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自分の部屋に戻ると、専属メイドのアンナが、
すぐに私の所にやってきた。
髪を結うメイド、化粧をしてくれるメイド、
パーティの時セットしてくれるメイドなど、
時々には専門のメイドもいるが、
普段はアンナ1人が私を担当している。
その分、このお屋敷でのアンナの存在は大きい、
もちろん私にとってもだが。
「お嬢様・・・」
アホンダラ王子との婚約破棄を知ったのだろう、
少し困った顔をしている、
アンナにはアホンダラ王子と一緒にいて、
どれだけ幸せかさんざん語っていたので余計だろう。
「疲れたの、お風呂に入ってゆっくりしたいわ」
「かしこまりました」
この世界でお風呂は贅沢だ。
普段は濡らしたタオルで拭くか、
平民は川に入って体を洗ったりする。
公爵家なら毎日お風呂に入るのも不可能ではないが、
そんな文化もないので、
パーティが終わった後や、特に疲れた時にだけ入る事にしていた。
しばらくすると、アンナがお風呂の用意ができた事を告げに来る。
浴室に向かうと、手を横に上げる。
公爵家の令嬢たるもの、自分で着替えたりしない。
元日本人の感覚が戻った今では、
いやいや自分で脱げます!
むしろ脱がしてもらうの恥ずかしいです!
と言いたいが、いきなり行動を変えると、
メイド達が戸惑うので、いつも通り脱がしてもらう事にする。
その後も、体や髪を丁寧に洗われ、
ここは高級エステサロン!と自分に言い聞かせる。
実際、お風呂上がった後、オイルでマッサージされたし、
あながち間違ってないよね。
ああ、天国~
そうして、頭の先から足の先まで綺麗になった私は、
まだ8時だと分かりながらも、もう寝る事にする。
「今日は、もう寝ます」
アンナは心底驚いたようだったが、
「かしこまりました」としか言わなかった。
いつもは王子妃に向けて、本をよんだり勉強したり
していた時間なので、
もうその必要がないと感じたのだろう、余計暗い雰囲気になる。
「アンナ、気にしないで」
アンナがはっと顔を向ける。
「アホンダラ王子は私を愛してなかった、
ただ、愛している演技をしていた、
それを今日知ったの、
だから良かったと思うわ、これから心から愛せる人と、
出会うきっかけになったのだから」
ねっと笑顔で言うと、
なぜかアンナはうるうると目を潤ませる。
「お嬢様!アンナはお嬢様の味方です」
「それは良く知っているわ」
「お嬢様は、世界一愛されるべきなんです!」
相変わらず私贔屓の言葉を嬉しく思いながら、
アンナを退出させベッドに向かう。
布団に入って、ほうっと大きく息を吐く。
怒涛の一日だった。
そうして体の力を抜くと、一気にリリアーナの気持ちが
沸きあがってくる。
子供の頃から、アホンダラ王子と結婚すると思っていた、
王子妃教育には真剣に取り組んだし、
この結婚が、家にとっても、国にとってもいいものだと、
自分の存在意義だと心から信じていた。
例え演技だとしても、
確かにアホンダラ王子は優しく大事にしてくれていた。
本当に好きだったのだ、
本当に・・・
そう思うと涙が溢れてくる。
リリアーナの為に、ここは心から泣こう。
愛していた、
誰より大切だった
ずっと一緒にいたかった
全ての気持ちを解放して、声に出して、
泣き疲れて寝てしまうまで、泣いたのだった。