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ロシェット家の門に到着する。
家が見えるが遠い。
いや、家という表現に語弊があるだろう、
お屋敷と表現すべきだ。
それも当然だ、王族に次ぐ貴族、公爵家。
私が魔法を使えないせいで、第二王子と婚約していたが、
それさえなければ間違いなく第一王子と婚約していたであろう、
ぶっちぎりの筆頭公爵家なのだ。
我が家は代々強い権力を持ちながらも、
極力争いを避け、
民の生活が向上するよう心を砕いてきた。
なので王族からの信頼が厚いばかりではなく、
民からも人気も高い。
そんな公爵家の一員である事は私の誇りだ。
第二王子が、魔法が使えないと分かっていても、
私を丁寧に扱うしかなかったのも頷ける。
大きな白い門が開き、庭へと入る。
しかし、私はまだ馬車に乗ったままだ。
門から住居があるお屋敷まで、
幾何学模様に刈られた樹木が植えられ、
大きな噴水、女神の像などがある。
そらを馬車で眺めながら、お屋敷まで向かう。
リリアーナの時は何とも思わなかったけど、
こうして日本人の感覚が追加されると本当凄いわ~
赤坂離宮にいきなり住んで下さいと言われるような感覚?
とにかく、全てがスケールが凄すぎて、
庭でこれだと、屋敷の内部では、
芸術価値とか、資産価値とか、値踏みしてしまいそう。
屋敷の門の前に来て、やっと私は馬車を降りる。
従者が恭しく手を差し出し、私はその手を取って降りる。
大きな扉が開き。
おおおお~と言いたいのを何とか抑え屋敷の中に入っていく。
「セバスチャンはいるかしら?」
いきなりの私の言葉に、控えていたメイドは驚いたようだった。
「お呼び致しましょうか?」
「ええ、お願い」
私の言葉を受けて、競歩かと思われるスピードで、
しかし、優雅さは失わないという、
器用さを発揮してメイドが去っていく。
私はそのまま玄関先で調度品を眺めていく。
絵1つとっても、芸術性が高く、
恐ろしい価値のある物なのだろう。
玄関に飾る程の物だしな~と、じっくりと眺めていく。
そうしていると、同じく競歩の歩みで、
セバスチャンがやってきた。
「リーナお嬢様、お呼びでしょうか」
私は無言でアホンダラ王子のサインが入った書類を、
セバスチャンに渡す。
「これは!」
流石にセバスチャンも驚いたようだった。
「お父さまと・・・そうね2人のお兄様とも
お話がしたいの、そう伝えて下さる?」
「すぐに手配致します!」
元々我が家の侍従、メイドは私に甘い。
公爵家の忠誠以上に、自分の娘のように、
大事に誇りに思ってくれている。
それを知っているので、気心が知れた、
一部の使用人には愛称のリーナと呼ぶことを許し、
セバスチャンはその許しを得た1人だ。
いつも好々爺としているセバスチャンが、
心底怒っているのが分かる。
そんなセバスチャンを嬉しく見ながら、
小説での私はプリシア様を傷つけ、
皆を苦しめてしまった小説の自分を振り返る。
私の事だけでなく、皆も守らないと!
私は強く決意する。
大切な人達、私は1人ではない、
小説の強制力がどこまで働くか分からないけど、
やられっぱなしですますもんですか!
大きな窓から光が差し、
玄関を美しく照らし出し、
私の決意を讃えてくれているようだった。