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「アンナ出かけるわ」
アンナをベルで呼び出し、そう告げる。
「お出かけですか?
寝込んでいらっしゃったので、もう少しお休みされたら」
「いつまでも寝込んでいると、気分が落ち込むの、
王宮の庭には丁度花が咲いていて、
王妃様に勧められていたのよ、
次のお茶会の話の話題にもなるし行っておきたいの」
「そうですか、気分転換も必要ですね」
そう言って、髪を結うメイドを呼んでくれる。
アンナには花が見たいと言ったが、
実際には花は目的ではない。
私の目的は黒の魔女。
本の内容はだいぶ変わったはず。
そうなればもう黒の魔女も現れないかもしれない。
それに、読んだ本にそっくりと思い込んでいるだけで、
実際には違う世界かもしれない。
とにかく、一度本の通りにしてみよう。
黒の魔女が本当に現れるのかどうか・・・
私は王宮へ行く、国でも人気のデザイナーのドレスに着替え、
花を見るので、大きな帽子も被って出かける。
馬車に乗り、王宮へ向かう。
そうよ、こんなに物語が変わったのだもの、
私自身も変わった。
第二王子の思う通りにはならない。
自分に言い聞かせながら王宮に向かう。
見知った王宮勤めの人達に挨拶をしながら、
庭園のある所に向かう。
王宮の庭園に入れるのは、一種のステータスだ、
なので、いきなり庭に行きたいと言っても、
誰も不思議に思わない。
例え公爵家に立派な庭があったとしても。
薔薇のアーチを抜け、庭園に踏み込む。
魔女はいない・・・
そう思い込もうとしても、心臓はばくばく言う。
あえて傍には人をつけず、1人で歩く。
本来公爵令嬢としては考えられない事だが、
王宮の庭ならではの事である。
薔薇を中心に、赤の花ばかりのコーナーなど
いろんな所をゆっくりと歩いていく。
「大丈夫よね」
そう呟いた時だった。
「あら?何がかしら」
いきなり声をかけられ、思わず振り返る。
そこには妖艶な姿をした黒ずくめの女性がいた。
シンプルな黒のロングドレスに足には長いスリット、
この世界ではワンピースのようなドレスはないので、
この服装からしても黒の魔女に間違いないだろう。
何となく、黒の魔女と聞いて、
長い鼻の腰の曲がった老婆をイメージしていた。
しかし、実際現れたのは、峰〇二子も真っ青な、
ナイスバディな美女。
垂れ目で、泣き黒子があり、セクシーさが溢れている。
「ふふふ、良い事教えてあげる。
貴方は他人の魔法が奪えるの。
その力を利用したら、アホンダラ王子の愛を取り戻せるわ」
本の通りのセリフに呆然となっていると、
いきなりぶわっと風が吹き、
花びらが宙を舞った。
いきなりの出来事に目を閉じ、
慌てて目を開けると、そこには誰もいなかった。
心臓がばくばく言っている。
黒の魔女が現れた!
どうして!
どうして!
どうして!
あれだけ行動を変えたはず。
これは本の強制力?
このままだと、私と私の家族は断罪されてしまうの?
そんなはずはないと思いながらも、
絶対にそうではないと言い切れない思いに捕られる。
恐い。
第二王子が、
この世界が、
全てが、
私どうしたらいいの?
美しい庭、優しく咲く花。
しかし、私の心は色を写さず、全てがモノクロに見えていた。




