1-4 vigor effect 02
いつのまにやら1万PV。
感謝感謝です。
母親のあまり見ない姿に僕が驚いていたのもつかの間、グライムは次の説明へと移っていた。
「次は〈放出〉ですね。エミリダ様、お願いします」
「はい」
小さく首をひきエミリダは右手をまっすぐと伸ばし、掌を拡げる。するとまた風が集まってくる。
けど、さきほどとは風の動きが違う。
さっきは右腕に纏わりつくように流れているだけだった風が今回はエミリダの掌に球体となって収束している。
エミリダは誰もいないであろう鬱蒼とした林の茂みのほうへと狙いを定めた。
「ウィンドボール」
そういうと風の球が矢の如く木々の間を疾っていった。その余波が凄く思わず目を瞑る。
風が収まってから目を開け、風の球の飛んでいった方向を見ると生い茂る木々の間に丸いなにかでくりぬかれたようなあとがあった。疑うまでもなく風の球が刻んだ跡だ。
……凄い、100m以上先までくっきり見える穴が綺麗に開いている。
「通常は自分の体から離れた時点で消えてしまう“気”を、体から離した状態で維持する技術です。“気”を属性物質化して飛ばすのが最もポピュラーな使い方ですね。
〈強化〉ほどの汎用性はないですが、〈強化〉と同じく5系統の中では習得が簡単な方ですし、見た目にも派手でわかりやすいのでとして最初に習うのがコレ、ということは多いですね。
まぁ、勿論ここまでの芸当が出来るのはエミリダ様の実力ありきですが」
「これも、すごいです」
コメントが月並みになってしまうのもしょうがない。
魔法や超能力(っぽいもの)があるとは知っていたがやはり実際に目にするのは迫力が違う。
前世の記憶があるため、前世の常識に少なからず捉われているせいもあるかもしれない。あの時は漫画やアニメの中だけだった出来事をこうして実際目の当たりにしたことで、僕の中で過去の常識がガラガラと音を立てて崩れていったような気がした。
僕のコメントに気をよくしたのかエミリダもノリノリだ。
「では、このまま次にいきましょうか……ハッ!」
力強い一言と共に見えない何かを断ちきるように腕を斜めに振り下ろす。
するとその先にあった木に斜めに亀裂が入る。
「これは〈変化〉。自分の持つ属性から別の属性や応用属性を生み出すチカラです。今のは〈風〉から〈真空〉をつくり、かまいたちとして飛ばしました。他には土から砂、水から氷などがポピュラーですね」
似た性質の物質を別の物質に変化させる。ふとフルメタルな錬金術を思い出した。あれの構造に似ている気がする。確かにそうなると難しいと云われても納得だ。あの世界じゃ国家資格とかあるし。
エミリダの説明にグライムが補足する。
「ポピュラーと云っても実際に〈変化〉を使えるものはそう多くはないですな。変化後の物質や現象などを強くイメージする必要がありますし、そのため強い精神力や想像力が必要不可欠なので」
「だから、おかあさまでもあれくらいですんだのですね」
木に刻みつけられた傷跡を見ながら納得する。他の現象に比べると派手さがない。〈強化〉や〈放出〉に比べて熟練度が足りないのだろう。
そう思っての発言だったが、
「あれは手加減したのよ。木だって生きているのですから無闇に手折ってしまうのは良くないですし」
「……エミリダ様の本来の実力なら一振りで数十本の木を伐採することも可能です」
「………………」
マジかよ。とんだエクスカリバーだな。腕の一振りで木々をなぎ倒すとか……なに? お母様ってばラスボスか何かなの? この世界の魔王ってお母様なの?
っていうか、さっきまでバンバン風使って攻撃してたけどそれはいいのかよ……。
あ、でもあれは葉っぱだからいいのか。……いいのか?
「さぁさぁ、次にいきますよ!」
唖然とする男二人を尻目にどんどん勢いを増していくエミリダ。僕らにはもうそれを止める手立てはない。
「〈操作〉」
そういうとまたしてもエミリダのまわりに風が集まる。手近に落ちていた小石を拾いあげ、それを宙へと放り投げる。空へと放たれた小石はぐんぐんと上がっていき、そして重力に引っ張られ落下を始めた。
その瞬間、エミリダがタクトでも振るかのように腕をしならせるとそれにあわせて風が流れだした。
そして、その小石を再び宙へと打ちあげる。
まるでテニスラケットでボールをポンポンと打ちあげるように、風を自在に操り小石を空へと返す。
その内、上下だけでなく、左右の動きも加えられるようになり遠目に見ればエミリダが腕の動きで小石を操っているようにも見えるだろう。
「〈操作〉は自分自身の“気”を属性物質や眷族生物に流し込みその動きを操る能力です。エミリダ様が行ったのは前者ですね。自分の“気”を送り大気中の風の流れを操作しました。
〈操作〉は〈特質〉を除いた5系統の中で唯一属性物質を生み出せません。エミリダ様のように属性が〈風〉など周囲から手に入るものならば良いのですが〈火〉や〈金〉などの場合はそうもいかないので他の系統とセットで覚えるのが基本です」
操れるだけで生み出すことは出来ないってことか。しかし、それより気になるワードがあった。
「けんぞくせいぶつってなんですか?」
「〈風〉ならば鳥類、〈水〉ならば魚類、といったようにその属性の精霊の加護も持つ動植物のことです。種類によっては2つ以上の属性を合わせ持つものもいますね。テイムという名前の由来は主にこちらですね」
動物を操る人のことをテイマーって呼ぶもんな。なるほどなるほど。僕は脳内メモ帳にチェックを入れる。だからなんだという話だけれど。
「では、次いきますよ」
それ以上の説明を断ちきるかのようにエミリダが先を促す。その額にはうっすらと汗がにじんでいた。さすがに疲れているようなので、もしかしたら早々に終わらせたいのかもしれない。まぁ、母さんももう年だし――
「イクス」
ギロリ、という擬音かもしくはコロスゾ、という擬音が適用されるであろう眼差しで射ぬかれた。 視線ってコロスゾなんて不穏な擬音出すんだ……。
っていうかノルンさんといい、女性ってみんなエスパーなの? なんで人の考えてることがわかるの?
