1-6(父と兄達視点)
「婚約破棄か」
「ふざけた真似を」
リリアーナの前とは打って変わって、
落ち着いた低い声で会話がなされる。
レオナルドがぼつりと言う
「アンナに聞いたのだが、リーナは泣きはらした目を
していたらしい」
父のセルゲイの声も低い
「女性にとって結婚は大事、
しかも子供のころから教育まで受けてとなると、
相当なものだろう」
「どちらにしてもアホンダラ王子は許せないですね、
なんらかの対応をしないと」
リリアーナには絶対に見せないであろう顔をして、
長兄のアレクセイが続ける。
「しかし、我がロシェット家は第二王子派だ、
公爵家4人のうち、2家づつつく事でバランスを保っている、
政治的な関わりもある、
リリアーナの事だけで判断はできない」
セルゲイが公爵家当主としての立場から発言する。
リリアーナの事は何より大切に思っている、
しかし、リリアーナは公爵家を誇りに思っている。
例え自分の為であっても、公爵家に不利益になる事は、
リリアーナが許さない事は良く知っているのだ。
「第一王子派につけばいい」
アレクセイの言葉に皆が黙る。
筆頭公爵家が第一王子派につく、
それは第一王子を次期王として決めてしまうも同意義だ。
第一王子は決して悪い人物ではない。
勤勉で有能だ。
ただ、真っすぐすぎるというか、
人の裏を読んだり、操ったり、利用したりするのが苦手だ。
どちらかというと、その辺りはアホンダラ王子の方が向いている。
今は両方の力を拮抗させて、
相応しい方を次期王に決める、
それが王家と4大公爵家の総意である。
しばらく無言が続くなか、トントンと戸を叩く音がする。
「誰だ」
セルゲイが言うと、扉の向こうで声があった。
「セバスチャンです」
3人は顔を合わせ頷きあう。
「入れ」
セルゲイが短く告げる。
セバスチャンは恭しく胸に手を当て、
部屋に入ってきた。
「リーナお嬢様から伝言です」
「何だ」
「リーナお嬢様は今後第一王子につくとの事、
その為、プリシア様の好きな物、嫌な物を調べ、
プリシア様と仲良くできるようになされるとの事です」
その言葉に、3人の目が大きく見ひかれる。
「それと・・・」
セバスチャンが声を落とした事で、
3人の集中が集まる。
「リーナお嬢様がサロンで聞いた話では、
ロザリア様の御父上が力を持ったのは、
カジノを始め、利益を上げているからとの事、
確かにカジノは合法ですが、
非合法でカジノをしていた連中には大層恨まれているとか、
その為、一部裏の人間と手を組み、
それをアホンダラ王子も利用しようとしているとか」
「ほう」
セルゲイが声を上げる。
裏の世界の人間も、確かに必要だ、
時には利用する事もあるだろう。
しかし、それはあくまで利用するという立場であってこそ、
手を組む事はない。
「ロザリア嬢か・・・
御父上も含め調べてみる必要がありそうですね」
アレクセイが楽しそうに言う。
「確かに、ロザリア嬢を妃に迎えた所で、
玉座が近づく訳ではない、何か裏がありそうだ」
レオナルドも好戦的な笑顔を浮かべる。
「リリアーナはプリシア嬢と仲良くすると言ったのだね」
セルゲイが確認する。
「はい」
とセバスチャンが頷く。
セルゲイの胸の内が第一王子派に大きく傾く。
今は決断する時ではない、
しかし、第一王子と裏で接触し、
アホンダラ王子とはそれとは知らせず縁を切るか。
リリアーナの言葉は、
確かに小説とは違うストーリーへと話しを進めていった。