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紫陽花がしがみつく頃に  作者: 人鳥迂回


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 放課後になり空き教室で須藤を待つ。いつ来てもいいように先輩と会話をする時はスマホを耳に当ている。通話をするふりをしていれば須藤がこの姿を見てしまっても大丈夫だろう。

 空き教室を待ち合わせ場所に設定したが時間などは決めていなかったので帰りのホームルームが終わり次第空き教室に直行した。呼び出した相手を待たせるわけには行かないため先に到着している必要があったからだ。


「全然来ませんね」


「忘れてるのかな?」


「教室で何度か目が合ったのを先輩も観ていたでしょ?忘れてるとは思えませんけど」


 待ちぼうけを食らってから既に20分は経過している。時間を決めなかった僕が悪いのだが約束した以上、須藤もホームルームが終わり次第来てくれると勝手に思い込んでいた。

 クラス内でも「今日行きます」という合図のように何度か目が合っていた。向こうとしても噂のことを話す覚悟みたいなものが必要だと思い、何度も見てくるのはその表れのはず。


「まだ完全下校時間まで2時間くらいあるけど」


「目的がある時の2時間とただ待っているだけの2時間って感じ方だいぶ違いますよね」


「分かるよ。私はそれが年単位だったけどね」


 この待ち時間は須藤が来れば終わるのだが先輩は当ての無い待ち時間を過ごしていた。その精神力は素直に感心してしまう。

 返答することも無く雨が降る窓の外を見つめていると、いつもは聞こえることのない廊下を誰かが歩く音がする。人の来ることが殆ど無いとは言え、僕たちの待ち人とは限らない。いずれ通過するであろう人を見極めるために鍵のかかった扉を見つめる。

 

 こちらへと向かってくる足音が教室を通過しようとした時、教室の方を伺いながら歩いてきた須藤と目が合った。扉越しではあるがほっとしたような表情を浮かべて扉を開けようとする須藤だったが、掛けられていた鍵に阻まれて教室に入ることが出来ず僕の方を見つめてくる。


「雪くん、教えてあげないと」


「慣れすぎてて忘れてました」


 慌てて椅子から立ち上がり入り口の方へと向かう。扉があっても声は聞こえるのでいつもより少しだけ大きな声を出しす。


「そこの鍵開かないから向こう側から入って来て」


「分かった」


 指を差した先には反対側の扉。須藤はそれを確認すると小走りで移動し、中に入ってきた。約束通り来てくれたことにまずは安堵する。


「ここ勝手に使って良かったの?」


 辺りを見回しながら聞いてくる。確かに誰の許可も取らずに毎日入り浸っている。須藤が告げ口をしなければ問題はない。


「分からない。怒られるとしたら一緒によろしく」


「巻き込まれ事故じゃん」


 2ヶ月ほど毎日のように使っているが教師が来ることは無い。今まで起こらなかったことが今日も起こらないという保証はないが、割合としては高くないだろう。

 須藤は適当な椅子を引き、なぜか僕がいる机から席を一つ分離した所に座った。特に座る場所の指定もしなかったのだが少しだけ避けられているように感じてしまう。

 須藤はスマホを机の上に置く。スマホカバーには自分の名前のキーホルダーが付いており、机の上でジャラリと音がなった。


「スマホに付けるキーホルダーとしては珍しいね」


「自分のものには名前を書いておく主義なの。スマホには書けないからキーホルダーで我慢してる」


「ふーん。偉いね」


「無理に会話を続け中でも良いよ。こんなのただの癖だし」


 小学生の頃なら自分の持ち物に名前を書いて使っていたが高校生になってもそれをやっている人は稀だろう。どんなものにも名前を書くのは恥ずかしく感じてしまう。


「一応先に言っておくね」


 スマホのストラップを弄りながらこちらを見ずに須藤は語りかけてくる。相槌を打つこともせず聞き役に徹することにした。


「この前はいきなり怒鳴ってごめんなさい。言い訳にしかならないんだけど私も結構気にしてることがあって、気が立ってたっていうか。とにかくごめんなさい」


 須藤から謝罪の言葉を貰ったが、その件は既に心のなかで整理がついている。手紙を送り合ったことで水に流したのだ。 


「それは手紙で聞いたよ」


「それでも直接会って言わなくてもいい理由にはならないでしょ?私の心をスッキリさせると思って受け取ってよ」


「そっか。それじゃ僕もちゃんと話せなくてごめん。喋るの苦手でテンパっちゃったんだ」


「これでおあいこ。本題に入れるね」


 僕と須藤は互いに黒板の方を向いており、相手に向かって体だけではなく顔も向けないで話し始めた。顔を見ないで話す事で緊張すること無く自然に話せていると思う。いつでも使える方法ではないが須藤もこちらを見ていないので問題ないだろう。

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