉に僕は期待する。え? なになに? 雷でも見せて貰えるのかな? 期待を込めた目でエミリダを見つめていると彼女と目が合った。エミリダはふっ、と僕に笑いかけ、別方向を向いた。
「グライム」
「はい」
その言葉が来るのを予期していたのか、戸惑う様子を全く見せないグライムが先ほどエミリダが〈変化〉で放ったかまいたちに蹂躙された木に近寄り、その傷口に手を添えた。
すると、グライムの手が発光し、次のその光が収まった時には木の幹は元通りとまではいかないが傷跡はうっすらとしていた。
今のは見た事がある。
「はーヴぇすせんせいとおなじやつです」
「私が使える唯一の気闘術〈光〉の〈強化〉です。光属性は治癒の能力を有しています。なので〈光〉の属性持ちは神官やハーヴェス医師のように医療に携わる者が多いです。私のはハーヴェス医師ほど強力ではありませんが、それでも切り傷程度ならばご覧の通りです」
「ぐらいむ、すごいです」
僕が素直に感想を告げるとグライムは満更でもない笑顔を向けた。
「いえいえ、私など。城内にも私以上の〈光〉の使い手は多くいますよ。それよりも国王陛下やシーゼリカ様の持つ〈雷〉の方が圧巻です」
「とおさまとねえさまは〈かみなり〉もちなのですか?」
「ええ。元々アルベート王家の初代国王ゼノン・アルバート様が〈雷〉持ちだったのです。属性には遺伝や血統も関わってきますので、建国以来この国の王家には常に〈雷〉持ちがいらっしゃいました。我が国の国旗に書かれた稲妻のマークはそれが由来です」
それはつまり、僕にも〈雷〉持ちの可能性があるってことか? やったね!ライデ○ン打てるじゃん! ザ○ルでも可。
しかしつくづくチートだな、王家って。財力あって、顔良くて、珍しい能力を持ってるとか人生勝ち組だな!
「出来れば雷属性も見せてあげたいのですが、生憎ゼーリットは多忙ですし、シーゼは現在留学中なので……ワンゼには頼みたくありませんし」
エミリダの表情に影が出来る。ちなみにシーゼは姉さまの愛称だ。兄さまはワイナー。略す必要があるのかは微妙だ。
「わんぜってだれですか?」
此処に来て初めて出てきた名前だ。どっかで聞いたことがあるような気もしないではないけど。
「ゼーリットの弟で、あなたの叔父です。何度か会っているはずですが、別に覚えなくてもいいですよ。私、あの人嫌いですし」
「え、エミリダ様っ!?」
グライムが焦ったような声を出し、辺りをきょろきょろと見まわし人影がないことを忙しなく確認していた。
……あぁ、あの人か。顔はうろ覚えだが「叔父」という人には誕生日とかに何回か会った気がする。とりあえず、エミリダの表情と物言いからあまり良い感情をもってないのはわかった。挨拶程度しか交わしたことはないから人柄については未知数だが、言動から見るにそんなに悪い人じゃなかった気がするけど……僕が子供だからそう感じるだけかもしれない。
「と、とにかく属性についての説明は以上です。これにて気闘術の基礎説明は終わりましたが何か質問はございますか? イクス様」
話の風向きが怪しくなったら即終了。素早い話題転換は流石文官といったところか。もう少し込み入った事情も聞きたくなったが、これも自重。気闘術の話題に戻ったのなら、僕もしばらく前から聞きたかったことを質問することにした。
「ぼくのぞくせいとかはわかるのですか?」
「あぁ、そうでしたな。それにはコレを使います」
そういってグライムが袖下から取り出したのは占いなどで使われる水晶玉のようなものだった。違う点は通常の水晶玉より一回りほど小さいのと、大部分は透明なのだが中心部分は白く変色していることだ。
「コレは交感水晶といいまして、触れた者の持つ属性に合わせて色が変わります。今は私が手にしているので〈光〉を表わす白がうっすらと出ています。気の量によって変色の具合も変わってきます。エミリダ様、よろしいですか?」
「はい」
差し出された交換水晶をエミリダが手にした瞬間、中央の白色はどんどんと透明になって最後には無色透明な水晶玉へと変化した。そして今度は球全体が黄緑色へと変わっていった。
「黄緑は〈風〉属性持ちであることを示します。そして気の量が多いので、私の時のようにうっすらとした変色ではなく、水晶全体が属性の色で染められました」
つまり、これに触るだけで気の量と属性がわかるのか。
「じゃあ、さわってみてもいいですか?」
「どうぞ」
いわれ、僕はエミリダから水晶を受け取る。黄緑色に変化していた水晶がまたしてもス透き通った無色へと戻る。
さぁ、ここからだ。何色になるのだろうか? エミリダと同じく黄緑か、グライムのように白色か。もし雷持ちなら何色になるのだろう?
そんなことを考えながら、わくわくしながら両手で大事に抱えた水晶を凝視する。
じょじょに色がかわっていき、そして球は完全に「ある一色」で覆われた。
残念、どうやら色から察するに〈光〉や〈風〉ではないようだ。
「これは、なんのぞくせいになるんですか?」
「………………」
「………………」
聞いて、頭をあげると大人二人は呆けたような表情をしていた。
グライムの驚き顔はよく見ているけれど、エミリダのこんな表情は初めて見た。あんぐりと口を開けて、とても国民には見せられない顔だった。
よくわからないが、二人にそんな表情をさせた原因を僕はもう一度見下ろした。
透き通るような透明だった球が今は底も見えないような漆黒に覆われていた。




