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王子の言葉に、ついまじまじとアホンダラ王子を見てしまう、
そんな私に満足そうにしながら、
ロザリアの方へと向かっていった。
もう私には用がないというように。
私はどっどっと高鳴る胸の音を、
何とか抑えようとする。
そう、今まで私なら、先ほどの言葉で
プリシア様を排除しようとしたでしょうね。
アホンダラ王子は狡猾だ。
そうして、私にプリシア様を攻撃させて、
その罪を着せ私を処分する。
プリシア様は地位を失い、私も地位を失う。
そして、自分はロザリアと王座へと向かうのだ。
そう冷静に考えられるのは、今までの私ではないから。
ついさっき、婚約破棄を突き付けられた時、
日本人のOLだった時の記憶が蘇ってきた。
私、リリアーナ・ディ・ロシェットはまだ16歳だが、
34年生きた女性の記憶がいきなり入ってきたのだ。
プラスして50歳!
そりゃ、今までも私とは違うってものよ。
とは言っても、リリアーナとしての記憶、経験はそのままなので、
そのまま生活していくのは問題ない。
転生していきなり婚約破棄はどうかと思うが、
まあ、あのアホンダラ王子と結婚してもどうかと思うので、
まあ良かったと思おう。
それにしてもアホンダラ王子って・・・・
今まで名前に違和感感じた事なかったけど、
こうして転生してみるとすごい名前。
なんか作者の悪意を感じるような。
そして、この名前が使われた小説に心当たりがある。
未来の事を知っている事は、
私にとって物凄い大きな事だ。
そう、本来ならこのままプリシア様を攻撃して、
私も断罪される事を知っている事は。
ふふふ・・・そう思い通りなってたまる物ですか、
きっちり証拠(婚約破棄の書類)ももらったし、
やっぱこの辺はOL時代の経験が生きてるんだよね。
とにかく書類、書類。ハンコ、ハンコだったし。
そんな事を考えながらもしずしずと廊下を歩く。
あまりにも考え事をしていたせいで、
「リリアーナ様、大丈夫ですか」
と声をかけられてしまい、
婚約破棄で落ち込んでいると思われてしまった。
この辺の誤解はありがたく、誤解されたままでいよう。
私は深窓の令嬢らしく
「大丈夫ですわ・・・」
と弱弱しく言う。
OLって時には演技力も大事なのよね、
時にクレーム対応の時とか。
そんな事を考えながら、馬車に乗り、
家へと向かった。