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紫陽花がしがみつく頃に  作者: 人鳥迂回


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 昨日までの雨が嘘のように梅雨空が何処かえと過ぎ去り、太陽が通学路の紫陽花を照らしている。梅雨明け宣言はまだ行われていないため、雨雲が舞い戻ってくる可能性はあるが久しぶりの晴れの日は気温の上昇と共に訪れた。梅雨明けは焦がれども、夏の暑さは望んでいないというのに太陽は酷く天邪鬼だと辟易する。


 先輩から謎解きの指令を受けてから2日。昨日の放課後は空き教室が使われていたため、学校に居残ることはなくまっすぐ家に帰った。先輩は野次馬根性なのか空き教室で2人の行く末を見守っていたらしい。

 僕は2人がどうなるかよりも先輩から出された謎解きの方に注視してしまっている。言われる前は2人が仲直りできるかが気になっていたのだが、先輩に出された謎は提示されてみれば確かに気になる事だった。その事が脳内を占めてしまった時、タイムリミットもあってか2人の行く末などどうでもよくなってしまったのだ。

 

 約2日掛けて整理しながら色々考えてみると真実がどうであれ大半の謎を解くことが出来た。そこには自分の想像も入っているが大目に見てほしい。推理の答え合わせは放課後に行うこととなっているのでそこまでは最終確認とする。

 2人の件が解決したのなら教室での過ごし方に変化が現れるだろう。

 昨日の夜に須藤からメッセージが飛んできたが、一言『ありがとうございました』と書かれているだけで内容を汲み取ることは出来なかった。話せるだけ話したから感謝しているのか、解決したからなのか一切わからなかったが内容を聞くのも気持ちが悪いと思い適当な返信だけをしてやりとりは終わった。僕の推理が正しいとすれば2人の関係は今までどおりとはいかず、何かしらの変化が起こっているはずだ。


 その中で唯一分からないことがある。いくら考えても関連性が分からず、放置したまま今日を迎えた。

 大森が一体何処で関わってくるのかが一切わからない。あくまで須藤から噂を聞いただけの大森がこの件に関わるとしたら僕に教えて来たことだけだ。最初の日以降は噂の話を一切していない。


 教室に向かうと既に大森が席に着いていた。相変わらずスマートな見た目で女子にモテそうな雰囲気を出している。


「おはよう、大森」


「おはよう」


「今日は晴れてるのに部活ないの?」


「地面が泥濘んでいるからな。やろうにも出来ないんだよ」


「そうなんだ」


 振り返って会話をしてくれる大森に見られながら、鞄を脇に掛けて席に座る。須藤の席を見てもそこに姿は見えなかった。


「そういえばさ」


「なに?」


 一通り朝の挨拶が終わったため話に区切りがついたと思ったのも束の間で大森が話しかけてくる。柊の席を見ながら顎で「見てみろ」とジェスチャーをしてきたので視線の先を確認する。


「わお」


「な?」


 須藤の席に本人がいなかったのはまだ来ていなかったからではなく、柊の席で和やかに談笑していたからだった。昨日の話し合いが無事に終わったことに証明のように教室で仲睦まじい姿を見せていた。

 

「朝来たら昨日までとは打って変わってあの調子で話してたんだよ。なんつーか、雰囲気が良くなかったからな。仲直りしたんならよかったわ」


「最初にも思ったけど意外と良く見てるよね、クラスのこと」


「クラスっていうか、浮いてるやつがいたら気になるだろ」


 大森は僕の方を見てくる。暗に僕が浮いているやつと言っているのだろう。僕がクラスで浮いているから大森が態々話しかけてくれている、なんて今更思うことはないが須藤の姿を見てひとりでいた時の僕も目立っていたことを鏡のように実感していた。


「それに」


「それに?」


「あー、まあ夜月ならいいか。誰にも言うなよ」


「言わないよ。人には絶対言わない。言うような人もいないしね」


「ある意味1番信頼できるな」


 話すような人がいないことで信頼を得てしまうのは若干不服ではあるが事実なので否定しようがない。人ではない先輩に言うことは問題ないと言質は取ったため話の続きを促す。


「それで?一体何を言おうとしたのさ」

 

「結構前だが柊にな、告白されたんだよ。俺」


「は?」


「付き合ってるとかではないし、その時はまだ入学してすぐだったから相手のことも良く知らなかったから断った。告白してきてくれた相手が気になるのは当たり前だろ?だからあの2人が仲悪くなったのが気になってたんだよ」


 大森と柊の関係先が鮮明に浮かび上がってきた。大森がどう関わっているのか全く分からなかったのだが最後のピースを大森自身から伝えられたことにより先輩から出された宿題をやり遂げることが出来た。

 大森が関わっていると言うよりも大森が消しゴムの噂の発端とも言えるのでこの謎は大森を中心に始まっていた。この事をもっと早く知っていれば必要以上に悩むことはなかったのだ。


 大きなため息を吐きながら机に頬を付けて外を見る。天の岩戸が開かれたように雲が太陽のために道を開けているため非常にまぶしかった。左を見れば太陽のまぶしさにやられ、右を見れば須藤たちの姿が目に入る。残された選択肢は目の前にいる大森を見ることしか出来なかった。


「なんだよ。急に溜息吐いて」


「もっと早く知りたかったなあ」


「は?なんでだよ」


「いや、こっちの話。とにかくあの2人が仲直りできてよかったよ」


「そりゃそうだ」


 大森が須藤たちの方へと目線を向けた流れで僕も2人を見る。昨日まで仲違いしていたことが嘘だったかのように笑顔で話している。以前のことは何も知らないが互いのあいだに合った突っかかりが取れたことで前以上に仲良くなったのかもしれない。

 その時、須藤と柊の視線がこちらを向いた。須藤とは目が合ったが柊は僕ではないもうひとりを見ていたようで視線が交差することはなかった。小さく手を挙げる大森に対して、目が合ってしまったことに照れて視線を逸らす僕。対照的な反応に2人が笑っている気がするがもう少し恩人に対して敬意を払ってもいいだろう。

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