僕はもう口を開かぬどころか余計なことを考えないようにして、この先の展開を待つことにした。
「〈具現化〉」
言葉と共にエミリダの前方1mほどのところに風が収束している。先ほどまでとは風の質も量も違うように感じられるほど風のうねりが大きい。風が渦巻き、プチサイズの竜巻が一点に集中している。
そして、どんどんと体積を増していき、じょじょに形づくられて行った。
風がやんだ時には鳥のような獣のような姿をした生き物が存在していた。
この世界にきてからもメリィさんに読み聞かせてもらった絵本などにも何度か登場していたソレの名は、
「……ぐりふぉん、ですか?」
「あら、よく知っているわね」
感心感心、と頷くエミリダ。
これ以上説明する気配を見せないエミリダの代わりにまたしてもグライムが補足説明を敢行する。
「勿論、本物のグリフォンではありませんよ。
〈具現化〉は気を属性に変換、更にイメージを付与し物質化することでこのように生物を象った半自立の使い魔のようなものを生成できます。
土に人型のイメージでゴーレム、火に鳥のイメージでフェニックスなどといった具合に、動物のイメージを象るのが一般的です。また半自立なので簡単な命令をすれば後は自動で行動してくれます。 “気”を物質化するほどに凝縮するには相当な“気”と強いイメージが必要なので5系統の中で最も習得が難しいとされていますが一度物質化した“気”は術師が解除するか物質に込め垂れた“気”が枯渇するまではその形状を留めておくのでとても強力です」
本物のグリフォンではない、といわれ肩すかしをくらった感じはあるが、よくよく見て見れば、確かにうっすらと透けているように色素が薄いし大きさも大型犬より少し小さいくらいでなんとも中途半端な感じはいなめない。
しかし、鳴き声をあげ前足を動かす仕草を見れば確かにそこに存在していることもわかるし、首を傾げるような仕草には愛らしさすら感じる。本物でないにしても大した存在感だった。
「イクス、なにか命令してみたらどうですか?」
「ぼくのめいれいでもきくのですか?」
「基本的には術者のみですが、現在は血統で縛ってあるので大丈夫ですよ」
「じゃあ、おて」
そういって右手を出すと、グリフォンもどきは前足を僕の手に乗せた。
……超可愛い。
そんな風獣の挙動に、若干残っていた得体の知れない動物に対する恐怖心は消えてなくなった。
「せなかにのせて!」
背についた体躯よりも大きそうな翼を目にとめ、自らの欲望のままに思わずそう言った。
嫌がる様子もなく、グリフォンは地に伏せ「早く乗れ」とでもいうようにこちらを見ていた。
大急ぎで背中へとまたがる。期待に胸を膨らませ「無限の彼方へさぁいくぞ!」と心の中で拳を突き出し空へと向けるが、
ぽんっ、という軽い破裂音がしたのと僕が尻を地面に強打するのはほぼ同時だった。
「いたっ!」
「あら、ごめんなさい。 見せるだけだと思ってあまり魔力を込めなかったのがいけなかったわね。 空を飛ぶだけの能力は持たせてなかったから命令との矛盾で消失してしまったわね」
僕に手を貸しつつ、エミリダがそう謝ってきた。翼があっても飛べないのか……。
飛べないグリフォンはただのグリフォンだ!
……有名なセリフにインスパイアされて(けしてパクリではない)言ってみたけど、言ってからグリフォンってだけで凄いことに気がついた。
何より、可愛かった。ああいうペットが欲しい。
「ぼくも、できるようになりたいです」
「〈具現化〉は技術以上に込める魔力量が大切になってきますからな。当然、大きくて素早く移動したり空を飛ぶようなものだと必要な“気”の総量も大きくなってきます。習得しても気力の少ないものは小動物程度しか召喚できませんので、習得するならよく見極める必要がありますなぁ」
ちょっと渋い顔でグライムが言う。たぶん、グライム的にはあまり気闘術に感心を向けたくないのだろう。気闘術に割く時間が大きくなれば、それだけ座学に使用できる時間は限られてくる。
まかり間違って僕がワイナードのようにのめり込んでしまったらそれこそ目も当てられない、とか考えているのだろう。
「ぐらいむ、だいじょぶです。べんきょうも、がんばります」
考えを読まれてバツが悪そうな表情になったグライムの横でエミリダがくすくすと笑っているのが印象的だった。




