Mob story 02 兄と姉と弟と
第三子が生まれた。
その吉報は瞬く間に城下へと広がり、街はすでにお祝いムードだ。
そろそろ耳の早い者によって「生まれたのが男児である」ということも喧伝されることだろう。
その男児――第二王子のイクスという名が知れ渡るのも時間の問題だ。
そんな街の様子を城内から伺いながら執務官グライム・エルウィンは考える。
第三子イクス様の誕生は我ら臣下にとっても嬉しい出来事だ。
第一子ワイヤード様も第二子シーゼリカ様もどちらもまだ幼いが聡明な方達だ。もう既に彼らは目指すべき道すら決まりつつある。しかし、その目指すべき方向が問題といえば問題だった。
ワイナード様は第一王子で現在10歳。ゼーリット様の幼い頃を彷彿とさせる良く似た容姿と良く似た性格を持っている。活発な少年でなにより気闘術の才能に恵まれている。
わずか十歳にして強化と放出の二系統を完全にマスターしている。
属性がアルベート王家の代名詞たる 雷 ではなく生まれ月の 火 であったことは惜しむべきことかもしれないが……。
しかし、そのように気闘術の才能に恵まれたせいか興味や関心の大部分が武芸の方向に傾いてしまっている。
ワイナード様の妹でイクス様の姉となる第一王女シーゼリカ様。
こちらはワイナード様とは反対にエミリダ様に良く似た容姿をしている。未だ7歳ではあるが既に将来の美貌は約束されているといってもいいだろう。
容姿だけでなく興味の方向も兄とは真逆で彼女は魔法に傾倒している。
せっかく気闘術にて 雷 の性質をお持ちだったのだからそちらを伸ばすべきだと何度も申し上げたが彼女は魔道書の類から目を放そうとはしなかった。
しかも彼女は彼女で魔法に関して才能があったようで初級魔道書に載っているモノはあらかた出来るようになったのだという。
こうなると彼女が魔法使いとしての道を歩むことを止めるのは難しいだろう。
「戦士」と「魔法使い」
成程、これが冒険者のパーティーならばなかなか良い組み合わせなのだろう。が、生憎彼らは「王族」なのだ。
「王族」の「戦士」として戦の先陣を切るのは良い。味方の士気も上がる。
「王族」の「魔法使い」として新たな魔法を開発するのも良い。国の利益につながる。
しかし、肝心の政治を司る者――「王」がいない。
どちらも王族として国政に関することも教えられているので全く出来ないということはないだろう。
しかし「王」として国の政を行うにはそれぞれがそれぞれの分野に傾倒しすぎている。
詳しい者を登用し宰相とする手もあるが、それでは王政の崩壊を招きかねない。政治的に上手くいっていないのならまだしも、王族が無能だから(とは流石に言い過ぎだが)政策の方向転換というのは非常によろしくない。
そんな折りのイクス様誕生である。
まだ生まれたばかりでなんともいえないが彼を「王」に据えようという動きは既にある。
兄姉達からの反発はおそらくないだろう。聡明な彼ら彼女らならば王座を争うこともないだろう。なにより彼らには王座以上に興味のある対象が他にある。
問題はイクス様が上の二人と同じように別の事柄に興味を惹かれないかということだ。
あの国王と王妃の子であの|ワイナード様とシーゼリカ様の弟君である。いくらこちらが強引に王にしようと迫ったところで自らの意思で拒否することもあるだろう。
そうならないように策を講じる必要があるだろう。
若者の自由意思を奪うことに抵抗を覚えながらも王族としての責務をはたしてもらうため、国のためには仕方がないと割り切る。
王にこのことを打診すべく更に明確なビジョンを脳内で形成しながら、グライムは執務室へと戻るのだった。
役職名は変更するかもしれません。




